The Marrige03



「いや、そうじゃなくてさ・・・。
大体なんで車ぶった切って、結婚の相談話になるわけ?おかしくない?」

「女は、話を聞いて欲しい生き物であるから・・・な。」

「・・・で、その黒こげた車がどうしてキャデラックになるわけ?」

「聞きたいか!?」
「聞きたい!!」

キラキラと目を輝かせるフィオナの顔を満足げに眺めたミホークは
後部座席の背もたれに寄りかかると、風を浴びながらあご髭を撫でた。


「あれはそう、ほんの数時間前のことである・・・。一人の勇敢な、ロシアの剣豪が
テキサスの夜明けを悠然と眺めていた。」


そうあれは数時間前、ロシアのキチガイはマリモ頭を連れ立って
ダイナーを目指して歩いていた。

「テキサスとは・・・広いな。」
「ああ、ごちゃごちゃ言ってねえで歩け、オッサン。」
「兄弟、貴様は何故に東を目指す?困り事か?」
「お前には、関係ねェ。」
「車を壊したついでだ、相談なら聞くぞ。」

車を壊した代償を悩み相談で片付けられるものならば
この世界は平和で極まりないだろうと目を宙に泳がせたゾロは
数歩前を歩くミホークに無言の異議を唱えるも、足を止める様子も無い。

「はぁ・・・じゃあ、なんで国際指名手配なんだ?」
「アメリカ政府の秘密を握っているからさ。」

「・・・どういうことだ?」
「そういうことだ。」

ミホークは振り向きもせずに、淡々とそう答えた。
兎にも角にも、よくもそうリズミカルにホラを吹けるものだと
ゾロは関心の笑い声を上げながら、未だ見えぬダイナーの灯を探した。

「里はどこだ、兄弟。」
「・・・フェニックス。」
「そうか、たまには帰っているのか?」
「ああ、月に一度は帰ってる。」
「そうか、それが何よりの孝行だ。覚えておけ、土は国なり、国は人なり、
故郷はいつも、そうしてお前の帰りを待っているのだ。それを失うのは
自らそれを捨てた時。捨ててはならんぞ、自分の踏みしめるべき土をな。」

「捨てられたら・・・どんなに楽か・・・。」


重みのあるミホークに言葉に、ポロリと本音を吐いている自分に
ゾロは驚いた。
そして、鮮明に頭に浮かぶ故郷の町並み、雄大な大地。
包まれて育ったはずなのに、いつしかそこに帰ることに罪悪感を
感じて次第に帰ることが辛くなっていく、小さな自分の姿が頭を巡った。


「フィオナにも帰るべき場所がある。いいか、彼女の望むままの場所に、帰してやれ。」
「どういうことだ。」
「そういうことだ。」


ダイナーの光が見えた頃、ミホークの更なる疑問を呼び起こす発言に
ゾロは眉をしかめた。



静かな店内に響き渡る来客ベルの音に、厨房の奥から出てきたのは足グセの悪い
ウェイターのヨジ。

「電話を借りるぞ。」
「ん、勝手にしろ。」


ミホークは真っすぐに電話に向かい、慣れた手つきでボタンを押した。

「何処にかけてんだ?」
「しーっ・・・。ああ、私だ。まったく、テキサスの悠然な大地を堪能しながら
走っていたというのに、急に爆発しおって。けしからん。すぐに車をよこせ。」

どういうわけか、冷静に電話相手に怒りをぶつけ始めたミホークは
相変わらずあご髭を撫でながら、ゾロにウィンクした。

「ロールスロイスが壊れたとあっては、まあ極東でのシェアも望めないな。
30分以内に用意しろ。ちなみにオープンカーがいい。できるだけ大きい、派手なのが。
場所は30.307874,-103.993514。」

チンっと電話を切ると、ミホークはぐっと親指をたててゾロを見つめた。

「30分で車が来る、フィオナを追うぞ。」
「マジかよ・・・。」

ミホークはダイナーの冷蔵棚からビールを取り出すと、ゾロに放ってよこした。

「さあ、飲め。もっと気楽にいこうではないか。」
「お・・・おう。」

頼もしい車の手配にゾロも関心し、流されるままにビールを開けた。

「お前のような堅物は、酒でも流し込まんと告白の一つもできんだろう。」
「告白て・・・そんなんじゃねェよ。」
「もっとドラマみたいなものが見たいんだ、オレは。青春白書みたいなのが。」
「テレビでも見てろよ、オッサン。」


心地よく酔いはじめた頃、大型ヘリがダイナーの前に着陸した。
ヘリから飛び降りた背の低い男は困り顔でミホークに詰め寄ると、唾を飛ばしながら
ぴょんぴょんと飛び跳ねた。


「ジュラキュールさん!あんたいい加減にしてくれ!今年で何台目だと思ってんすか!」
「壊れる方が悪い。して、車は?」
「コーニッシュを30分で準備できるわけないでしょう!!しかたないのでキャデ持って来たっす!!」
「うむ、悪くない。行くぞ、兄弟。」


小走りで追いすがる男を振り切り、ミホークはヘリから降ろされた車に飛び乗り、
ゾロもそれに続いて車に乗り込んだ。
外も中もピカピカに磨かれた夢のような車に満足したようにゾロは微笑み、
豪快にエンジンを吹かした。

「ジュ、ジュラキュールさん・・・いいですね、ロールスロイスは壊れません!!」
「うむ、心得た。」
「これ、車検証と・・・登録・・・ちょと、車止めて!」
「いらん、捨てておけ。」
「ジュラキュールさん!!ちょ・・あのちょっとぉぉおおお!!!」








「あっはははは!!傑作だったぜ、あの男の顔!」

陽気なゾロはふらふらと車を蛇行させながら、気持ち良さそうに話す。
空になったビールを外に放ると、フィオナの肩を抱きながら更にアクセルを踏み込んだ。

「行くぜェまいあみまで。おまえのことさいごまでまもってやるからあんしんしろよぉ
おまえも150まんどるももってかえるんだぁっははは。」
「え、ちょっ・・・ゾロ酒臭いよ。大丈夫?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。」

フィオナは不安げにミホークに向かい振り返るも、こちらも気持ち良さそうに
笑っているところで、命の危険を感じた。

「ダメ、ダメダメ。止めてゾロ。私が運転するから、」
「「だいじょーぶだいじょーぶ」」
「止め・・・ろって!!」

フィオナは強引にゾロの脚の間からブレーキを踏むと、タイヤからは煙が上がり
車は横向きに滑るようにして止まった。
酔った二人はハイタッチをして、何もかもが楽しそうな様子だった。

フィオナはゾロを後部座席に引きずり込み、ため息まじりで運転席に陣取りギアを握りしめた。


何故だか自然に笑みがこぼれた。
どんなに危なくても、どんなに怖くても
心は踊るようで、楽しくてしょうがない。

とてもじゃないが、今は言葉すら通じない二人に心の中だけで
感謝を込めて、フィオナはアクセルを全開に踏んだ。

[ 26/43 ]

[*prev] [next#]
[もくじ]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -