The Marrige02







「すまない。」
「すまないって、どーゆーことだ?」

ゾロはミホークに促されるまま行けば、
燃え盛るガソリン臭い物体のそばまで来た。

「車なんだがな・・・」

手首から指先までをピンと整えたミホークの右手の
その先の物体は、どうやら原型をとどめない、あのステーションワゴンのようで、

「ぶった切った。」


「なんでだぁああああ!!」


「いやはや、車で寝ていたらな既に走り出していてな。
見覚えのないお嬢さんが運転しているものだから、
これは一大事!とな、して兄弟、君の和道一文字でぶった切った。
よくよく聞けば、お嬢さんはフィアンセとの結婚が不安になり、逃げ出したそうなのだ・・・かわいそうに。」
「だからなんで車を?かっ、刀は無事か?」
「ああ、この通り。」

ミホークが刀を差し出すと、ゾロはやっと意識を取り戻したかのように、
そして珍しく神経質に刀に炎を照らし、刃先から柄までを丹念に確認した。


「剣士たるもの、刀は常に携えておけ。」
「・・・ああ。」
「ふっ、礼などいらん。」
「あ?ふざけんなよ、車は?どーすんだよ・・・」
「・・・さあ。」




怒鳴ろうが喚こうが、このミホークの前ではなんの解決にならないという、
この世の真理に頭を抱えたゾロは、どうせなら喚こうと声を上げ、
枯れた大地を蹴り飛ばした。


「ときに兄弟、フィオナは?」

ミホークの素っ頓狂な物言いにゾロは振り返り、
当り散らすように胸ぐらにつかみかかって行った。


「俺も・・・お前も・・・フィオナも・・・もう関係ねえんだ!
いいか、メンフィスでもモスクワでも、もう勝手に行ってくれ!」

「何があった?」

「・・・何もっないっ!!」


ゾロの姿に変化を感じたミホークは
ため息をつきながら、今日は皆から頼られる日だなあとでも言うかのように
星空を仰ぎ見た。


「・・・車のことはなんとかしよう、俺と一緒に来るんだ。」

「どういうことだ。」

「兄弟、女は追われるのが好きだ。
追うぞ、フィオナを。」

「だから、もう関係ねえんだよ。」

「あの子の気持ちも汲んでやれ。あれは、お前が好きなのだ。」

「関係ねえ・・・関係ねえし、それはねえ。」



ゾロは乱雑にミホークを解放すると、改め見るその姿を睨みつけた。

どこか自信に溢れ、立ち上る炎に照らされるミホークの姿は勇壮で、
ゾロは自分とミホークとの大きな差を感じていた。

全てを捨て去ろうと決意したものの、全てを捨てきれないのが事実で、
見えない重圧がいまだに頭上から自分を押さえつけてる気がする。



「強くなれ、ロロノア・ゾロ。」

返す言葉も無く呆然と立ち尽くすゾロの後姿に、
話しかけにくそうにサッチが歩み寄れば、ミホークはニヤリと口元を緩めた。


「あのーゾロ?俺たちもう行くから。」
「はあ?行くっ・・・て。」
「いや、ユキアも結婚・・・決意してくれたしさ、俺たちもう行くわ。」
「ごめんねゾロ。いろいろ迷惑かけて。」


手をつないで微笑む二人の姿は、今までそこで起こっていたことは帳消しで
と訴えかけていて、ゾロは震える拳を握り締めた。


「ちょ・・・おい、ユキアとか言ったよな。テメー人の車盗んでおいて・・・どーゆーつもりだコラ。」


「マリッジブルーって言うの。しかたないの。」
「そういうことだゾロ、勘弁してくれ。」

「『はいそうですか』で行かせるわけにはいかねーだろ。」


ゾロの凄みもお構いなしに、二人は手をしっかりと握り合ったまま、じりじりとバイクの方へと下がっていた。

「いやいや、ほら、善は急げ?って
言うじゃん。だから俺たち・・・。」
「そうそう、もういかなきゃ、またね!ゾーロ☆」
「またな!ゾーロ☆」

「ゾーロ☆じゃねえよおい!待て!俺たちはもうアシがねえんだぞ!」


「逃げろっユキア!!」
「はっはははは!サッチ早く!!」


絵に描いたような幸せを目の当たりにさせられ、ゾロはバイクに飛び乗り走り去る二人を見送る他なかった。


旧知の友、憎めない彼はいつでも笑っていて、それこそがサッチという自分のよく知る男なのだと、ゾロは不思議と心が休まっていくようで、安堵のため息すら漏らした。




騒がしいサッチが騒がしいユキアと一緒になるのは当然であって、騒がしい二人が騒がしい幸せを享受しお騒がせカップルであり続けることに何の違和感もない。

プライドの高い脹れっつらの自分の場合はどうだ、と考えたとき、一番に頭に浮かんだ顔が、悲しげにこちらを見ている気がした。

はるか遠くの、空から。




遠ざかるバイクの音に背中を押されるように
ゾロはゆっくりと歩き出した。

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