The Marrige


「ひとつ、いいか。」


「な、なによ。」


「貴様、己の幸せだけを考えておるな、もはや貴様の未来に、
そのクソリーゼントという男はおらぬ。
ならば、一生を添い遂げようなど・・・俺が許さん!」

「おじさん、クソリーゼントじゃなくてサッチね。」

「と に か く 、許さん。」

「・・・つか、なんでおじさんの許可取らないといけないのよ。おかしくない?」

「何がおかしい。結婚すべきか否かを悩んでいたのは貴様だろう。
結婚の道を根絶やしにしてやろうという、俺の好意に楯突くか。」

「いや、そうじゃなくて。アドバイスが欲しいのよ。」

「だから!悩むくらいならやめろと言っているのだ。」


ギロリと鋭い鷹の眼の説得には、他にない覇気がこもっていて、
まっすぐにその言葉を受け入れるユキアは自嘲を含むような笑みをこぼした。

「そっか・・・。ははは、今まで友達に相談しても、
そんなに強く言われたことなかったな・・・。」

空っ風の吹く道すがら、道ばたに座り込み髪をかきあげるユキアとは対照的に、
ミホークはじっとユキアを凝視し、無表情のままでいた。


「どうしてだろう、結婚なんてただの紙切れ
一枚の話なのにさ。」

「まったくだ。」









はるか前方に立ち上る煙に、サッチは直感でそこにユキアがいると感じていた。


ダイナーですべてを失った感覚に対し、今度はそれを取り戻す手ごたえのようなものを感じたのだろう。
サッチは愛車の放つエンジンの熱をさらに高め、まっすぐにそこを目指した。

一方のゾロは、そんなサッチとは対照的に暗く澱み行く己の心に飲まれたまま、
揺られるバイクの後座で流れるままの夜風を浴びるだけだった。



次第に、静寂に満ちていたミホークとユキアの元にも
その派手な破裂音の連続が届き始めた。
小さなヘッドライトを見ただけで、それがサッチであることがわかる、
ユキアは立ち上がり、受けて立つとばかりに腕を組みぐっと歯を食いしばった。


「ユ・・・ユキア!」

バイクを乗り捨てるような勢いでユキアに駆け寄りひざを付くサッチに、ユキアは至極冷たい視線を落とした。

「・・・ユキア、あの・・・ご、ごめんな。」

言葉に詰まりながら、ずりずりとユキアにすがりつくようなサッチの姿に、ミホークは
それが先ほどの議題にあがっていたクソリーゼントであるとすぐに分かり、
ユキアとサッチの間に立ちはだかった。

「ゆ る さ ん 。」

「え?だ、だれ?」


「我が名はミホーク。弱きものよ、お前とユキアの結婚は、断じて認めん!」

「あの・・・え?ユキア?誰だこのおっさん。」

口を開かないフィアンセと、立ちはだかる仁王立ちのミホークを見上げる
サッチの目には涙すら浮かんでいた。

「この俺を超えてみよ!我が名は、」

「いや、もう聞いた!もういい!」



吹きすさぶ風がサッチのリーゼントとミホークの帽子の羽を揺らす。


つづいて流れ出るユキアのため息に誰もが耳を傾けた。


「わたし、サッチとは結婚できない。」

「・・・ユキア?」

「サッチは、これからもずっとその、危ない仕事ばかり続けるんでしょ。
それに私には子供を9人産ませて、自分はアメリカ中を走り回って・・・
そんな・・・。そんな生活・・・不安じゃない。」

ユキアの言葉に、音をたてて落とされた肩は地に着かんばかりの勢いで、リーゼントの
先端はすでに地をかすっていた。


「・・・サッチ、だから私、結婚はできな」
「できるっ!」

サッチのその声はまるで、いままで走ってきたハーレーのように、
破裂するような勢いのある声だった。

その声にミホークも思わず飛び上がり、少し身を引いた。


サッチはまっすぐに背筋を伸ばし立ち上がると
今までにないほどに強い視線をユキアに送り、こぶしをにぎりしめた。


「それが、俺だ!俺が世界一のバウンティハンターになるっつたら、なるんだよ!
ユキア!お前はついてくりゃいいんだ!
おまえがそうやって、俺が嫌になって逃げ出しても
俺は・・・俺は絶対お前を見つけ出す。
お前が不安になったら、背骨が折れるまで抱きしめてやる。
お前が楽しいときは、誰よりもデカい声で一緒に笑ってやるよ。」

涙をこらえるようなその声が、枯れたテキサスの大地に響き渡るようだった。

聞いていたミホークもそっと目を閉じ、大股でその場を離れた。



「・・・情けない格好見せて悪かったよ、あんなの俺じゃない。わかってる。
お前だって、そんな一人で塞ぎこんで逃げ出すような女じゃねえのも分かってる!
なあ、ユキア・・・
来いよ・・・一緒に。」


「サッチ・・・。」



ユキアはまっすぐにサッチの顔を見据え、サッチから放たれる言葉の一つ一つを飲み込むように聞き入った。

その場にいるだれもがユキアの言葉を待っていた。

沈黙を切り裂いたのは、迷子のゾロだった。

「あのさー、車は?」

「・・・ゾロ、俺の話聞いてた?今の大事なとこ。」

白目をむいて振り返るサッチを気にも留めず、ゾロは
あたりを見回しながらため息をついた。

「それは後にしてよぉ・・・。」

「はぁ、しかたがない。来い、兄弟。」

ミホークは残念そうなため息をつくと、どこか放心したような様子のゾロを手招きし、
サッチにはウィンクを送った。

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