The Brown Field




感動的に青い空に向かうように
一台の車はニューメキシコとテキサス州境を越えて行った。


ステレオからは変わらずカントリーミュージックが流れ、
特に好みでもないのだが、そのテキサスの大地を進んで行くには
何となくうってつけで、ゾロは片手でハンドルを押さえながら
鼻歌まじりで真っすぐに車を進めていた。

一方のフィオナは、ロズウェルを出て以来黙り込んでいた。
サングラスを外すことなく、じっと右の窓の外、流れて行く景色を眺め
ため息をついたかと思うと、急にガサガサを脚を掻いたりとの繰り返しだった。


チラチラと、そんなフィオナを覗き見ながら
ゾロは聞いておきたいことがあっても、声がかけられなかった。

クロコダイルに暗闇に連れ込まれてからというもの
フィオナは口も開かなければ、目も合わせない。
地図も開かない。

フェニックスを出てからの彼女の不可解な行動と、何より、この道が合ってるのか、全く自信がなかった

「ややっ、やややや。兄弟!これは・・・。」

トランクからひょっこりと顔を出したミホークは、後部座席に積まれた荷物を
ガサガサと漁りながら、急に声を上げた。

「人の荷物漁んなっ!オッサン!」

「これはっ、ヤパニーズソード!」
「ジャパニーズな、刀な。その態とらしいロシア語訛りやめろっ。」
「・・・見事。どこで手に入れた。」
「恩師に貰ったもんだ、あんまり外に出さんでくれ・・・、大事なもんだ。」
「ほほう、いや!俺の夜に比べたら・・・。」

口角を上げ、前のめりにゾロの顔を覗き込んだ
ミホークは、さっと自分の背中に手を回した。

「・・・おや?」
「背中の剣か?クロコダイルが持って行ってたぞ。」
「何っ、兄弟が・・・。一体どうしてっ。」
「知るかよ。」

ミホークは蚊のような声で、ぶつくさとクロコダイルの文句を言いながらトランクに潜り込んで行った。


ともあれ、ミホークは沈黙を切り裂いた。
それに乗じ、ゾロはフィオナに話しかけるきっかけを掴んだ。

「なぁ、お前、金持ちなんだろ?」
「え?・・・ああ、うん。」
「なんで金が必要なんだ?」
「え、わ、私は必要ないよ。必要なのはゾロでしょ?」
「・・・はぁ?」

ゾロは眉間にしわを寄せ、振り返ったフィオナを睨みつけた。
フィオナも、何を今更言うかと言わんばかりの表情でゾロを睨み返し静止した。

「・・・クイナのことか。」
「そのために仕事してるんでしょ。」
「んっ・・・お前には関係ない。」
「関係無くはないでしょ、一緒に旅してんだから。」

フィオナはパッと表情を明るくして、身体ごとゾロに向き直り
サングラスをはずした。

「私さ!仕事、したことないから何か楽しくてさ!それに、助けたいし。」
「助けたい?なんで、お前が。」
「・・・ゾロが助けたい人を、私も助けたい。」

言いにくそうに、少し隠ったようなその声が、彼女の真剣さを感じさせた。
結果がどうあれ、彼女をマイアミで降ろす。それがこの旅の目的であり、それによって自分は
目標の金額を得ることができる。
そのときゾロは、フィオナにそのことを打ち明ける気にはなれず、
打ち明けられないことに対しての罪悪感を覚えた。

「・・・そっか。」
「うん、え?それだけ?」
「・・・いや、やっぱお前には関係ない。俺のことは気にすんな。」
「ナニソレっ!!ありがとうとかさ、がんばろうねみたいなの・・・っないの!?」
「・・・あぁ、別に頼んでねえし。」
「はぁあああ?・・・あーもう、イラつく。ほんとイラつく。」

フィオナは血の上った頭を少し冷えた窓に押しつけ、腕を組んでまた黙り込んだ。

ゾロはやはり、言う訳にはいかなかった。
この闇の仕事をしている以上、物であろうが人であろうが
依頼品が到着した先で幸せになるようなことがあるだろうか。

ましてや人だ、そして女だ。

殺されるようなこともあり得るし、生かされても何が彼女を待つのか。
どう考えても、全ての可能性はハッピーエンドを指し示さない。
ジンベイの目的は?フィオナの150万ドルの価値は?



知ってどうする?



知れば、気持ちが揺らいでクイナを救えないかもしれない。

ゾロはハンドルを強く握り、ただひたすら青い空と黒い道が真っすぐに続く380号線を
スピードを上げて車を走らせた。


やがて、頭上を通りゆく太陽とすれ違うように、長く重い時間が車内を流れていた。
ゾロに芽生えた新たな悩みは、メンフィスへの道順という不安をどこかへ吹き飛ばしていた。
無意識に三叉路を右に曲がり、夕日が西に傾くまで真っすぐに車は走る。

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