The Roswell03

「やっと起きたか、兄弟。」
「うむ、クロコダイル。お前も来ていたか。」
「アァ?何言ってやがる。サンディエゴで会うはずだったのが誘拐されやがって。」
「誘拐?オレはビーチに居たお嬢さんに誘われて、何やら厭らしげな宴に招待され・・・」
「それを誘拐と言うんだ。しかも自分で付いて行きやがったな・・・まァいい。」
「ここはどこだ。」
「ロズウェル。」
「そうか、モスクワからはどのくらいだ。」
「知るかよ。」

クロコダイルに胸ぐらを離され、少しよろめきながら立ち上がった
これまた長身な元死体はぐるりとあたりを見回し、ため息をついた。

「残念だが、俺は仕事が入った。」
「何だとっ!ではオレはここからどうすれば!」
「あいつらが連れてってくれる・・・フィオナ!!」

急に大きな声で呼びつけられたフィオナは、死体が生き返ったのを目の当たりにして
足が震えて動けなかった。

「クックック…兄弟を運んでくれ、報酬は1000ドルだ。」
「えっ・・・そ、それだけ?」
「アァ?不満か?なんならココで身体売るか、50ドル追加だ。」
「バッ、ばかにしないでよ!!」
「クハハハ、冗談だ。」

いきり立つフィオナを制止するように、ゾロは腕を差し出してクロコダイルを睨み付けた。

「期限は?」
「無い、好きなだけ時間をかければいい。」
「目的地は?」
「メンフィスだ、エルビスの墓参りと観光がしたいそうだ。」
「・・・ハァ?」
「おお、そうだ・・・フィオナ、ちょっと来い。」

クロコダイルはフィオナの腕を掴むと、駐車場の隅に建てられた
格納庫の方へと歩いて行った。
フィオナは不安げな顔をゾロに向けるも、ゾロはどうしてだかその場から動くことはできなかった。


「エルビス、好き?」


唐突にかけられた言葉に振り返ると、腕を組んでふんぞり返るオッサンが
ゾロを覗き込んでいた。

ゾロはゆっくりと首を横に振り、またフィオナたちの消えて行った方を見つめた。



「オメーは俺を知らない・・・だが俺は知ってる。」
「・・・何?ヴェガスで会ったかしら?」
「いや、別な場所だ・・・。ジョーカーは元気でやってんのか。」
「関係ないでしょ、やめてよ・・・それ。」

クロコダイルはゆっくりとフィオナの頬を撫でながら、また新しい葉巻に火を付けた。
ゾロたちからは見えない場所で、外灯の光も届かない場所で、その葉に付けられた
火が、クロコダイルを弱々しく照らす。

「なァ、フィオナ。俺と一緒に来ねェか?ジョーカーよりも、いい思いさせてやるぜ。」
「・・・行かない。」

頑なに顔を前に向けずにフィオナは頬をぶっと膨らましていた。
不意に掴まれた両頬がブっと間抜けな音をたてたとき、いままで痒みだけが
襲っていた脚に痛みを感じた。

クロコダイルの片足はフィオナの両足を押さえつけ、動きを封じ、
片手はフィオナの太ももを撫で付けたかと思うと、突然爪をたて、震える程に強く食い込んだ。

「脚・・・痛てェか?」
「・・・い、た、く、ない!」
「海に入ったな。皮膚が剥がれてんだろ・・・。」
「ひっ・・・!!」

更なる痛みを感じながらも、フィオナは歯を食いしばり抵抗の手段はないかと頭を働かせていた。

「ザマねえ、お前の為に全てを投げうったジョーカーも大したことねェじゃねえか。」

フィオナは掴まれていた腕を押しのけると、ギッとクロコダイルを睨みつけた。
その涙を浮かべた表情に、クロコダイルは不気味な笑みを浮かべた。

「だから・・・ジョーカーじゃないっ!」
「アぁ?」
「ジョーカーの名を・・・私のために捨てたんだ、だからジョーカーじゃない!!」
「人は変わらねェ…あいつはジョーカーだ。道化師だ。」
「ヤメロッ!あの人っ・・・あの人は・・・。」

フィオナの頬を伝った涙が、クロコダイルの手のひらにするりと入って行った。
両目から一粒ずつ流した涙を握りしめるようにして、クロコダイルはフィオナの身体を解放した。

「・・・ドフラミンゴと呼べと?」
「ぐっ・・・あっ、あの・・・。」
「悪かった、女の泣いてる顔を見るのが好きでなァ。」
「えっ?」
「俺はまっとうな宝石屋やろうと思ってんだ、まァ、気が向いたらいつでも来い。」

クロコダイルはそう言いながら、足早にフィオナの目の前を去って行った。





未だエルビスの話ばかりするオッサンにうんざりしたゾロは、避けるように車によりかかり目を閉じていた。
やがて、朝日の光を紫色に感じ始めた空港は、だんだんと飛行機のエンジン音が鳴り響き始めていた。

姿を現したクロコダイルは、ゾロに1000ドルを押し付けながら肩をポンと叩いた。

「お前、フィオナに何した。」
「鳴かせてみた。」
「・・・アァ。」
「クハハハ、そう怖い顔すんな。」
「オメーに言われたかねェよ。」
「じゃ、兄弟を頼んだぜ。」

クロコダイルは振り返ると、とぼとぼとこちらに歩いてくるフィオナを確認し、
今度はオッサンに語りかけた。

「達者でな、ミホーク。たっぷり楽しんで来いよ…クッククク。」
「ダスビダーニア、兄弟。次は一緒に、」
「行かねーよ。」

バタンとドアを閉めると、クロコダイルはそのままターミナルの方向へ車を走らせた。

沈痛な面持ちのフィオナは誰と顔を合わせることもなく、そのまま助手席に乗り込んだ。
ゾロは全くつかみ所のないミホークの為に、後部座席のドアを開けてやると、ミホークは
そんなゾロの気遣いもおかまい無しに、またトランクに箱を積み直し、その中に乗り込んだ。

「おい、オッサン。お前はこっちだ。」
「いや、オレはここがいい。」
「あのな、そんなとこに乗られてたら気がきじゃ、」
「国際指名手配中なんだ、ご配慮願う。」
「こ・・・ハ?」
「見つかると、厄介なのだ。君もわかるであろう、兄弟。」
「いや・・・ハッ!」


クロコダイルゥゥゥゥウウウウウウ!!!!!


そんなゾロの心の叫びもつゆ知らず、ロズウェル空港の朝一の便が離陸して行った。

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