The Brown Field02




「腹が減った。」

唐突に、ミホークはまたしてもゾロとフィオナの間から
首を突き出した。

「ああ、そうだな・・・丸一日なにも食ってない。」

前方に見える一点のネオンを見つけ、ゾロは更にアクセルを踏み込む。
何も無い田舎道に佇む一軒のダイナーに車を停め、一頭先にフィオナは店に向かった。

「おい、オッサン。飯だ、降りろ。」
「・・・ボルシチがあったらテイクアウトして来い。俺は降りん。」
「めんどくせーこと言うなよ、てかボルシチがテキサスにあるわけねーだろ。」
「念には念をだ、ここで捕まる訳にはいかないっ。」
「そんなに力んで言うことかよ、・・・わーった。おとなしくしてろ。」

フィオナは店内の端の席でふんぞり返っていた。
何の違和感もなくゾロもその対面に座れば、フィオナぎろりとゾロを睨みつけた。

「何?なにフツーに一緒に座ってんの。」
「はぁ?」
「言っとくけど、アンタさっきから道間違えてるからね。」
「んなこと早く言えよ!」
「迷子連れてる身にもなってよね。まだそんな態度なら、アンタをここで置いてくから。」
「バカ一人でメンフィスまで行けっかよ!そもそもテメーが地図見てねーからだろ!」
「アンタは地図見たって分からないんでしょ、バカはどっちよ!!」

キャンキャンと吠え合う犬に、店内に散らばる客は冷ややかな目線を送り
二人はそんな周りの様子にも構わずに続けた。

よもや掴み合いの喧嘩になる寸前だった
二人は腕をガシリと掴まれ、ひねり押さえられ床に押し付けられた。
そして陽気な笑い声があたりに鳴り響く。

「騒がしいねえ!元気そうでなによりだーゾロ!!」
「っえ!?」
「このオレを忘れたとは言わせねえぜっ!」
「サッチ!!」

雄の象徴ですとでも言いたげな、リーゼントを頭に携えた男
サッチは顔をくしゃくしゃにして、ゾロとの再会を心から喜ぶように
腕は固めたままで豪快にハグしてみせた。

「久しぶりだな!なんだってお前がテキサスまで出てきてんだよ!!」
「イテェ!!離せっ・・・。」
「ははは、相変わらずジョークが上手いなっ!」
「ジョークじゃねえよ、どっからどう見ても痛めつけられてるだろオレ!!」

サッチはゾロを窓際に押し込むようにして無理矢理席につき、今度は肩をバシバシと
叩いてゾロの顔を覗き込んだ。

「どうしたどうした、相変わらずのしかめっ面だな、安心したよ。
賞金稼ぎは辞めたってな。ジンベイのとこで働いてるのか?」
稼いでるか〜?こっちも大きいヤマがあるぞ〜。あ、まだちょーっと先だけどな。」

にたにたとゾロに笑いかけながら、サッチはまるでゾロを子供扱いするように
頭をわしゃわしゃと撫で付けた。

突如現れた、陽気なアメリカ男に呆気をとられたフィオナは床にへたりこんだままだった。
そのフィオナの視線に、コツコツとかかとを鳴らしながら近づくブーツが侵入してきた。


「・・・だいじょうぶ?」
「え、ああ・・・。うん。」

差し伸べられた手を取ると、引っこ抜かれそうなくらいに腕を引かれ
フィオナは危うく窓の外に飛ばされそうになった。

「おー!!来たかハニー!」
「ったく、落ち着きがないわね。」
「こいつがゾロだ!話したろ?方向音痴のまりも頭のくそガキだ。」

ハニーと呼ばれるその女はゾロに目を向け、微笑むと
サッチの前に身を乗り出し、ゾロの両頬に軽くキスをした。

「あんたがくそガキのゾロかー。かわいいわね、眉間にしわ寄せちゃって!」

「ゾロ、俺のフィアンセのユキアだー、いい女だろ!?俺たちいまからフェニックスに戻って
家族と会うんだよ。へっへへへ、ニューヨークからハーレーで来たんだぜ!」

二人の豪快さに圧倒されたゾロはぽかんと口を開けたまま、小刻みに頷いた。

「・・・あのさ、、」
「おーい!ウェイター!ビール持ってこい!あとスペアリブ山盛りだ!」
「サッチ・・・ちょっと、」
「そういやこの子なんだ?仕事仲間か?」
「いや、あのそうじゃなくて。」
「ガリッガリだなージャンキーか?ほらほら何でも好きなもん食え!ミートパイも持ってこい!」
「サッチ、テメー、いいかげんに人の話・・・。」
「お嬢ちゃんも運び屋?どの辺で仕事してんだ?」

「私、ゾロとは関係ありませんから。」

周囲の温度を5度は下げるような、フィオナの声に
サッチも思わずヒュウっと息をならした。

「つれねえな!まあ、いいけど。なあ、ゾロ。クイナちゃんのとこは行ったか?
俺たちも見舞いに行くつもりなんだけどよ。あのーほら、デカい仕事。アレが片付いたら
オレも金出すぜ。コウシロウ先生にはまだ言ってないけどな。ほら、オレ嫌われてるし。」


「・・・あァ。」

「なんだ、クイナちゃん・・・良くないのか。」


サッチは、ゾロの重苦しい声にやっとお喋りを止める気になったのか
がさつに運ばれて来た料理にフォークを突き刺すと、ため息混じりに頬張りはじめた。



クイナの話が出たところから、ゾロはうつむき加減で頬杖をついたままで
料理にも手をつけることもなかった。


「サッチから聞いたわよ。ガールフレンドの病気治す為に荒稼ぎしてるんだって?泣けるじゃん。」
「ガ・・そんなんじゃねえよ。」
「でも聞いたわよ、起きない彼女にキスしてるとこ見たって、サッチが。」

「ユキアー!ダメー!それ言っちゃだめー!!」
「べつに普通じゃない。あー!ねえねえ、ペンチ持ってない?バッグが壊れちゃって。」

「怪力すぎんのよ・・・。」
「お嬢ちゃん、何か言った?」
「いえ、何も。」

ど直球で痛いところばかり突かれ、ゾロはため息混じりで車のキーをユキアに放った。


「車にある、取って来い。」
「車どれ?」
「あそこに停まってる、黒のボルボだ。」
「ありがとっ。」


ブーツをカツカツと鳴らし、席を後にするユキアの尻を眺め、サッチは鼻の下を伸ばし
緩んだ顔のまま、姿が見えなくなるまで彼女を見送った。

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