The Phoenix03

「・・・。」
「ゾロが、一体何をしてお金を稼いでいるのかは、聞きません。
あの子も、もう十分苦しんだでしょうからね。
・・・もう娘が、目を覚まさないと医者に言われて3年です。
その間、ずっとゾロはあの子の為に医者を探しては、法外な診察料や
手術費用をつきつけられていたようです・・・。本当は、親である私が、そうやって
駆け回らなければいけないのですが・・・。」
「あの、娘さん・・・。」
「植物状態です。転倒して、打ち所が悪かったと・・・。」
「治らないんですか。」
「・・・ええ、ゾロには申し訳ないんですが。手は全て尽くしました。
何度言っても聞いてくれないんです、それに今回は・・・」
「・・・?」
「手術費用150万ドルと言われてね、・・・またすぐ飛び出して行ってしまったんです、彼は。」
「150・・・。」
「もう、諦めてもらうしかありません。・・・初対面のお嬢さんに、すっかり愚痴ばかり聞かせてしまいましたね。
できれば、彼にはもうここに帰って来て、まともな人生を送って欲しいんです。」
「帰る・・・。」


コウシロウは漆黒に揺れるカップの中を覗き込んだまま、少しゆっくりと呼吸をして
そのまま立ち上がった。

「プライドの高い子です。・・・ここで待っていてあげて下さい。」
「・・・。」



なんとなく、言われた通りにフィオナはその場を動く事は無かった。
冷めていくコーヒーを少しずつすすった。



憔悴した様子のゾロがフィオナの目の前に現れるのに、そう時間はかからなかった。

「行くぞ、バカ。」

言い返す気分も萎えるほどに、重苦しいその声にしかめ面だけを浮かべ
フィオナは黙ってゾロの後をよたよたとついて行った。

何を話すことも無く、ゾロはフィオナのサングラスを取り上げると
そのまま車のエンジンをかけた。

みえみえの泣きっ面隠しに、フィオナはため息をついた。

「泊まってけば?間に合うんでしょ、ロズウェル。」
「・・・いや、行く。」

すっかり日が沈み、街の灯が遠くに見える頃には、またあの何も無い
一本道の上に二人はいた。

ステレオからは無差別に割り当てられたカントリーミュージックが流れ
会話のない車内は強い寒暖の差を奏し、息苦しかった。

「ココは、ゾロの故郷なのね。」

ふと、フィオナは小さく独り言のようにつぶやいた。
表情のうかがいしれないゾロは、しばらく答えなかったものの
唐突に小さく頷いた。

時々すれ違う車のヘッドライトに照らされるゾロの顔は
思い起こせば、出会ったときからこんな悲しそうな顔をしていたに違いない
そう、フィオナは思っていた。

「おまえは、ヴェガスなんだろ?」

「・・・わかんない。覚えてない、気がついたら・・・。」
「あァ?ヴェガスから出た事無いって・・・。」
「気がついたら・・・あの人が・・・。」

「・・・ジョーカー。」
「その名前でっ・・・」

言いかけたフィオナは握った拳をゆっくりと降ろすと、額を窓に押しあててぐっと目を閉じた。

「さて・・・この先はオレも行った事ねェからな・・・。」

闇夜だというのに、ゾロはサングラスを外すことができなかった。
フィオナはどんな怒りがこみ上げても、そんなゾロに声を荒げることもこの日はできなかった。


互いの傷に触れ、二人はそれ以上を踏み込むことはできなかった。

いつになく静寂がただよう、国道60号線を
ならず者二人は東へと進んでいた。

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