The Phoenix02

「おい、起きろ。」
一通り騒ぎ疲れたフィオナは、いつのまにか眠りに落ちていた。
かけられた粗雑なゾロの声にあたりを見回すと、そこは赤い夕暮れに包まれていた。

「・・・なに?」
「来い。」
「え?ここどこ?」

腕を引かれるがままに、フィオナは車からなだれ落ちた。

「フェニックスだ。」

フィオナはじっとゾロの眼をみつめ、今度は地図を広げた。
サンディエゴから指をなぞらせると、それは目的地のロズウェルまでの一本道を
逸れた、アリゾナ州のフェニックスだった。

「これ・・・ここ違う!」
「わーってるから騒ぐな!ロズウェルには必ず行く!だから・・・」

ゾロは今までになく、真剣な面持ちでフィオナの肩に両手を置き
まっすぐに彼女を見据えた。

「今は、おとなしくしてくれ・・・頼む。」

すごみのきいた声に、フィオナは口を噤んだ。
その様子を確認したゾロは、フィオナを立ち上がらせ腕を引き、
目の前の建物へと入って行った。

その場所の空気、匂いはどこか懐かしい
ついこの間を思い出させるものだった。

「・・・病院?」
「・・・ああ。」

迷う事無く、階段を上がり病室の前に来たゾロは廊下のベンチにフィオナを座らせた。

「待ってろ、すぐ済むから。」

病室は個室のようで、フィオナは閉じられて行くドアの隙間から流れ出る
風に前髪をゆらし、呆然とため息をついた。

少しずつ、少しずつ、中の声は外まで聞こえて来た。
フィオナは膝をかかえ、ゆっくりと目を閉じた。



「ゾロ・・・よく来たね。」
「先生、こないだのワシントンの医者にもう一回診てもらおう。
約束も取り付けた。頼む・・・。」
「ゾロ・・・、もう何人もの医者に診せた、もう・・・。」

ゾロが先生と呼ぶその人物。
コウシロウはゾロの姿に笑顔を向け、じっとその姿を眺めた。

「最後に、君が会いにきてくれてクイナも嬉しいだろう・・・。」


ベッドに横たわるクイナの頭を優しく撫でると、彼はまたベッドの横の
簡素な椅子に腰掛けた。

「最後・・・って、先生!金が手に入るんだ!治るかもしれねェんだ!」
「・・・ゾロ。クイナは3年もこうして眠っているんだよ・・・。もう、休ませてやりたいんだ。」
「3年もがんばったんだぞ!あきらめんのか!!」
「・・・そのつもりだ。」

「それでもクイナは・・・クイナは生きたいって思ってるかもしれねえだろ!!」
「君の稼いだ・・・その汚い金でも・・・か?」


コウシロウのその一言に、ゾロはぐっと拳を握り歯を喰いしばった。
何も知らずに、穏やかな表情で眠るクイナを見やれど
眠る彼女の命を、親であれ、コウシロウが・・・誰かが決める事に
ゾロは納得がいかなかった。

だが、言い返す言葉もなく、クイナを見つめ続けるしかなかった。

「・・・しばし外すよ。」
「・・・。」


ドアがぱたりと閉まる音が聞こえ、ゾロはベッドに近寄るとクイナを手を握った。

「・・・クイナ、死にたくねェよな。」

言葉を返す事も、握った手が握り返される事もない。
ただその目が光っていた最後の日を思い起こすと
ゾロの目には涙があふれた。

「・・・クイナ、答えろよ。」

青白い頬を撫でても、もう赤く染まる事は無い。
唇に触れても、動く事は無い。

無機質な生命を維持するための機械が、虚しく彼女の心臓の役割を担っているだけだ。

「オレは生かし続ける・・・お前を、必ず目覚めさせてやる・・・。
どんな汚い金でも、どんな汚い仕事をしてでも。
イヤか?・・・ちゃんと目覚めさせてからじゃねェと、答えられねェもんな。」


クイナに語りかけられる不甲斐ないその声に
コウシロウもフィオナも、うつむいたまま動くこともできずにいた。

「お嬢さん・・・ゾロの知り合いかな?」
「あ?うん・・・。」
「コーヒーでも、飲みましょうか。」

フィオナはゆっくりと歩き出したコウシロウの背中を見つめ、やがてつられるように
その場を離れた。

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