鷹の助弐

その日朝方に見える月は、赤かった。

眠れずに外でぼんやりとしていたおれは
今までは真白に輝いていた月が、赤い理由も理解していた



涼しい風のそよぐ庭先からでも、窓を開け放して眠る
巴の姿がよく見えた
どうしてこのままこの国を出て行けないのかと
自分を恨んだ
身を潜めようにも、遥か遠くでもおれの存在を
いつも探している彼女がおれに気がつくのは時間の問題

そう思ったすぐあとに、巴は起き上がっていた。

もう隠れる事すら無意味
ためらわずに、部屋に入り込んで巴の目の前にしゃがみこんで
彼女に額を擦るほどに顔を近づけてみた。
静かな吐息を感じ、とくに動揺もみせない姿に見とれた。

「明日、ここを発つ。」

おれの言葉にパっと表情を明るくさせた彼女は腕をおれの
首に回した。ふと、いつも通りに顔を離したくなる・・・だが、
その気持ちを押し殺して耐える。

「準備しなきゃ!」
「やめろ。」



夏の夜明けの静寂は、どうにもこうにも心地が良い。
未だ、おれの人間という部分を捨てさせてくれないのだろうか。


「おまえが強いのも分かっている、だがな・・・女を戦場で死なせる
ような男に、おれはなりたくない。」
「死なないよ、私は!」
「・・・。」
「鬼だから。」

笑顔のまま表情も崩さず、彼女は冷たい声で静かにおれの耳元でそう言った。
確かに・・・そう

「・・・おまえに死んで欲しくない、だからわたしを連れて行け。」
「・・・巴。」

握り返された両手は心地よい温かさを持ち、鼓動が早まりそこに火が着くような
熱さを感じた。頬に触れ、髪に触れれば、鬼とは言いがたい愛らしい顔がある。

なぞらせた指が捉えた彼女の鼓動は力強くそして早く打ち続けている
刀を交えても、いつもこうだ
冷静に見えて、情熱的で・・・

「・・・好き。」

疼かせる。

音も立てずに重ねた唇が、急激に乾いて行くような気がした
きっとそれは、月が赤に染まって行くのと一緒だった。

「わたし・・・。」
「何だ?」
「わたしは・・・、鷹のすけの・・・。」
「言え。」
「鷹のすけの女になる。」

それは悔しさでもない、恐怖でもない、不安でもない・・・

いい知れぬ本能

戦争という本能

腕が刀を振り下ろしていた


小刀で床にはりつけのようになった巴は、静かに天井を見上げていた。

「ならば床で死ね。」



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