02




キュッとバッシュの擦れる音が聞こえた後、手からボールが滑るように離れていく。
ボールはきれいな放物線を描き、宙を高くとんで行く。
そして、そのボールはゴールに吸い込まれることなく跳ね返る。
真ちゃんの3Pシュートが入らなくなってから3週間。
それは、未だに入らないままだった。


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19:00が過ぎ、自主練で残っていた先輩たちもそれを切り上げて帰っていく中、俺は真ちゃんと未だ体育館にいた。
俺たちが違うトレーニングをしているあいだにもずっと一人で3Pを打ち続ける真ちゃんを見ているのは、俺たちにとっても辛いもので。
そのわがままを咎めるものは、カントクを含め誰もいなかった。

俺もこうして真ちゃんと残ってシュート練をしているが、お互い一言も発しないままで。
真ちゃんは元々あまら喋るやつではなかったけど、俺が話しかけると何だかんだちゃんと返事は返ってきていた。
けれどあれ以来、真ちゃんはあぁ、しか言わなくなった。
それどころかいつもどこかぼーっとしていて危なっかしいことこの上ない。
この間一緒に帰った時なんて、赤信号に気がつかずに轢かれそうになっていた。


真ちゃんの手が止まると同時に、声をかける。
練習中はまるで話を聞こうともしないし、そうでもしないとずっとボールを触ってそうだったから。

「なぁ、今日はもう帰ろうぜ。生徒指導の先生が見回りに来る時間だぜ」

返事も聞かずに真ちゃんの綺麗な手を取って、帰り支度をはじめる。
どうせ返事なんて返ってこないようなもんだ、聞かなくたって一緒だろ?


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門を出てやっと、手を離した。
今日もまた隣に並んで、あの頃と同じ帰路につく。
チャリアカーはやめた。あいつが落ちたからだ。
そして俺はこいつを家まで送ってやるようになった。
目を離してしまうと、そのままどこか遠くへ行ってしまいそうな気がしたから。
横を並んでいた真ちゃんの足が止まった。

「真ちゃん?」

声をかけても俯いたまま微動だにしない…一体、どうしたというのか。
俯く顔をのぞいてみて、言葉を失った。
最近はずっと下を向いていたしわからなかったけれど、真ちゃんのそれは酷くやつれていた。
目は虚ろで、どこを見ているのかわからない。
頬も少し痩せこけていて、以前の真ちゃんからは想像できない姿だった。

「高尾、俺は忘れ物を取り戻しに行く。先に帰れ、俺は一人で行ける」

いつもよりも無表情でそう告げた真ちゃんのことがよくわからなかった。
言いまわしも少し変だったし気にはなったのだが、それ以上にこいつの考えていることがわからなくて。
フラフラと道を戻っていく真ちゃんを、俺は止めることができなかった。








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