09




どれほどの時間がたっただろう。
いや、実際にはほんの数秒だったかもわからないが。
相変わらず赤司はその両の目で俺を見ているだけだ。
何かを考えているのかはわかないが。

ゴオオオ、と遠くで飛行機の音が聞こえた。
今は何も考えたくなくて、ただその音に耳を傾けた。

「バスケをやめろ」

淡々と赤司の口から出たそれは、衝撃的なもので。
だが、それはなんの引っ掛かりもなく俺の耳に届いた。

最近になって、自分でも考え始めていた。
バスケはもともと休息として始めたもので、ただそれに人事を尽くしていただけで。
今まではそのせいもあって、バスケの才にも恵まれて。
他人よりも、優れていると思っていた。
だが、それもここまでなのだろうかと。
人事を尽くさなかったわけではない。
手を抜いたわけでもない。
ただ、天に見放されたのではないかと。
これが、天命なのではないか、と。
何度もバッシュを燃やそうと思った。
何度もボールを手放そうとした。
だが、ことに及ぶ前に高尾や、チームメイトたちの姿が思い浮かぶのだ。
今や先輩たちとの関わりは断ち切れた。
高尾とも、話すことすらなくなった。
なのにまだバスケを捨てきれなかったのは、バスケをすることで彼らと繋がっていられると思ったからなのだろうか。
だからまだ、俺はバスケをやめることはできない。
また、高尾と、同じコートに立つために。


「赤司」

いつの間にか出口に向かっていた赤司の背中に呼びかける。
黄と赤のオッドアイと目が合った。

「俺はバスケをやめない。必ず、お前に勝つのだよ」

目を細め、フッと笑う赤司。

「楽しみにしているよ」

踵を返し、今度こそ去っていく。

「あぁそうだ。高尾くん、にもよろしくね」

いまの彼にしては、珍しく悪戯な笑みをこぼす。
それは、俺たちがバラバラになる前の頃を思い出させた。

「本当に、お前にはかなわないのだよ、赤司」

俺の気持ちを知っていて、こんなことをしたのか。
もしそうなら、本当に赤司と言う奴は食えないやつだと思う。

自分でも頬が少し緩むのを感じ、心が穏やかになっていく。
ポケットから普段あまり使わない携帯電話を取り出し、見慣れたその番号を選択する。
耳に当てると、無機質な音が鼓膜をくすぐった。



15.04.01





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