08




ボールを手に、コートの真ん中で一人心を落ち着かせる。
今日はおは朝曰く蟹座は一位。
ラッキーアイテムも持った。
ここ数日で欠けた爪は、以前のように元通りに整えた。
−人事は、尽くした。
膝を少し曲げ、シュートモーションに入る。
ゴールに狙いを定め、ボールを放つ。
瞬間、高尾の顔が浮かび、モーションが崩れる。
ボールはガコン、と音を立ててリングに弾かれ地についた。


あの日、俺の3Pが入らなくなってからしばらくが経つが、未だ原因もつかめないまま2ヶ月ほどがたっていた。
あの日、俺はいつもどおり人事を尽くしていた。
特に変わったこともしていないし、本当にいつもどおり、3Pのことだけを考えていた、はずだ。

最後の3Pを入れる直前に見た、高尾の姿か浮かぶ。
高尾と、宮地さんが仲良さげに話す姿−
あのときから、ボールを持つ度にその時の二人の姿が浮かぶ。
3Pが入らなくなったのには、そのことが関係すると考えていいだろう。
だが、それがどう関係しているのかがわからない。
いつもの光景に、俺が動揺してしまうなんて−
なにも、分からない。
しかし、となりに高尾がいないことにまた胸が痛むのは確かだ。


「真太郎」

ギィ、とコートを囲むフェンスの扉が開いた。
そこから入ってくる、久々に見る赤の髪と、左右で違う瞳。
それは相変わらず何を考えているのか俺には見当がつかない。

「…赤司」
「久しぶりだね。調子は…よくはないみたいだ」

高級そうな(いや、実際に高級なのだろう)シャツにネクタイ、シックなパンツと明らかにスポーツをする格好ではないそれは、このコートには不似合いだ。
黒子に中学時代のメンバーを呼ぶ、とは聞いていたが…
それはバスケをする、と言う意味ではなかったのだろうか。

「お前の考えていることは間違いではない。俺たちは、テツヤに呼ばれてバスケをしに来たんだからね」

それなら、なんでそんな格好なのか。なぜ赤司一人なのか。
いろいろと思うことはある。

「テツヤたちはまだここに来ていない。そうだ、彼らが来るまで少し手を合わせようか。それとも−3Pが使えないと、勝負にはならないかな?」
「…負けを教えてやるのだよ、赤司」

こうして、俺ははじめて赤司とバスケで勝負をすることになった。


---


バシュ、と何度目かのシュートが入る。
もちろんそれは、赤司のもので。

「勝負あったな」

結果は、惨敗だった。
何度も3Pを打っては外れの繰り返し。
挙句の果てには普通のシュートさえ入らなくて。
そして、赤司は全てを3Pで決めた。

「無様だな、真太郎」

ボールを手に、コツ、コツ、と靴音を立ててこちらへやってくる。
ああ、俺は万全でない赤司にさえ勝てないのか−
実に無様だと思う。

「こんな程度では暇つぶしにもならない」

悔しい、悔しい、悔しい。
わかっている。今の俺が、赤司の足元にも及ばないことくらい。
3Pが、使えない俺が−

どこかで、高尾が俺を見て嘲笑ったような気がした。



15.03.31





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