02
『目覚めなさい─』
女の人の、透き通ったようなきれいな声が聞こえる。
重たいまぶたをあげると、目の前に広がる白い世界。何もない、空間。
「ここは…?」
さっき見た翡翠のゆうれいさんの姿もない。
さっきまで歩いていた道も、空も、月も。何も。
もしかしたら、さっきまでのは夢だったんじゃないだろうか。
じゃあ、いつからが夢なのだろう。
もしかしたら、いまが夢の中なのかもしれないけれど。
『気分はどうですか』
顔を上げると、黒の装束を身にまとった、きれいな女の人。
さっきのゆうれいさんと同じく白い肌に、それとは対照的な2つの紅い目。
「あなたは…?ここは、どこ?」
『ここは、あなたの意識の中…いわば、精神世界です』
「精神世界?」
『そして、私はそこの住人であり、あなた自身です』
「あなたが、私…?」
はい、ときれいに笑う彼女は"私"ではない。
だって、"私"は、ここにいる。
『今からあなたは、虚圏に連れて行かれるでしょう』
訳がわかっていない状態で進む、彼女の説明。
『あなたは虚圏で彼らと過ごし、取り戻してください』
取り戻すって、何を?
『そのために、力を使ってください。私の、あなたの力を─』
「ちょ、ちょっと!」
消えていく、彼女のからだ。
…いや、消えているのは私なのか。
待って、待って。
まだ、聞きたいことだってたくさんあるのに。
意識が遠のくなかで、最後に聞こえた、声。
『私の名前は━━━』
(私はあなた)
(でも、私は私)