ふたりぐらし。2


ふたりぐらし。2






雲雀が姿を消してから半日。
渋々ではあるが、家事をこなしてみせようじゃあないかと、思い立ってそれくらいの時間が経っていた。早いものだ。
家事などろくにしたこともないアラウディが見せる奮闘振りは、見ていて飽きなかった。仕事などあるようでないようなもの。運び屋くらいの仕事なら他のもっと無能な人間を使えばいいものを、と文句を頭に浮かべながら、早々に戻ってきた雲雀が見たその光景。何故かユーティリティースペースで膝をつき、掃除をするアラウディの姿が雲雀の目の前にはあったのだ。

「――…なに、掃除?」

不意に空気が揺れたのは、気配が増えた所為だ。
扉に寄りかかり、口元を緩めているのは不在の筈の雲雀だった。腕を組んだままニヤニヤとほくそ笑む姿は憎たらしさはいつだって変わらない。見上げたら最後だと、手元の動きは休めないアラウディだったが、雲雀の様子など見なくとも分かる。

「随分と早いご帰還だな。失敗でもしたのか」
「馬鹿言わないで。あんな仕事ミスするほど落ちぶれてない」
「そう、」
「それで? 何してるの?」
「見て分からないか」
「分からないね」
「…掃除だ、掃除」
「へえ、珍しいね。明日は雨かな」
「お前が言ったんだろ」
「僕が? …ああ、家事のこと? まさか本当にしてくれるとは思ってなかったけどね」
「お前な…」
「嘘だよ、ありがと。お礼はキスでいいのかな」

ぽんと、肩に置かれた手。その手が次に頬を掴み、後ろを向かせてキスをしようとする事くらい容易に読める。
それでもアラウディは振り向きはしなかった。振り向いたら最後。否、背を向けている時点で負けは確定しているようなものだったけれど。
しかし、予想していた行動は起きなかった。代わりに指先が頬を撫でてきたくらいで、それ以上は特に目立つ仕草はない。つまらないな、一瞬でもそう思ってしまった自分がいる事を、雲雀になど悟られてなるものか。

「フン、キス以外と言えば何かしてくれるのか」
「お望みならね」
「何を望んでると思ってるんだか…マセガキめ」
「あなたと歳なんて大した変わらないじゃない」
「どうかな」
「あ、これ秘密だったの? あなたの年齢」
「…知れたことなんかどうでもいい」
「そう、じゃあ待ってるから」

頬を滑る感触が止み、体温が遠ざかる。背中を捕えていた雲雀が自室へ戻ろうと立ち上がったのだ。幾ら簡単な仕事だったとは言え、命を賭けた任務には変わりない。この隠れ家に居る時くらいは気を張らなくてもいいだけに、自分に構わず休めばいいものを、と一人ごちたところで雲雀の要求は止まないけれど。

「何を」
「あなたを」
「却下」
「どうして?」
「生憎、僕はお前が作った島から出られなくてね」
「ああ…あなたは本当に真面目だよね」
「お前がだらしなさ過ぎるんだろ」
「ふうん…、じゃあここでもいいか」
「は? ――ッ、おい…!」

舌なめずりさえ聞こえてくるようだった。
諦めて自室へと向かったと思っていた足は見事に背後へ迫っていて、アラウディは壁に押し付けられた。対面する壁、咄嗟に両手で体を支えてしまっただけに、身動きが出来ない。

「なに?」
「なに、じゃない。離せ」
「…嫌」
「……、」
「あなたが可愛すぎるからいけないんだよ」
「あのな、恭弥――、」
服を下に引っ張られたことにより晒された項。骨ばったそこに生暖かい舌が這い、ゾクッと背中が震える。相変わらず弱い。そう思いながら、押さえつけた腕を離すことも、舐めることも止めない。まるで肉食の獣だ。だがしかし、自分が捕食される方になる気は更々ないが。

「それとも言い返せないくらいには自覚してるの?」
「お前に呆れてるだけだ」
「そう、それくらいなら問題ないね」
「大有りだ。だから離せと…ッ」
「感じるの?」

くすくすと、微笑む。舌は、項から耳の裏、耳介。そして、頬から唇と、恭弥の薄い唇は順に後を追っていく。
離せと憤慨する割には、その腕の中で大人しくそれを受け入れているアラウディが居た。どうして拒むことをしないのか、まるでこの行為を望んでいたのは自分のようで、気でも狂ったのだろうかと自問する。
しかし、自答はいつだって「まぁいいか」だった。恭弥相手ならばと言う条件付ではあるが、軽い気持ちでそれを受け入れて、もう十年。子どもの扱いなどとうに理解しているし、恭弥は扱いやすい。

「…うるさい」
「耳…感じるんだったっけ。可愛いよね、女の子みたい」
「ッ、二度とそれを言うな…!」
「だって事実じゃない」
「それ以上言うなら止める」
「…拗ねないでよ、もう。ちゃんと可愛がってあげるからさ」
「要らない、触るな」
「嘘。身体は正直じゃない」
「どうかな」
「そこまで言うなら啼いてもらうよ」
「フン、出来るものならしてみせろ」
「言ったね」
「ああ、―…ッ」
「覚えててね、その言葉。後悔させてあげるから――、」

そうして始まった行為。愛情を分け合うと言うよりは、感情のぶつけ合いに近かったが、互いの手の優しさは十年前から変わらない。
明けない夜はない、けれど長い夜はある。二人の夜は、これからが本番。






家事をしてやろうと思って洗濯を始めたんです。でも失敗しちゃって当たり一面水浸し。それの掃除です。笑
その話は「ふたりぐらし。2のおまけ」から読めます。ダメアラっぷりがはんぱないので、苦手な方は気をつけてくださいね。 (11.8.19)


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