貴方のいない 世界はいらない | ナノ
その職人、恐縮。


「‥‥ほぉ」
「え?何ですかその反応。いいんですか?悪いんですか?どっちなんですか?!」
セバスチャンさんが持ってきたのは、黒のスーツと、しっかりとしたYシャツと、黒と灰色のベストだった。
邪魔なのでジャケットは着ていないけど、どれもピッタリサイズだ。
もともと髪の毛はショートだったため、パッと見男性に見られてしまうことも、なきにしもあらずだ。
いやだって、貧乳だし‥‥‥

「いえ、特には、ね?」
「いや、ね?じゃないですよ!明らかに何かを濁しましたよね!なにか私の上半身に憐れみの視線が送られている気がするんですが!」
「そんなことはございませんよ。そんなことより、坊ちゃんの所に行かなくてもよろしいのですか?」
「そ…そんなこと‥‥‥はっ!落ち込んでる場合じゃない!行かなきゃ!行って来ます!」

ビシッと敬礼をして駆け出した。が、後ろからガシッと肩を掴まれる。
「貴方という人は‥‥‥坊ちゃんの部屋がどこにあるのかご存知なのですか?」
「セバスチャンさん、私がそんなこと知ってる訳ないじゃないですか」
「威張る事ではありません!」

しぶしぶといった感じで、案内をしてくれるセバスチャンさん。
「いやぁ、本当になにからなにまですいません」
「いえ、それが執事の仕事ですから」
ちょっとため息をつきながらそう言うセバスチャンさんの前に、私は回り込む。

「ありがとうございます。」
「?」
「これはセバスチャンさんだけじゃなく、シエルにも言えること何ですけど、私ここに1人で来て、凄く怖かったんです。」
見たことの無いような世界。
独り言を言って、なんとか自分を保とうとしてた。
「でもすぐに、シエルやセバスチャンさんに会って、居場所をくれて、凄く嬉しくて、だから、」
ありがとうなんです、とニッコリと笑う。

までは良かったけど、
「さ、行きましょ行きましょ!」
「!え…えぇ」
やっぱりちょっと恥ずかしくなって、シエルの部屋に急ぐふりをした。

「着きましたよ。」
「!」
目の前には、他のものよりも明らかに豪華な扉。
よし、これでシエルの部屋は覚えたぞ。
『シエルの部屋=豪華な扉』だ!

「では、私は仕事があるのでこれで。」
「え!一緒に怒られてくれないんですか?!」
「何故そのような考えに至ったのか、不思議でたまりませんが、一言で言えば、嫌です。」
では、と現れた時同様、一瞬で消えたセバスチャンさん。
今、彼に軽く殺意が芽生えました。
べつに八つ当たりじゃないよ。
でもさ、見てたなら止めてくれたって良かったと、私はおもうんだよね。

と、いない人に対してあれこれ言ってもしょうがないし、部屋に入ろう。
「シエル、怒るかなぁ‥‥‥」
どうしよう、屋敷追い出されたら。
フルフルと頭を降って、嫌な考えを吹き飛ばす。
「追い出されたら、そん時はそん時だ!」
と、もはやヤケクソになって扉をノックする。
「入れ。」
部屋の中から聞こえたその声が、ゴングのように私に響いた。

「はぁ?!戦えなくなった?あの中国人の男がか?どうして?」
怒るというより、びっくりしてるっぽいな。
「どうしてと聞かれると、そのぉ‥‥‥た、倒しちゃったんです。」
「誰が、誰を?」
「私が、あの中国人を。」

あの男、自分を人類最強とうたってなかったか?
それは嘘だったということか?
いやしかし、あの男は多くの武闘大会で優勝していたはず‥‥‥

「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥あの、シエル?大丈夫?」
「!!‥‥あぁ、大丈夫だ。」

どういう事だ?

「それで、相手がいなくなっちゃったから、シエルは強制的にその‥‥‥午後中勉強だって」
どういう事だ?‥‥‥って、
「はぁ!?」
あぁ!怒ってるぅ‥‥‥だから言いたくなかったんだ!

「僕が用意した駒が負けて、それで勉強なら構わないが、どうして負けてもいないのに勉強しなきゃいけないんだ!」
「ですよね〜。いや、その怒りは当たり前だわ、うん。」
私も勉強大っ嫌いだったもん。

セバスチャンさんが言ってた。道は2つだって。
1つは、シエルがおとなしく午後中勉強すること。
1つは、私がセバスチャンさんと戦うこと。

前者はもう絶望的と見て間違いないだろう。
ということは、
(戦うしかないのかなぁ‥‥‥いや、それは嫌だな。だって相手セバスチャンさんだし、疲れるし、さっきから、出来事がいちいち濃過ぎてすっかり忘れてたけど、お菓子作んなきゃいけないし。)

「‥‥今から誰か代わりを連れてくるとしても、時間がかかりすぎる。」

(でも、シエルがそういう発想にいたらなければいいんだよね?そんないくら何でも、レディに戦わせようなんて、ここは紳士の国イギリスだも「杏子、お前がセバスチャンと戦え」「ですよね〜」



(昨日から思ってたんだけど、みんな私の扱いが雑だよね)(そうか?)(じゃあ聞くけど、君私のことどう思ってるよ?)(そうだな、簡単に言えば食い逃げ野郎か?)(コンチクショウ、間違ってないからなんにも言えないよ!)

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