貴方のいない 世界はいらない | ナノ
その職人、有望。

「はい?」
「だから、今日スウィーツを作れと言ってるんだ。」
「作っていいの?」
「だから、さっきからそう言っているだろうが!」
セバスチャンさんの針のむしろから無事に生還した私は、朝食を食べた後にシエルに会いに行った。
ら、突然「お菓子を作れ。」と言われたので、ぽかーんとしてしまった。
そして冒頭に戻る。

「?でも私和菓子しか作れないよ?」
「それでいいんだ。昨日の『ネリキリ』というのは、お前が作ったんだろ?」
「そうだけど…材料は?」
「執事に用意させる。そうだなセバスチャン。」
扉の近くに控えていたセバスチャンさんに、シエルが声をかける。
「御意。」
「いやぁ、でも200年も昔でイギリスでしょ?手に入らない物もあるんじゃないかな?」
そう、私は昨日シエルとセバスチャンさんに、私がここに来た経緯をすべて話した。
とはいっても、来た瞬間のことは何も覚えちゃいないから、そんなにしゃべることもなかったんだけど・・・。
でも、それでもここが過去のイギリスであること、私が帰る確かな方法がないことは分かった。
家族に会えないのは、とても辛いけど・・・
今はそんなこと言っている場合じゃない。

「おいセバスチャン、お前に用意できないものはないな?」
聞かれたセバスチャンさんはクスリと笑って
「ファントム・ハイヴ家の執事たるもの、それくらいできなくてどうします?」
「だ、そうだ。好きなだけ作ってくれ。」
「はぁ」
やばい、雰囲気に押されて頷いちゃったぞ!
まぁでも、お菓子作れるならいっか

「なら、作りやすいようにドレスを着替えたいんだけど、いい?」
「あぁ。セバスチャン」
「はい」
いつの間にか横にいるし…
もうこの人に関してはなんも突っ込まないようにしよう。

「では杏子お嬢様、行きましょうか」
「あ、はい!」
では、失礼しますとお辞儀をしたセバスチャンさんにつられて、私もお辞儀をしてしまった。
それから扉を開けてもらって部屋を出ようとしたところで、私はシエルに言い忘れたことがあるのに気がついた。

「シエル!頑張って作るから、楽しみにしてて!」
そう言って笑顔を作る。
シエルがすごく驚いた顔をしていて、もっと見ていたかったけど、その前に扉を閉められてしまった。

「杏子お嬢様は、どのような服を御所望ですか?」
「ん〜、動きやすくて、たとえば…コックさんが着てるようなものかな?」
「いけません。杏子お嬢様は当家の客人です。お客様にそのような服を着せることはできません。」
「う〜…じゃあセバスチャンさんみたいな燕尾服?じゃなくてもいいので、スーツみたいなものは?」
「スーツですか?それならばありますが…はたしてそれは動きやすいのでしょうか?袖の短いドレスなど「スカートは動きづらいし邪魔だし嫌いなので却下です。」
「……かしこまりました、では早急に準備を。」

そう言って一瞬でどこかに消えてしまった。
いや!突っ込まない!私は突っ込まないと決めたんだ!
「さて、何を作ろうかなぁ。というか、ここはどこだ?」
セバスチャンさんに連れられて歩いてたはずなんだけどな〜
置いて行かれちゃったから、部屋への戻り方がわからない…

「ま、いっか。探検探検!」 
長い長い廊下を歩いていると、突然広い空間に行き当たった。
「ほぁ〜」
ここ、玄関かな?すごい…
大きな絵画。シャンデリア。細かな細工の施された階段。
ちなみに、なぜ玄関かどうかわからないのかというと、実は玄関を使ってこの屋敷に入っていないからだ。
シエルに会った時も、そのあと窓から入っちゃったし。強引に腕を引っ張られて。

「まったく、こっちは着物だったってのに」
そんなことをぶつぶつ言いながら、扉の近くまで寄る。
「のぞき穴は?…ない……」
なんでセバスチャンさん、私がいることに気がついたんだろう?
…うん。なんか考えると怖いからやめとこ。

扉をあけると、昨日見たきれいな風景が広がっている。
「相変わらずキレーだなぁ。というか、庭とかないのかな?いや、あるだろぉな〜。きれいだろうなぁ・・・よし!探しに行こう。」
そのまま外に出て、屋敷に沿って歩いていると・・・

「へ?」
「ん?」

変な人がいました。


「こ…こんにちは」
誰だ、この人?
もしかして使用人か誰かかな?
いやでも、中国人っぽい服着てるし…

「君が、今日私と戦う『セバスチャン』とやらか?」
「へっ?…いやいやいやいや!違います違います!」
「ひどい慌てようだな。大丈夫か?」
「…大丈夫です。」
昨日も似たようなことを言われた気がする。
私はそんなに大丈夫そうに見えないんだろうか?

「私は白岡杏子といいます。セバスチャンさんというのは、この家の執事さんのことですよ。」
「なんと!これは失礼した。聞きたいのだが、セバスチャンというのは、強いのか?」
「さぁ?私はまだこの家にお世話になったばかりで、分かりませんね。」
「そうか…」
「でも彼は…なんというか、う〜ん…」
言葉に詰まり、黙り込んでしまう。

「セバスチャンがどうしたというんだ?」
「人以上というか、人らしからぬというか、う〜ん…」
なんだろ?うまく言葉にできない。
「それは、貴殿から見て…ということか?」
「はい。昨日彼を見ていてそう感じました。」

「そうか…貴殿のようなものがそう言うのなら、そうなのだろう。しかし人外か、面白い」
いやいや、そこまで言ってないし。しかも私普通の人だし。
「私はただの人ですよ〜。」
「はっ!冗談も休み休み言え。身のこなしや歩き方が明らかに普通のものではない。武道に長け、そして人を躊躇いなく倒すことができる者の匂いがプンプンするわっ!」
「匂いますか?昨日ちゃんとお風呂入ったんだけどな」
「そういうことではない!」

「いやぁ、これでも結構うまく隠してるつもりだったんですけどねぇ。やっぱり無理かぁ」
「貴殿のそれは、隠そうと思い隠せるようなものではないだろう。」
「そんなに分かりやすいですか?」
「あぁ」
うぉぉ…これでも結構うまく隠してたつもりなのに、あっさり言われると自信無くすわ。

「さて」
「?どうかされたんですか?」
「お手合わせ、願おうか。」
「!」
彼は何やらやる気満々だ。
構えてるし。なんだあの構え。

「いいんですか?この後セバスチャンさんとも戦うんですよね?」
「よい。強いものがいるならば、それと戦いたいと願うのは真理。さぁ、どこからでもこいっ!」
せかしてくる彼、ぶっちゃけあの体制を保つのがつらいだけじゃないだろうか?てか名前聞いてない。
「あのぉ、ひとついいですか?」
「後にしろ!この体制はいろいろきついんだ!」
きついんだ!止めりゃいいのに、そんな構え。

「しょうがないですね。では…白岡家当主 杏子参る。」
「ほぁぁちゃあっ!」
お前はケンシロウかっ!


そんなドキドキの展開が繰り広げられていたころ、セバスチャンは
「まったく、どこに行ったのでしょうね?」
苛立っていた。

昨日突然やってきた杏子お嬢様は、いつの間にか坊ちゃんに取り入……仲良くなり、無期限の滞在を許可されたらしい。
彼女の話を聞くと、自分は遠い未来のジャポンから来たという始末。
そのような夢物語……いや、悪魔などという私がいるのだから、一概に言いきることはできないでしょうが。
しかし、正直言って面倒だ。

「今も、スーツを用意しろといったくせに、いなくなってしまいましたし。」
探すのも面倒くさい。
しかし
「あの人を野放しにしておくのは、少し怖いですね。」
彼女は普通ではない。そう、出会ったときに感じたのだ。
それは論理的なものではなく、野生の勘とまで言うようなものだ。

「まぁ、坊ちゃんに危害を与えることはないでしょうが。」
念には念をだ。
「屋敷の中からは気配が感じられませんね。」
ということは、外か。それならば屋根の上から探すのが良い。
「行きますか。」

「……見つけた。」
見つけた彼女は、何やら中国人のような人と会話をしている。
「……身のこなしや歩き方が明らかに普通のものではない。武道に長け、そして人を躊躇いなく倒すことができる者の匂いがプンプンするわっ!」
かすかに、男の声が聞こえる。
「………」
セバスチャンは二人に気づかれないように、静かに二人に接近する。

「いやぁ、これでも結構うまく隠してるつもりだったんですけどねぇ。やっぱり無理かぁ」
「貴殿のそれは、隠そうと思い隠せるようなものではないだろう。」

そしてちょうど二人の頭上に当たる屋根に隠れる。

「しょうがないですね。では…白岡家当主 杏子参る。」
「ほぁぁちゃあっ!」

「!!ほぉ…」
それは、一瞬だった。
そう、悪魔でなければ見ることすらかなわないような、それほどの早業だった。

一瞬で急所を突きましたか。
あれは、武道などという生易しいものではない。
人を殺す方法だ。


「あの〜、大丈夫ですか?」
そう声をかけた先に、ぐったりと倒れた彼。
手加減はしたから、死んではいない。…はずっ!
うん。ちゃんと息はある。
「つか、結局名前聞けなかったし。どうしようかな、この人。」

「何をしているんです?」
びくぅっ!恐る恐る振り返ってみると、にっこり笑ったセバスチャンさんがいた。
「こ…こんにちは、セバスチャンさん」
「何をしているんです?」
「え〜とっ…ちゃ、チャンバラごっこ?」
ばれたら殺されるっ!というか、この人目だけで人を殺せるぞ!だって今死にそうだもんっ!

「ごっこ遊びで人が気絶することはありませんよ。」
「…ごめんなさい。」
命は惜しいので謝ると、セバスチャンさんははぁとため息をついて、後ろの人を見た。
「この方は、坊ちゃんがお呼びした客人です。丁重におもてなしするよう言われていたのですが…。」
家に入る前に倒されてしまいましたね、とどこか他人事のように話すセバスチャンさんにビクビクしながら聞いてみる。

「あの、その人セバスチャンさんと戦うと言ってたんですが?」
「坊ちゃんが戦わせているんですよ。私が負けるところを見てみたいそうです。」
「…はぁ…」
ドSか?坊ちゃんはドSなのか?

「しかし、私と戦う駒がいなくなってしまった。坊ちゃんは怒るでしょうねぇ」
「!!……それは、本当ですか?」
「えぇ。坊ちゃんはその遊戯をとても楽しみにしていますから。」
終わった…もういろいろと終わったわ。

「セバスチャンさん、ここを追い出されたら私どうすればいいですか?」
もう行き場ないYO。のたれ死んじゃうYO!
「そうならない、良い方法がありますよ。」
「!ほんとですか!教えてください!」
その時のセバスチャンさんは、神様みたいに見えたんだ。
次の言葉を聞くまでは。









「あなたが私と戦えばいい。」



(さっきの戦い、見ていましたよ)(えっ!どどどどうして!どこから!どうやって!)(少し気になることがありまして、屋根の上から、覗き込んでいました。)(全部に答えましたね…というかほんとに戦うんですか?)(あなたは坊ちゃんが許してくれるとお思いですか?)(イエ、オモイマセン)(ならば、戦うしかないでしょう?)(た…助けてくれるとかは?)(しません。)(うぅ…鬼だ!悪魔だ!)(光栄です)

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