貴方のいない 世界はいらない | ナノ
その職人、着用。

柔らかな朝の陽射しが人々を照らす。
働く者も休む者も、富める者も貧しい者にも、等しく朝がやってくる。

「‥‥‥ん」
それは彼女も例外ではない。
「‥朝‥‥‥起きなきゃ」
くぁっと欠伸をしながら、ベットの上で上体を起こす。
今日は女将さんと源さんが実家に帰っていないんだったっけ。だから私が厨房に入っ‥‥‥
「‥‥ん?あぁ、そういえばここは日本じゃ無かったんだった‥‥」
そうだ。私は昨日突然飛ばされてここに来たんだ。

そう、昨日私は突然ここにやって来た。
それから、シエルという友人が出来た。
それで、この屋敷への滞在が許された。
「お嬢様」
「しっかし、シエルもシエルだ。あんな遅くまでゲームさせるなんて。」
「お嬢様‥‥お嬢様」
「私は若い女の子なんだぞ。もっとこう、レディの扱いを「お嬢様!」‥‥‥?‥‥‥!!」
おいおいベイビー、冗談はよしこちゃんだぜ。
この人、いつ入ってきたよ?
「何度もお声をかけたのですが、返事を頂けなかったので、入らせていただきました。」
まじでか。
どんだけ爆睡だよ、私。
「いえ、起きていらっしゃいましたよ。ただ、心ここに在らずといった感じでしたね。」
じゃああれか、昨日のこと思い出してシエルに腹をたててた時か。
「坊ちゃんに?なにか主人が無礼を?」
いえいえ、ただ子供らしく夜更かしをして、私がそれに巻き込まれただけのことですよ。
「そうですか、それは良かった。」
そういってニコッと笑った執事さん(セバスチャンさんだったっけ?)は、とても素敵だ。
「素敵だなどと、執事の分際でおこがましい。お嬢様のほうがその言葉にお似合いですよ。」
わぁい、誉められた。この年になっても、誉められると嬉しいもんだね。たとえお世辞でも。
「お世辞ではありませんよ。私は「ちょっと待て!」…はい?」
何故あなたは私の心の声と会話しているんだ?
「全て、顔に書いてあります。」
「またっ!‥‥‥そんなに分かりやすいですか?」
「はい。」ニッコリ
なんだこの屋敷は。みんな笑顔に黒いものが浮かんでるよ。

「‥‥‥それで?」
「?」
「いや『?』じゃないですよ!なにをしにここに来たんですか?」
「あぁ、失礼いたしました。本日のお召し物をお届けに参ったのです。」
「そうだったんですか。ありがとうございます。」
「それから、朝食の準備が出来ております。部屋の外におりますので、支度ができましたらお声をお掛け下さい。」
では、とお辞儀をして部屋を出て行くセバスチャンさん。
さすが本物の執事!立ち姿も違うとちょっと感動していたのだが‥‥‥

「なんだこれ?」
そういった視線の先にあるのは、先程セバスチャンさんが持ってきた洋服だ。
「ドレスやん‥‥‥」
何故!というか、昨日の私の服はどこにいった!
「‥‥しょうがない。郷にいっては郷に従えだ!!」
それに、セバスチャンさんを待たせてもいけない気がするし。

「お待たせしました。」
ガチャっと扉を開けると、目の前にセバスチャンさんが立っていた。
「良くお似合いですよ。サイズは如何ですか?」
「いやぁ、測ったのかってぐらいピッタリで、びっくりしました。」
そういってドレスの裾を持ち上げる。
「これ、セバスチャンさんが選んだんですよね?どうしてサイズが分かったんですか?」
「執事ならば、それくらいできて当然ですよ。」
「つまりセバスチャンさんは、人を見るだけでスリーサイズが分かってしまうという訳ですね。」
それはなんかいやらしいな〜と1人考えていると、セバスチャンさんからどす黒いものが‥‥‥
ヤバい‥‥‥これは命の危機だ‥‥!
「ははっご飯!朝ご飯食べにいきましょ!」
セバスチャンさんはニッコリと笑ったまま、こちらですと道を示す。

こえぇよ‥‥‥超こえぇよぉ‥‥‥
あ〜なんか涙出てきそう‥‥

そのまま、針のむしろのような状態で食堂に向かった私。
あぁ‥‥‥もう!

















「素晴らしいスキルだと思いますっ!」
やっとのことでフォローを入れた私の目には、涙が浮かんでいたそうな。



(どうすればそんな技が手にはいるんですか?)(そうですねぇ、これは長い間生きていれば自然に身につくものなので、訓練でどうにかなるものではないんですよ。)(?セバスチャンさん、私とあまり変わりありませんよね?)

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