貴方のいない 世界はいらない | ナノ
その職人、暴露。


ギャハハハハ!ブフォッ!アハハハハ!ヒィ〜〜〜も………も…やめ………

………一体中では何が起こっているんだろうか?
通常では有り得ないほどの、葬儀屋の笑い声が店の前まで響く。
(何をすれば、人をこんなに笑わせられるんだろ?)

しばらくすると、店の扉がガチャッと開き、
「どうぞお入り下さい。お話して頂ける様です。」
ニッコリ笑ったセバスチャンと、机に突っ伏してピクピクと震えている葬儀屋が現れた。
「小生は理想郷を見たよ…」
葬儀屋が恍惚とした表情でそう言ったから、私はセバスチャンをつついて、
「セバスチャン、一体何したの?」
「いえ、大した事は特に。」
「嘘つけ!大した事が無いのにあんなに爆笑するやつがいるかよ!」

葬儀屋の笑いが一段落ついたところで、話は進み始める。
「昔からねぇ、ちょくちょくいるんだよ。『足りない』お客さんがね。」
ぐふっと笑ってそう言う葬儀屋は、後ろにある棚に顔を向けて、
「『足りない』?」
「そう、足りないのさ。」
そして、そこにあった人体模型を手にとり、こちらを振り向いた。
「臓器……がね。」
「!!」
葬儀屋は、驚く私達を尻目に、1人悠然と人体模型を拭く。
「お客さんには、棺で眠る前にきれいになってもらわないとだろ?その時にちょっとだけ検死させてもらうのが、小生の趣味でねぇ。」
(……もしかして、みんなが持ってるビーカーは、検死のときに使われたのかな……)
私と同じ事を考えたんだろう。
劉様は口元を拭きながら、
「皆腎臓が片方無いとか、そういうことかい?だとすると、犯人は金融業とか…」
「窟に住む中国人は考えが物騒だねぇ。でも、そういうことじゃない。それは娼婦…女の子じゃなきゃ持ってないもの。」
「女の……子?」
「子宮がね、ないんだよ。」
「!」
「しかし、人通りが少ないとはいえ路上で…しかも真夜中となると、」
「子宮だけを取り除くっていうのは、素人には至難の業だよね。」
「鋭いね、執事君達。小生もそう考えてるんだ。」
葬儀屋が、こちらに向かってニヤリと笑った。
それから椅子を立ち上がり、シエルに近づく。
「そうだなぁ…」
そして、シエルのすぐ後ろに立つと、長い指をシエルの首筋に添え、
「まず、鋭いエモノで首をかき切り、」
もう一方の手をお腹の辺りに這わせ、
「次に腹を切り裂いて、たいせつなものを奪うのさ。」
そう、シエルに囁いた。
「『手際の良さ』…それから『ためらいのなさ』から考えて、まず素人じゃないね。多分『裏の人間』だ。」
葬儀屋は、シエルの頬をツンツンとつつくと、
「伯爵が来るってわかってたのは、そういうことさ。」
そうしてシエルから離れていった。

「きっとまた殺されるよ。ああいうのはね、誰かが止めるまで止まらないものさ。君は止められるのかい?『悪の貴族』ファントムハイヴ伯爵。」
「裏社会には、裏社会のルールがある。理由なく表の人間を殺めず、裏の力を以て侵略しない。」
立ち上がったシエルに、セバスチャンが上着を着せる。
「女王の庭を穢す者は、我が紋にかけて例外なく排除する。どんな手段を使ってもだ。」
そして、強い光を持つ隻眼を覗かせた。
「邪魔したな、葬儀屋。」
そして、シエルとセバスチャンは店を出ていって、私もそれに続こうとしたとき、
「見習い君見習い君。」
葬儀屋に呼び止められて、私は振り返った。
すると、葬儀屋がこちらに向かって手招きしていて、私は前にいたシエルに視線を向けた。
「先に行っているぞ。」
そう言って、シエルはマントを翻し、馬車へと向かった。
私はもう一度店内に入り、そして店の中には葬儀屋と私の2人きりになった。

「なんでしょうか?」
私は彼の前まで行くと、そう聞いた。
「まぁまぁ、そんなに警戒しないで。小生は見た目ほど妖しくないよ〜。」
「見た目が妖しいってことには気づいてるんですね。」
「そりゃあそうさ。小生は見た目が妖しい。君はどうかな?」
「……どういう意味ですか?」
「小生はね、たくさんの、それはたくさんの人を見てきたのさ。表の人間から裏の人間まで。生人から死人まで。」
そこまで言うと、葬儀屋はニヤッと笑った。
「その人が裏の者か表の者かの判断なんて、小生には息をするように容易い。」
でもね、と葬儀屋はフラスコに入った液体を振りながら言った。
「見習い君。君は分からないんだよ。」
フラスコを机の上に置いて、葬儀屋は私の顔に手を伸ばした。
「そこで多くの疑問が生まれた。」
――何故そんな人間が、伯爵のそばにいるのか。
――何故そんな人間が、存在しているのか。
なにより、
「君は本当に、この世界に存在していたのか、とかね。」
葬儀屋は私の顎を掴むと、突然顔を近づけヒッヒと笑った。

「………私は……」
「?」
私は、葬儀屋の目があるであろう場所に視線を向けた。
(ここで何も言わずに、これから先怪しまれるより、今ここで真実を話した方が、ずっと良い。)
私はそう決心すると、口を開いた。
「私は………………未来からきました。」
カチリという音を立てて、時間が止まった気がした。
そして次の瞬間、
「ぶほぉ!ギャハハハハ!ヒヒャヒャヒャヒャヒャ!ヒッヒッヒ……はぁはぁ………」
葬儀屋に目の前で笑われて、私は少なからず傷ついた。
「ですよね〜。笑うしか、無いですもんね〜……」
そう言いながら、私は店の端っこで体育座りをして、床にのの字を書いた。
後ろではまだ、笑い声が続いている。

「………一日に二度も理想郷を見られるとは、小生も思っていなかったよ。」
葬儀屋は笑いが収まると、端っこにいた私を店内にあった棺に座らせ、その隣に自分も座った。
「………私はあの言葉で理想郷を見せられるとは、思ってませんでしたよ。」
ちょっとふてくされながらそう言うと、葬儀屋は笑いがぶり返したらしく、グフォッと、よく分からない音を発した。
「まぁまぁ。クッキー食べるかい?」
機嫌取りのつもりなんだろう。
葬儀屋は私に、骨壺に入ったクッキーを差し出していて、
「戴きます。」
私はむしゃくしゃして、クッキーを一枚取った。
すると、
「…………」
「どうだい?小生お手製のクッキーの味は。」
「…………認めたくないけど、物凄く美味しい……」
「ヒッヒッヒ!」
そのクッキーは、確かに絶品で、でも葬儀屋のその勝ち誇った顔が憎たらしかったので、私は葬儀屋の持っていた骨壺を奪って、ムシャムシャとクッキーを食べ始めた。
「あぁ………」
「フンッ!」
全部食べ終えて、空になった骨壺を葬儀屋に返すと、葬儀屋は落胆の声をあげたから、私は少しだけ良い気分になった。



(小生はまたクッキーを焼かなきゃいけないじゃないか。)(ケッ!ざまぁみろ!)(………未来では、女の子でもそんな口のききかたするのかい?)(喋ってる相手が、葬儀屋だからだよ………って、)(気づいてたよ。見習い君が女の子だって事は。)(!……まぁ、隠してる訳じゃないからいいけど…)

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