貴方のいない 世界はいらない | ナノ
その職人、怪奇。


「アンダー………テイカー?」
私は首を傾げながら、扉の上にあった看板を読んだ。
(直訳すれば、葬儀屋か。いや、直訳しなくても、店の周りにある棺やら墓やらで、なんとなく予想はついたけどね…)
「ここは、坊ちゃんのお知り合いが経営なさっている、葬儀屋さんですよ。」
「どういう付き合いをすれば、葬儀屋に知り合いができるのか、私は不思議でたまらないよ。」
「…………いくぞ。」
私の溜め息混じりの言葉を無視して、シエルは扉を開き、中へと入る。
その後に、セバスチャン、私、アンジェリーナ様、劉様、グレルさんと続く。

「いるか、葬儀屋。」
シエルがそう言うと、誰もいない店内から声が聞こえてきて、
「……ヒッヒ…そろそろ…来る頃だと思ってたよ…」
そして、私のすぐ横にあった棺が開き、
「よぅ〜〜〜こそ…伯爵…」
銀色の長い髪を持った、見るからに怪しい男が出てきた。
その登場は、あまりに唐突で悪趣味で、セバスチャン以外、驚愕の表情を浮かべた。
「やっと、小生特製の棺に入ってくれる気になったのかい…!」
そういって、棺の中から出てきた葬儀屋。
「そんなワケあるか。今日は…」
用件を言おうとしたシエルの口に、葬儀屋は手を伸ばし、言葉を遮った。
「言わなくていい。伯爵が何を言いたいのか、小生にはちゃ〜〜〜んとわかっているよ。」
そうして笑みを浮かべ、
「ああいうのは『表の人間』向きの『お客』じゃない。小生がね、キレイにしてあげたのさ。」
葬儀屋のその言葉に、
「…その話が聞きたい。」
シエルは一瞬で大人びた顔をして、そう答えた。
「じゃあ、話をしよう。そのへんに座っててもらえるかい?」
(そのへんって………この床に置いてある棺は、椅子の代わりなのか?)

「聞きたいのは、切り裂きジャックのことだろう?今頃になってヤードは騒いでいるけれど…」
そう言って、骨壺のようなものを開けて中から骨型のクッキーを取り出した。
………どんだけ悪趣味なんだ……
「昔から娼婦殺しはあったんだよ。ただ、どんどん手口がハデで、残酷になってる。」
シエルが骨型クッキーを勧められていたけど、断っていた。
あれは私も遠慮したい。
「ホワイトチャペルで殺された娼婦には、皆共通点がある。」
「「共通点?」」
「…ですか?」
そう、シエルと私とセバスチャンが言った瞬間に、葬儀屋はニヤニヤと笑い出して、
「さてねぇ、なんだろう?なんだろうなぁ?気になるねぇ…」
そう、はぐらかした。

「成程ね、そういうことか。」
今まで黙っていた劉様が、納得したような顔でそう言う。
「いくらなんだい?その情報は。」
そういった劉様に、
「いくら?」
葬儀屋がもの凄い速さで、劉様の目の前までやって来て、
「小生は女王のコインなんか、これっぽっちも欲しくないのさ。」
そして、グリンとシエルの方に首を回すと、
「さぁ伯爵…小生にあれをおくれ…極上の『笑い』を、小生におくれ…!!」


(え?なにあれ、変態?)(こら杏子、仮にも坊ちゃんのお知り合いですよ。)(仮にもって………じゃあ聞くけど、あれを変態と呼ばずして、なんと呼ぶよ?)(人には、それぞれ個性があります。彼の場合、それが少し人よりも理解されづらいだけなのです。)(………すげぇよ、ちょっと納得しかけちゃったよ……)

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