貴方のいない 世界はいらない | ナノ
その職人、困憊。


私がロンドンのタウンハウスに到着してから、約1時間。
そろそろシエルとセバスチャンが、到着するという頃。
そのとき私は、ある一部屋を除き、全ての部屋の掃除を終わらせ、ぐったりしながら玄関前で待機していた。
(これは‥‥超疲れた‥‥‥‥)
疲れからか、自然と視線が下がる。
(今なら、立ってでも寝れそうな気がする。)
電車で立ちながら寝る人を見る度に、凄いと思ってたけど、意外と難しい事じゃなかったんだなぁ‥‥

ガシャッという音に、下がった視線を上に戻す。
すると、シエルとセバスチャンが馬車から降りてくる所で、私は慌てて2人に近寄る。
「長旅お疲れ様、シエル。セバスチャン。」
「あぁ。」
「お疲れ様です、杏子。掃除は終了しましたか?」
開口一番に紡がれたその言葉に、私は思わずあらぬ方向を見る。
「‥‥‥‥」
「どうしてそこで目を逸らすんですか?」
「いやぁ‥‥まぁとりあえず、中に入ろうよ。」
訝しげな目でこちらを見てくるセバスチャンを、全力でスルーして、私は扉を開けて2人に早く入るように促す。

「しかし、坊ちゃんがここにいらっしゃるのは、久しぶりですね。」
扉を開けるとすぐのホールは、すべてピカピカに磨き上げられている。
もちろん、やったのは私だ。
「そうなの?こんなにいいお屋敷なのに、もったいない。」
「僕は人の多い場所が嫌いなんだ。ここにだって、あの手紙≠ウえなければ誰が…」
「まぁまぁ、たまにはお屋敷を離れるのもいい気分転換かもしれないよ。」
「そうですね。あの4人もいないことですし、静かに過ごせそうじゃありませんか…って、どうしてまた目を逸らすんですか、杏子?」
「いや別に、なんでもないよ‥‥‥」
そう、私は知っているのだ。
どう考えても、静かに過ごせそうにないことを。

セバスチャンが、正面にある扉を開ける。
「まったくこの家は、ドコにお茶しまってんのかしら?」
「見あたらないねぇー」

「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥杏子、これは一体どういう事です?」
「ハハ‥‥‥アハハハハー‥‥‥‥‥」
「笑って誤魔化さない!」
「‥‥‥ごめんなさい。」
扉を開けると現れたのは、物が散乱した部屋と、人が3人。
皆一様に、何かを探して、ありとあらゆる物をひっくり返している。
「マダム・レッド!?劉!?何故ここに…」
シエルがそう言っていた頃、
「杏子?説明してくださいますね?」
「はい!!もちろん喜んで!!」
私は恐怖に震えていた。

「私がここに来たとき、もう部屋のほとんどがあんな状態でさ、」
そう言いながら、チラリと物の散乱した部屋を見る。
一通り部屋を見て回ったとき、扉を開ける度に物の散乱した部屋が目に入って、私は逃げ出そうかと思った程だ。
「でもとりあえず掃除はしようと思って始めたんだけど‥‥‥」
私が行くところ行くところに、3人は必ず付いてきて、『私達が散らかしたから』と言って手伝ってくれるまでは良かったのだ。
けど‥‥‥
「私が片付けた所から、散らかしていってね‥‥‥あの人達に悪気は無いんだけどさ‥‥」
私が一片付けたなら、彼等は十散らかすのだ。
これでは間に合わない!と思った私は、
「そういえば、セバスチャンがあの部屋に紅茶が置いてあるって、言っていたような気がしなくもなくもないです。」
と、超曖昧な発言をした。

「なるほど。それであの部屋はあんな状態に‥‥‥」
とりあえず、鉄槌という名の拳骨は免れたようだ。
「うん。‥‥ごめんね。」
「?なにがです?」
「いや、初めて一人で仕事任せてくれたのに、満足に出来なくて‥‥‥」
きっとセバスチャンなら、あの部屋だって完璧に綺麗にしたと思う。
それほどまでに、セバスチャンは完璧主義者なのだ。
「確かに、執事ならば仕事は完璧に遂行しなければなりません。」
「うっ‥‥‥」
「ですが、杏子は執事『見習い』です。」
「‥‥へ?」
「初めての仕事にしては、なかなか上出来ですよ。よく頑張りました。」
そう言って、セバスチャンは綺麗に笑った。



(とりあえず、あの方達に紅茶をお出ししましょう。)(了解。ところでセバスチャン、)(ええ、分かっています。1人、居てはいけない方が混ざっていらっしゃいますね。)(あー‥‥‥セバスチャンみたいなもん?なんか私超見られてるんだけど‥‥‥‥)(私とは少し違うのですが‥‥まぁ、それでいいでしょう。)

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