貴方のいない 世界はいらない | ナノ
その職人、復活。



なんとなく、浮かない気分のまま、シエルの着替えのために部屋を追い出された私。
ぼんやりしながら、エリザベス様の所へ向かっていると、突然腹部に衝撃が来て、私は後ろに倒れ込んだ。
「ぐへっ!」
「うわぁぁ!だ‥‥‥大丈夫ですだか?!」
どうやら衝撃の原因は、メイリンだったらしい。
「だ‥‥大丈夫だと思う‥‥‥多分‥‥」
私はそう言いながら、上半身を起きあがらせる。
「申し訳ないですだ‥‥少し急いでいて、前が見えていなかったですだ‥‥‥」
「いや、私もすんごいぼんやりしてたし、こっちこそ申し訳ない。‥‥‥ところで、なんでそんなに急いでたの?」
「それは‥‥‥」
その質問の答えを聞く前に、メイリンが走ってきた方から、金髪の少女がやって来た。
なぜかメイリンの体が、ビクッと揺れた。
「エリザベスさ「きゃあああ!」!!どうかなさいましたか、エリザベス様?!」
エリザベス様が突然叫び声を上げたから、私は何か緊急事態かと思い、立ち上がろうとした。でも、
「あれ?」
立ち上がれなかった。
なぜなら、メイリンが私の膝の上に座っていたからだ。
はたからみれば、恋人同士かのように見える、その体勢。
「二人はそう言う関係だったのね!」
エリザベス様がそう勘違いしても、おかしくは無かった。

「いやいやいやいや!違います、エリザベス様!」
「そ‥‥‥そうですだよ!私には心に決めた人が‥‥‥!!」
「え?誰それ、セバスチャン?」
私がそう言った途端に、メイリンの顔が赤くなって、
「!!!‥‥‥‥」
「へ?メ‥‥‥メイリン?メイリーーーン!」
そのまま、気を失い私の方に倒れ込んできた。
(セバスチャンかぁ。確かにかっこいいもんなぁ、見た目は。)
そんな棘のある事を考えながら、私はメイリンを抱き上げた。

「というわけで、私とメイリンはただの使用人同士というわけです。ご理解頂けましたか?」
メイリンを、とりあえず広間のソファに寝かし(部屋がどこなのか、分からなかった)エリザベス様に先程の説明をする。
「うん。ごめんなさいね、早とちりしちゃって。」
「いえいえ。分かって頂けたなら、それで良いです。」
思った以上にあっさりと誤解が解けて、私達にはシエルが着替えるまでの暇が出来た。
私はエリザベス様と目線を合わせるために、跪いた。
「一つ、聞いてもよろしいですか?」
「?いいわよ。な〜に?」
「どうしてエリザベス様は、可愛い物がお好きなのですか?」
「ん〜とね‥‥‥可愛い物を見てると、すっごく幸せな気分になれるの!」
「幸せ?」
「うん。どんなに辛いことがあっても、可愛い物があるだけで、私は笑顔になれる。」
「笑顔‥‥‥」
「そう、笑顔!今じゃ信じられないかも知れないけど、昔はシエルもね、すっごく可愛い顔で笑ってたの。」
「シエルが?」
「でも、シエルのお父さんとお母さんが亡くなって、シエルもいなくなって、やっとシエルが帰ってきた時、シエルの顔にはなんの表情も無かったの。」
「‥‥‥‥‥‥」
「暗い暗い顔をして、昔みたく笑わなくなった。私はそれがすごく辛かった。」
エリザベス様は、今にも泣いてしまいそうな顔で俯いた。
「私、シエルが好きよ。でもね、可愛い顔で笑う、あのシエルが一番好き。」
だからね、といって顔を上げたエリザベス様。その瞳には、涙がたまっていて。
「私が笑顔になれるものを、シエルにあげるの。いつも、上手くはいかないんだけどね。」
それから少し笑って、エリザベス様は泣き出してしまった。

私は胸ポケットからハンカチを出して、エリザベス様の涙を拭う。
「エリザベス様。」
「?」
「主人は‥‥‥シエルは、まだ幼い。それなのに、あの小さな体には多くの不幸が降りかかってきた。シエルはね、エリザベス様、その不幸を全て背負うには、まだ幼すぎたんです。だから、いつまでもそこから抜け出せない。でも、」
そう言って涙を拭い終わったエリザベス様に笑顔を向ける。
「エリザベス様のように、シエルの事を誰よりも考えている人がいるのなら、きっとシエルは笑顔を取り戻せます。」
いつか、私がそうだったように。
「だから、泣かないでください。その人を笑顔にさせたいなら、いつでも笑っていて下さい。」
こんな風に、といって、にかっと笑った私の顔を見て、エリザベス様が笑った。
「ありがとう、杏子。」
「こちらこそ。なんだか元気が出てきました!」
そう。
さっきまでの暗い気持ちは消え去って、私の心はなぜだかとても晴れやかだった。
「よ〜し!私も頑張りますか。」
「?何を?」
「エリザベス様と同じです。」
シエルを、笑顔にさせたいんです。
いつの日かの私を見ているようで、とても心配だから。
そして、いつの日かの私を笑顔にしてくれたあの人に、今なら恩返しが出来るって、そう思うから。
「頑張りましょうね、エリザベス様!」
「うん!」
だから、いつ帰れるのかなんて、まるで分からないけど、その日まで私はシエルのために頑張ろうって、そう決めたんだ。



(何をしてるんだ?お前達。手を握りあって。)(あ、シエル!へへ〜シエルには秘密だよ〜)(なんだお前。顔が気持ち悪い。)(え〜‥‥‥私の中の極上の笑顔だったのに‥‥)

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