貴方のいない 世界はいらない | ナノ
その職人、興奮。


「おい、杏子!馬車から体を乗り出すな!」
「いやぁ、風が気持ち良くて。」
「死ぬぞ。」
「ごめんなさい、今すぐやめます。」

ここはロンドンの中心街。
今までシエルの屋敷しか知らなかった私にとっては、知らないものだらけで好奇心が疼く。
だからといって、死にたくはないので、大人しく席に戻る。
1人分のスペースをとった向こうには、セバスチャンが座り、私の左前にはシエルがいる。

「今日は、昨日フィニが壊した杖の代わりを取りに来たんだっけ?」
「はい。ファントムハイヴ家当主たるもの、威厳があって然るべきですからね。」
「威厳かぁ、シエルには似合いそうもない単語だね。」
「お前、馬車から突き落としてやろうか?」
「やめてシエル!それやったら、さっき死ぬって言った!」
「殺してやろうかと言ってるんだ。」
「‥‥‥そういう事を言うときは、無駄に迫力に溢れてるよね‥‥‥」
「‥‥フンッ」

そんな言葉の応酬をしている間に、唐突に馬車が止まった。
「着いたようですね。」
そうセバスチャンが言った途端に、扉が開かれる。
場所的に私が一番最後に降りるんだけど、執事が主人より後に降りていいものなのか?
まぁ、いっか。だってほら、私見習いだし。
「おい、早く降りてこい。置いていくぞ。」
「えっ!ちょっ!待って!」
そう私が急いで降りると、シエルはもう店に入る所だった。
‥‥‥速い‥‥

「いらっしゃいボク。お父さんのお使いかい?」
眼鏡をかけた人の良さそうな店主がそう言った。
(確かになぁ。普通こんな小さい子が、杖使うとは思わないよ、うん。)
「‥‥‥」
(シエルなんも言わないけど、イラッとしてるんだろうなぁ。)
「失礼。主人の杖を受け取りに参りました。」
ニコッと笑いながら、セバスチャンが店主の前に出る。
「あぁ、この杖のひとか。」
そう言いながら、セバスチャンに杖を渡す店主。
「こんな短い杖、一体どんな人が使うのかと思ったら――」
(あっ、ちょー嫌な予感。セバスチャンなら、どんなものでも凶器になるよー逃げてー店主さーん‥‥‥!)
「まさかこんな子供―――」
そう店主が言った途端に、音もたてずにセバスチャンが店主に杖を突き立てた。
もちろん、寸止めで。
「歪みもなく、素晴らしい杖ですね。」
この状況で、そう言う事の出来た店主は結構凄いと思う。なぜなら、
「お釣りは結構ですよ。ほら杏子、いつまで呆けているんです?早く行きますよ。」
私はショックで固まっていたからだ。
(こんなに近くで、しかもずっと見てたのに、見えなかった、セバスチャンの動きが‥‥‥)
その後、ようやく動きを取り戻した私は、もういなくなっていた二人を追って、急いで店を飛び出した。

やっと二人に追いついて、二人の話をろくに聞かずにキョロキョロしていると、
「見てママ!!」
(ん?)
突然子供の大きな声がして、反射的にそちらを向く。
キラキラとしたショーウィンドウの前に、親子が立っていた。
「『ファントム』のビターラビット!しかも新しいやつだ!」
「もう…さっきお菓子を買ってあげ「ほほぅ、確かにあのうさぎは可愛いな。」
「?誰?お兄ちゃん」
「(お兄‥‥‥)ボク?いくら胸が無いからと言って、お兄ちゃんはないだ「貴様は子供相手にいったいなにを言っている。」‥‥‥だって、この格好動き易いのはいいんだけどさ、みんな男と思うんだもの。」
(昨日あれから他の使用人たちに挨拶したけど、反応が男に対するものだったし‥‥‥メイリンなんて、顔赤らめてたな。なんかしたか?私。)
「執事という時点で、普通は男だと思いますしね。というか、女性の執事と言うのは、見たことがありません。」
「そうなの?じゃあ男でいっか、うんそうしよう。ボク?お兄ちゃんの事は、これからもお兄ちゃんって呼ぶんだぞ。」
「お前は男に見られたいのか?それとも女に見られたいのか?どっちなんだ!」
「いやぁ、ぶっちゃけどっちでもいいんだ、これが。」

「しかし、『ファントム』のビターラビットかぁ‥‥‥可愛いなぁ」
「なんだ、気に入ったのか?」
「うん!ここに来る前なんかは、うさぎのぬいぐるみに囲まれた生活をしていたからね。うさぎを見る目だけはあるんだ!」
「ふ〜ん‥‥‥」
「うわぁ、気の無いお返事!」
「いや、別に。おいセバスチャン。」
「なんでしょうか?」
あーあーまた内緒話始めちゃった。
なんだろうか、この疎外感は。
「‥‥‥御意。」
「終わった?」
「あぁ。」
「では坊ちゃん、早く屋敷に戻りましょうか。」
いつのまにか、馬車は目の前に来ていた。

「そういえば、なんでシエルの屋敷はあんな人里離れた所にあるの?」
「坊ちゃんは、大変な人嫌いなんですよ。」
「あぁ、っぽいね。」
「社交パーティーに招待されても、壁の華を決め込む始末。」
「うわぁ‥‥‥そこは私でも愛想良くするよ、さすがに。」
「坊ちゃんも、愛想良くは出きるのですが、あまり長続きはしなくて‥‥‥」
「シエルの将来が、今から心配だよ‥‥‥」
「お前ら、本人の前でそんな事を言って良いと思ってるのか?見習い、お前は特にすぐにクビにで「あっ、そろそろ屋敷につくっぽいよ。ほらシエル、降りる準備して!」‥‥‥」

「お疲れ様でした、坊ちゃん。すぐにお茶の用意を致しましょう。」
そう言って、ガチャッと扉を開けたセバスチャン。
私とシエルは、その向こうの景色に絶句する。
「?どうかされまし…!!?」

扉を開けるとそこは
メルヘンの国でした。



(これは‥‥‥流石の私でもちょっときついかな‥‥‥)(僕の屋敷が…)(一個一個のぬいぐるみとかは可愛いと思うんだけど‥‥‥ってシエル?)(ぼくのやしきが)(え?それさっきも言ったよ、シエル)(ボクノヤシキガ)(こーわーれーたー!シエルが壊れた!助けてセバスチャン!)

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