貴方のいない 世界はいらない | ナノ
その職人、治療。

セバスチャンさんに足を診てもらって、いつの間にかここまで歩いてきていたシエルと、馬鹿な言い合いをした後、
「坊ちゃん、杏子お嬢様を連れて行きますが、よろしいですね?」
「あぁ、さっさと連れて行って治療をしてやれ」
「御意。」
と2人が言うので、地面に手を着き立ち上がる。
(よっこらせっと‥‥って立ち上がれたはいいけど、歩けない!てかよっこらせって!年か!私も年か!)
まだ若いつもりなんだけどなぁ‥‥‥

そんな事を考えながら前を向くと、若干呆れ気味な顔をしたセバスチャンさんがいた。
「全く。貴方は無茶をしますね。立ち上がらずとも良かったのに。」
いたはいいけど、距離おかしくない?
めっちゃ近いんですけど、顔めっちゃ近いんですけど。ごめん、もっかい言っていい?めっちゃ近いんですけど!
「行きますよ。」
めっちゃ近いんでって、あんれぇ?
「いつの間にか抱き上げられている!」
しかも姫抱きです。

「お‥‥‥降ろして下さい!」
これは恥ずかし過ぎて死ぬ!
「そんな事を言って、1人で歩けるのですか?」
「歩けます!歩いてみせます!」
だから、どうか‥‥‥!
「無理です。」
即答でした。

結局姫抱きのまま部屋まで辿り着いた私は、ベットに座らされている。
ちなみにセバスチャンさんは、救護箱を取りに行ってしまったため、部屋には誰もいない。

それにしても、とベットに倒れ込みながら思う。
(あんなに強い人は、お父さん以来だ。)
先程の戦いを思い出し、父と重ねる。
(互角か‥‥‥もしくはそれ以上か)
父の強さは尋常じゃなかった。
でも、セバスチャンさんはそれ以上かもしれない。

(お父さん、元気かな‥‥‥心配‥‥してるか。娘が突然いなくなったんだもんなぁ‥‥‥)
お母さんも、と思ったとき扉が叩かれる音がした。

私の足元にかがんで治療をするセバスチャンさんをじーっと見つめる。
「どうかしましたか?」
「いえ!何でもないです!」
さっきは確かに、瞳の色が違かったんだけどなぁ‥‥‥

「でも、びっくりしました。セバスチャンさんがあんなに強かったなんて」
「それほどのことではありませんよ。私は、あくまで執事ですから。」
「そういうものですか?」
「そういうものです。」
と言いながら包帯を結んでいる。
いつの間にか治療が終わっていた。
「ありがとうございました、セバスチャンさん。」
そう笑顔でいうと、怪訝な顔をされた。
何故?

「昨日から気になっていたのですが」
「?」
「私は、ただの使用人です。坊ちゃんの客人である、杏子お嬢様に『セバスチャンさん』と呼ばれるような身分ではございません。敬語を使われる事も。」

それはつまり、
「セバスチャンって呼んで、タメ口を叩けって事ですか?」
「はい」
「いやいや!無理です!無理です!」
「駄目‥‥‥ですか?」
「くっ!上目遣いは卑怯です!」
でも私は屈しない!屈しないぞぉ!

「では、これならどうでしょう?」
「!!‥‥‥っ!」
「おや、黙ってしまいましたね。ではこれは?」
「‥‥ぁっ!やめ‥‥‥っ!」
「おやおや、そんなに瞳に涙を溜めて‥‥‥」
「‥‥セバ‥‥スチャン‥さ‥‥‥‥ん‥‥‥お願‥‥い‥!それは‥駄‥‥目‥‥‥!」
「仕方のない子ですね。セバスチャンと呼べと、そう言ってるでしょう」
「‥‥‥分かっ‥‥た‥‥‥‥‥呼び‥‥ま‥す‥‥‥っ!」
「敬語は?」
「使わ‥‥‥ない‥‥か‥‥ら‥‥‥だか‥ら‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥右足から手を離せぇぇぇ!」
痛い!めっちゃ痛いよ!悪化したらどうするんだ!

「杏子お嬢様にはそれが一番かと思いまして。」
「だからって、怪我した足をこねくり回さないで下さい!」
「申し訳ありません。杏子お嬢様があまりにも聞き分けがないので」
「私のせいか!‥‥‥まぁいいです。条件つけますよ。」
「?」
「『杏子お嬢様』っていうの、やめてくれませんか?というか、やめなきゃセバスチャンって呼びません!敬語もやめません!」

「では、どのようにお呼びすれば?」
「普通に、杏子とか。立場的に無理なら、譲歩して杏子様とか。」
「では、杏子様と呼ばせていただきます。いいですね?杏子様。」
「構わないよ、セバスチャン。お嬢様より、ずっといい。」
そう言って笑顔を向けると、セバスチャンも笑顔を返してくれた。



うん。後ろに黒いものなんてない。
素敵な笑顔だ。



(そう言えば、私はいつからお菓子を作り始めればいいの?)(足を怪我してらっしゃるのに、そんな事させられませんよ)(えぇ〜手を怪我した訳じゃないから、大丈夫だよ。作りたい。というか、作らせて下さい。つか、作らないと死んじゃう)(仕方のない人ですね)(あぁ!足を掴むな!痛い!めっちゃ痛い!痛くて死んじゃう!)

prev next


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -