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階段を駆け上ったのは初めてイアンと会った時以来だ。ヒールがカンカンと鬱陶しいくらいに音を立てる。ブラックと手を繋いでいるからなのか、焦っているからなのかわからないけど、杖を出すのももたついてしまう。やっと出てきた杖を思い切り振りかざして鍵を開ける。


「そんなに慌てなくてもいいだろ」


ドアを開けた瞬間に、ブラックは全然息が乱れてないまま言った。………何なんだろう、この体力の差。ブラックと繋がれたままの手を見つめる。温度も違うし、肌の色も違うし、全部違う。ブラックの変わらない手に、息がどんどん落ち着いていく。


「あいつ、誰だよ」

「………同じフラットの人」

「やけに親しげだったけどな」

「そ、そんなことない」

「誘われたってどういうことだ?」

「そ、それは、たまたま」

「たまたま誘うことなんてあるか?」

「………物珍しかったんじゃない?日本人見たことないとか言ってたし」

「俺はそういう意味で言ってるんじゃない」


ブラックの言葉を無視して部屋を見渡す。……待って、すごく汚い。こんなに散らかってたっけ。さーっと血の気が引いていくのがわかる。ブラックの手と逆の手で杖を振って、こっそり片付けをする。カチャカチャと音を立てた皿に舌打ちをしたくなる。いつもはもう少しだけマシなのに。


「ごめん、散らかってて」

「そうか?俺の家の方がひどい」

「そうなの?」

「来るか?」

「……え?」

「ここにいるより一緒に住んだ方がいいんじゃないか?家賃だって高いだろ」


それは否定できない。わたしだってルームメイトかほしいし、もうちょっと駅に近ければ楽だろうなって思う。周りで一人暮らししてる人なんてそうそういないし。ちょっと郊外だからロンドンより安く住めてるってだけで、財布には全く優しくない。………いやいやいや、ちょっと待って。そもそも話が飛びすぎてよくわからない。ブラックの家にも行ったことないのに、一緒に暮らすとか、話が急すぎる。


「何で目ウロウロさせてるんだよ」

「だ、だって、ブラックって一人暮らしなの?」

「いや、リーマスとピーターと住んでる。でも名前と暮らすなら新しく部屋探さないとな」

「えっそんな。邪魔できないよ」

「そういう話じゃなかったのか?だったら何で俺が一人暮らしだなんて聞くんだよ」

「ちがう、一緒に暮らすなんて言ってない」

「名前だってその方が楽だろ。職場がロンドンなんだから」

「そうだけど………」

「俺と一緒が嫌だってことか?だからこれまでここに呼ばなかったってことかよ」

「ち、違う」

「どうだかな、リリーからここの住所聞くまで何にもお前から聞いてない」

「それは………」

「何だよ」

「いや、来て欲しくなかったとかブラックに会いたくなかったとかそういうわけじゃないんだよ。わたしだってブラックに会いたかったし、何してるのかなとか考えたりしてたし」

「……………」

「だけど、………」


すごく恥ずかしいことを言ってしまった、って少し思ったけど、言わずにはいられなかった。ブラックにそこは勘違いしてほしくなかった。だけど、本心を言おうとすると上手く言葉が出てこない。それこそ誤解されるようなことを言うことになるんじゃないかとか、ブラックのことをすきじゃないって捉えられたらどうしようとか、ぐるぐるとしてしまって、上手く言うことができない。


「もうあのマグルの方が良いってことか?」

「違う、でもその言い方はやめて」

「……………」

「わたし、ブラックには誤解させてるかもしれないけど、あの人とは本当に有り得ないかなって思ってる」

「……何だそれ」

「だって、なんか、こう、……」


イアンにはブラックと話している時に感じる安心感はない。一から説明しなくてもわかってくれるわけではないし、そもそも一から説明するわけにもいかないし。ずれをものすごく感じてしまう。ホグワーツにいる人ならわかるはずのことがわからないとか、感覚とか。たとえこの数ヶ月会っていなかったとしても、今の数時間で私はやっぱりブラックと一緒にいたいって考えてしまった。少なくとも私は、だけど。そしてこんな風に言ったところでイアンの気持ちはわからないけど。ブラックの手をもう一度握りなおす。


「私はブラックとの7年間、……実際は2年くらいだけど、それを失くしたくないから。イアンがどう思ってるかは知らないけど、ブラックじゃなきゃ嫌なの。手を握るのも、触れるのも、全部」


ブラックをじっと見つめる。静かだった瞳がどんどん私に近付いてきて、まだ空いていた距離を私からも埋めた。どんどん深くなっていくキスが怖くて一瞬逃げたくなったけど、ブラックの首に手を回した。何もわからない、けど、ブラックがそばにいることはわかってた。



20170827
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