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目を覚ますと目の前にブラックがいて心臓が止まるかと思った。ブラックはまだ寝ていて、灰色の目は見えないままだ。毛布から出たくなるほど寒いことは、顔の冷たさからもわかった。ブラックがきついと感じるくらいにわたしのことを抱きしめていることに気づいて、昨夜のことを思い出して逃げたくなる。でも逃げられそうにないし、ブラックを起こしてしまいそうだ。………どうしよう。杖はどこに置いたかわからないし、時間もわからない。目が覚めたということはちょうどいい時間かむしろ遅れてしまいそうな時間なはず。背中に回った手をそれとなく外そうとしたいけど、どうすれば外れるのかわからない。経験が足りなさすぎるんだろう。顔が恥ずかしさからか熱くて仕方がなく仰ぎたいくらいなのに腕もひとまとめにブラックに抱きしめられているから出せやしない。


「ブ、ブラック」


小さくブラックの名前を呼んでみた。起きるのかどうかわからないけど呼んでみるだけましだ。ブラックの目は開かれなくて、むしろ強まった腕の力に泣きそうになりながらもう一度ブラックの名前を呼んだら、口元が歪んだのがわかった。


「起きてたの……」

「ああ」

「何で1回目で反応しないの……!」

「俺の名前呼ぶのが聴きたくて」

「な、なんで……」


ブラックは嬉しそうに笑って、私を一度強く抱き締めると離れてベッドから降りた。一緒に寝たのなんて初めてだ。ブラックに続いてベッドから降りると自分とブラックの杖と時計が目に入る。まだ時間には余裕があるみたいだ。


「何か食べる?」

「それより風呂に入りたい」

「じゃあ先入っていいよ」

「一緒は?」

「はぁ!?」

「冗談」


私の頭を軽く引き寄せてから、ブラックはバスルームの方へ向かっていった。ブラックの手の感触と、あたたかさがふれられたところにはりついてるみたい。起きたときよりも心臓が動いてる。大きく息を吸って吐いた。昨日出しっぱなしにしてしまっていた服をたたむとブラックのにおいが強く香る。

いや、してないけど。

さーっと血の気が引いていく。しているような雰囲気を出していたブラックに息が詰まった。いや、嫌とかじゃなくて。そういうわけじゃなくて。


「何してんだろう、私」


シャワーの音が小さく聞こえてきた。 冴えていく頭と、昨日の記憶がどんどん蘇る。そう、していない。最終的に拒否したんだ、私は。ブラックの優しい対応に申し訳なくなる。これ、怒られたって仕方なくない?メアリに話したらまた爆笑される。嫌いなわけがないし、むしろすき、だし。でも、やっぱり怖かった。どんどん深くなっていったキスに、私の身体を撫でるブラックの手に、勝手に熱くなった自分の身体に、怖くなってしまった。

机にあった私の杖と並んだブラックの杖に気恥ずかしくなってしまって、自分の杖を取って一振りした。机の上に置きっぱなしだったパンを取り寄せてにおいをかいだ。まだ大丈夫そうだ。昨日は暑くなかったし、温度は。


「本当、子どもみたい」


いっそ一緒に住めばこんなことにはならないのかな。ブラックの昨日の言葉を受け入れるべきかどうか。強制的に大丈夫なようにさせるとか。だって一緒に住んだら、むしろしない方がおかしいでしょ。いや、一緒に住んでなくてもしてないのはおかしいんだろうけど。


「何が?」

「ぅわっ」

「そんなに驚くなよ。ゴーストでも出たみたいに」

「だ、だって、物音しなかったから」

「名前が考え込んでたんだろ」

「そ、そうかもしれないけど」

「何考えてたんだ?」


ブラックが濡れた髪を拭きながらじっと私を見る。……何か、水も滴るいい男って、こういうことを言うのかな。何を考えてたんだって言われたらブラックのことだけど、だけど、なんていうか、言いづらいことでもあるし。


「えっと………」

「…………」

「ご飯、食べない?」

「……ああ」


先にお風呂に入りたかったような気もするけど、もうこう言ってしまったんだから仕方ない。ブラックが私の手を優しく握った。熱がこもったみたいに暖かい手が心地よかったけど、昨日の私にはやっぱり無理だったんだ。ああ、もう意気地なし。



20181028
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