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どこでも、と思ったけど、現実的にどこでも行けるかというと、バイクだし、明日お互い仕事もあるし、駅付近のマグルがやっているレストランに行くことにした。


「名前は相変わらずだな」


そういってブラックは笑うけど、正直、ブラックに笑われようとこれを直す気にはなれなかった。ブラックは学生の時から変わらずに、自分のペースを崩さないことで周りもペースをブラックにあわせていくのだろうけど、私は周りのペースに自分のペースをあわせるほうが楽だ。しっかりと身体をブラックにくっつけていないと振り落とされそうなくらいに不安定なバイクは、これまで乗ったことがないからブラックの運転が荒いのか、そもそもバイクがこういうものなのかもわからなかった。箒の方が慣れてるから安心できる、とは言えないよね。ていうか、そもそもこの場で箒になんて乗れないし、箒もってないし。私の箒レベルは人並みだから、多分ブラックとかポッターに比べたらお遊びレベルだ。耳元で風が音を立てる。夜のにおいと、ブラックの服から感じるブラックのにおいとで、私はブラックとこの世界にふたりきりみたいだなんて、本当に小説みたいなことを考えた。ばかだなぁ、さっきまでポッターのことも考えてたのに。




ご飯を食べ終わってからまたバイクに乗せてもらって、フラットまで帰ってきた。指先が冷えていて、いつの間にかもう寒くなったんだと感じる。ホグワーツを卒業してからまだそこまで経っていないし、この辺の方があったかいはずなのに、寒くなると比較も出来なくなるのは不思議。バイクから手を引いてもらって下りて、そのままブラックは私の手を離さなかった。じわじわとブラックの手から熱が伝わってきて、私もブラックの手を握りしめた。街灯に照らされて、ブラックの長くなった髪もきらきらと光っているように見えた。


「髪、伸びたね」

「名前もな」

「そろそろ切らなきゃ」

「何で?」

「だって、あんまりきれいに伸ばせてない」

「前はリリーに切ってもらってたよな」

「そうだね。……前っていうほど前でもなくない?」

「……まあ、そうだけど」

「次会ったときに切ってもらうのって、どうなのかな」

「リリーだったら喜びそうだけど」


ブラックは杖でバイクのエンジンを切った。その瞬間、言葉が出なくなった。まるでシレンシオされたみたいに。あ、この後どうするんだろう。話し足りなくもある。ご飯を食べただけだし、実質まだ2、3時間しか経っていない。けど、これからもし私の部屋に来るのなら、それは、この前メアリと話した時みたいに、あ、どうしよう。急にブラックの手を離したくなった。手の先がどんどん冷たくなって、どうしよう。


「あれ?名前じゃん」


ひゅっと心臓を掴まれたみたいだった。勢いよく後ろを振り向くと、イアンが立っていた。な、なんで、ここにいるの。慌ててブラックの手をはなそうとしたけど、更に強く握られて痛いくらい。……いや、そもそもはなす必要ないけど。でも、何だか手を握っているのを見られるのが、なんだか恥ずかしい。そもそもブラックと会うのだって数ヶ月振りだし。


「誰だ?」

「同じ、マンションの人」

「そういうあんたは誰?」

「名前の恋人」

「………うわ」

「何だよ、その反応」

「え、あ、いや、その、そんなにはっきり言われると……」

「嘘なんかついてないだろ」

「ついて、ないけど」

「いたんだね、恋人」

「だったらなんだよ」

「いや、越してきてからそんな素振り全然見せないし、俺が誘ったときにも」


そ、そんな言い方……!慌ててブラックの顔を見ると思いっきり不機嫌そうな顔になってる。いや、ちょっと待って、確かに、確かにイアンにはブラックのことを言ってなかったけど、言ってなかったけど!ブラックはふぅん、と呟いて、私の顔を見た。私が悪い、うん、私が悪い。


「い、行こう、私の部屋。寒くなってきたし。じゃあね、イアン」

「ああ、またね」


ぐいぐいブラックの手を引っ張って、私はブラックの顔もイアンの顔も見ないように自分の部屋に突き進んだ。とりあえずブラックにあんな顔してほしくなかったし、ブラックとしっかり話したかったのは本当だった。



20170823
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