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「そろそろ名前はふくろうを買うべきだと思うんだよね、だってそんな面白いこと私に報告するべきでしょ、できるだけ早く。時はガリオンだよ」

「……私にとっては全く、本当に全く面白くないし。ふくろうはまあ買った方がいいと思うけど」


メアリがひとしきり笑い転げたから、床に紅茶が飛び散っていた。いったい誰が掃除すると思ってるんだろう。何度ついたか知れない溜め息をついて、杖を一振りすれば一瞬で消えた紅茶に、メアリは気付く様子もない。今更だけど。


「で?それはリリーには言えなかったわけ?私だってびっくりしたけど」

「何が?」

「まだここにブラックが遊びにきてないってこと。だってここに越してきてから1ヶ月は経ってるでしょ」

「……………」

「まさか、その間一回もブラックに会ってないとか」


そのまさかだった。メアリには何も答えず蛙チョコを開ける。メアリは思い切りわざとらしい溜め息をついた。……そこまでのこと?リリーにはちょくちょく会っている。実はメアリをここに呼ぶ前、お母さんと祐樹が日本に帰った後にも会っている。ただ、その時はこの話をしなかった。ブラックと会ってないとか、このフラットに呼んでないとか。別にリリーにはこの話をしたくなかったわけじゃない。ただ、リリーは、何ていうか、ブラックと近いから。ポッターのせいもあると思うけど。メアリはまだ遠い。だから話せることもある。


「いやー、じゃあまだなんだ?」

「……………」

「沈黙は肯定で良いよね」

「……………」

「名前って本当わかりやすい。意外だけどな、ブラックってもっとさ、ね」

「………ブラックは、優しいんだよ」

「嫌がったことがあるの?」

「……そんな直接的じゃない」

「あーなるほど。名前が、ね」


慣れてないからだ、圧倒的に。ホグワーツに居た頃からそうだった。キス1つにも、手を握ることにも慣れてない。自分からキスをしたのも数えるくらいで、基本的には受け身になってしまう。………これで、本当にブラックがすきでいてくれるのかな。ズン、と重石がのしかかったような気分になる。蛙チョコの足はいつの間にか手の温度で溶けてバタバタと苦しそうに動いていた。ブラックは優しい、空気を読む人だ。卒業してから全く会わなかったわけじゃないし、その時も、キスはした。少し、その、どうしよう、っていうキスだった。固まってしまった私にブラックは苦笑して、そのあとは何もしなかった。何だか申し訳なさすら湧いた。居たたまれなくなって私はこのフラットに帰ってきた。じわじわと顔が熱くなるのと、胸が冷えて行くので変な気分。


「呼んでないの?それとも来ないの?」


メアリの問いには相変わらず答えない。どっちも本当だからだ。呼ぶ、というのは了承したことになるし、来る、というのはブラックが要求したことになる。ホグワーツではなくて、よりプライベートな空間を持った以上、何だかより気を使うようになった気がする。ああ、もう。蛙チョコはもう見るも無残な姿になっている。


「嫌なの?」


嫌なんじゃない。正直なところ、嫌なわけではなくてどうしていいのかわからない。そしてこんなことをメアリと一緒の時に、メアリが質問してくるのもどうしていいのかわからない。


「そういえば、リリーって」


と無理やり話題に出したけど、特に何を言おうとしたわけではなかった。ブラックのことが頭から離れない。ポッターとリリーは仲良い恋人同士で、私とブラックも同じように恋人同士なんだ、全くそうは見えないだろうけど。1ヶ月会ってすらいないけど。開いた口を閉じるとメアリはやれやれ、という顔した。


「……メアリはヘンリーとどれくらいで会ってるの」

「言わなかったっけ?一緒に住んでる」

「………………え?」

「そんな顔する?私家族いないし、ヘンリー以外いまのところ考えられないし」


そう言ってメアリは幸せそうに微笑んだ。……私だって、ブラック以外が良いとか言ってるわけじゃない、もちろん。指についた蛙チョコの残骸を舐めとって、ティッシュを呼び寄せる。何だかなぁ。何が正解なのか本当にわからない。



20170119
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