どっちが姉でどっちが妹?


「借金のカタに娘を売るなあああ! …あれ?」

自分の叫び声で目を覚ますと、ウチの顔を覗き込んでいる双子の妹の宇海と目があった。

「天海ちゃんおはよー」
「…おはよう、宇海」
「早くご飯食べないと遅れちゃうよ?」

エプロン姿で片手にお玉を持った宇海は喋り終わると、ミニキッチンの方に行った。
欠伸をしながらベッドから降りると、味噌汁のいい匂いがした。

「味噌汁の具って何?」
「豆腐と油揚げだよー」
「本当? それ大好き!」
「それじゃあ、食べようか」

二人揃って手を合わせて「いただきます」と言った。
今日は白いご飯に、味噌汁、卵焼き、煮物。宇海の作るものはどれも美味しいものばかりで、どれから食べようか迷うなあ…。

「天海ちゃん。魘されてたみたいだけど、またあの夢見たの?」
「…うん。毎晩あの時の夢を見るよ」

あの時―――両親がウチに婚約者がいる発言をしたあの日。
もうあれから四ヶ月が経つっていうのに、ウチは毎晩あの時の夢を見る。
しっかり婚約者を見つけて来なさいよ、って両親に暗示か何かを掛けられたみたい。
けどウチにとっては悪夢でしかないけどね。

「毎朝“借金のカタに娘を売るなー!”で起きるなんて大変だね」
「本当だよ…。ねぇ、どうしても保健室に行かないとダメ?」
「琥太ちゃんセンセに診断書出さないとダメでしょ? それに明日から星月学園に通うんだから、挨拶しないと!」

両親に婚約者のことを告げられたのは、去年の12月上旬の話。
ウチは婚約を解消してもらおうと、婚約者が通ってる星月学園に転入することを決めた。
だけど運悪く体調を崩して、短期間の入院生活を余儀なくされた。
宇海は一足先に星月学園に転入して、婚約者を探してくれてるんだけど、今のところそれらしい人は見つかっていない。
ウチの体調が良くなって退院した頃には、すでに3月を迎えていた。
仕方なく四月から転入することになったけども、保健室の先生に診断書を出さないといけないらしい。
ウチにとってそれは大嫌いなキュウリを食べろと言われてるのと同じくらい嫌なこと。
社交的な宇海と違って、ウチは極度の人見知りでオマケに男の人は嫌い。

「心配しなくても琥太ちゃんセンセはいい人だよ。職務怠慢なトコもあるけど」
「やっぱり宇海が行ってよ〜」
「天海ちゃんが行きなさい。ほら早くしないと、入学式が始まっちゃうよ!」

今日のお昼から体育館の方で入学式が行われるらしい。
琥太ちゃんセンセという人も入学式に出席するらしくて、始まる前までに診断書を出さないといけない。
宇海曰く、「琥太ちゃんセンセは男の人だけど綺麗で女の人に見える」らしい。
それでもウチの嫌いな男の人には変わりはないだから行きたくない。
…でも宇海に怒られる方がウチにとっては一番嫌だから、

「…腹を括りますか」
「良く言った! 天海ちゃん偉い!」

宇海に怒られるよりは、全然いいからね。





どっちがでどっちが
「…やっぱり行くの止めようかな」
「こらこらこら!」




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