日常グッバイ 「あなたには婚約者がいるの」 ――――突然の出来事だった。 最初聞いたときは自分の耳を疑った。 もう十六歳だから結婚できる年齢だけど、ウチの家は金持ちでもなんでもない。 ごく普通の一戸建てに住んでいて、ごく普通の両親の間に生まれただけであって、そういう冗談は漫画やドラマの中だけにして欲しい。 それとは別に、一つだけ問題がある―――それは、 「ウチが男嫌いなの、知ってて言ってるの!?」 そう、ウチは大の男嫌いである。 声を聞くのも、姿を見るのも、触るのも触られるのも体中が拒絶する。 お父さんやお兄ちゃんたちは平気だけども、残りは全部無理! 「それは十分承知しているよ」 「なら、どうして!?」 「…天海ちゃん、昔から心臓が弱いでしょ?」 お母さんの問いに、無意識に体が反応した。 ウチは生まれた時から心臓が弱くて、小さい頃は入退院を繰り返していた。 今は昔よりは酷くはないけど、それでも人より体力は無くて、時には発作を起こすことがある。 「治療費や入院費にかなりのお金が掛かってね、足りなかった分は友達に借りたのよ」 「友達というのは本当に有難いな。うんホントに」 「…ウチの心臓が弱いのと婚約者云々と、どんな関係があるの?」 「実はその友達には年頃の息子さんがいてね?」 「……まさかとは思うけど、その婚約者って…」 「「うん、そこの息子さん」」 「借金のカタに娘を売るなーっ!!!!!!」 人生というのは何が起こるか分からない。 そんな言葉、ウチとは無縁の言葉だと思っていたのに――― 日常グッバイ 「人の人生を勝手に決めるなーっ!!!!」 prev next |