源氏名で隠した過去の君 「…………宇海?」 「……えっ、哉くん?」 目の前でマヌケな顔して驚いている男の子は幼馴染みの七海哉太。あだ名は哉くん。 両親が転勤族なおかげで会うのは小学生の時以来かな? それにしても哉くんてば見た目が随分と変わっちゃったなー。何個もピアスしてるし制服も着崩してるから不良君みたい。 「ちっちゃい頃の哉くんの方が好きだったよー」 「い、いいいいきなりなんだよ!?」 好き、て単語を聞いただけで哉くんは顔を真っ赤にさせた。 …こーゆーいじりやすくてイジメ甲斐があるのは小さい頃のまんま。うん可愛い。 見た目はかーなり変わっちゃったけど中身は小さい頃のまんまで良かった。 「あれぇ〜、マドンナ以外に女子なんていたの?」 「めっちゃ可愛くねぇ!?」 「ねぇ、俺たちと遊ばない?」 後ろを振り返るとガラの悪い男の子が三人いた。 ネクタイの色を見ると青色だから上級生ってことは分かったけど、これはアブナイ感じ? 隣にいる哉くんを盗み見ると眉間にしわを寄せていた。 哉くんはウチの方に腕を伸ばすとウチを自分の後ろに隠した。 ……隠したっていってもウチと哉くんの身長差はそんなにないんだけどね。 「何だてめえら?」 「あァ? 男に用なんてねえよ」 「俺らは彼女に用があるんだよ。どけ!」 「っ、この!」 「哉くん! きゃっ」 三人組の一人が哉くんを突き飛ばした。哉くんはふらつきはしたけど何とか転ばないように踏ん張った。 哉くんの方に腕を伸ばしたら、その腕を乱暴に引っ張られて気付けばガラの悪い男の子に捕まってしまった。 男の子のこの行動に、今朝視た夢がフラッシュバックした。 見慣れた空に草木、心配そうにこっちを見てる哉くんに、ニヤリと不敵そうに笑っている男の子たち。 星詠みのとおりだったら、この後に哉くんは男の子たちから一方的に殴られることになる。 哉くんは小さい頃から体が弱くて喧嘩なんか出来るはずない。 哉くんの為に、いっちょ本気出しちゃうか! 「おにーさん、恨むんだったら自分を恨んでね」 「は? うわっ!?」 腕を掴んでおるおにーさんにそう言うと、ウチは自分より身長の高いおにーさんを背負い投げした。 哉くんと残りの男の子たちは唖然とした様子でウチを見ていた。 星詠みだったら羽交い絞めにされてたけど、今は腕を捕まれてだけだから出来た行動。 ……さて、どんな反応をしてくれるかな? 「…て、てめえ調子に乗りやがって!」 「女だからって容赦しねえぞ!」 男の子たちはそう言ってウチに手を上げようとした時、 「お前ら何してるんだ!」 ウチでも哉くんでも、ガラの悪い男の子たちの声でもない第三者の声が屋上に響き渡った。 みんなして声が聞こえた方を見ると、めっちゃ特徴的な前髪の持ち主と赤髪おさげの男の子がいた。 ネクタイの色を見ると二人とも青色だからウチより上級生。今日は上級生によく会う日だねー。 ……あの二人、どこかで見覚えがあるんだけど…? 「不知火先輩! それに白銀先輩も!」 「げっ、生徒会長じゃねえか!?」 「逃げるぞ!」 ガラの悪い男の子はそう吐き捨てると、三人とも一目散に逃げていった。 前髪の人は男の子たちを追いかけようとしたけど逃げ足が速かったみたいで追いかけるのを止めた。 呆然と突っ立っていた哉くんははっとしてウチの元に駆け寄ってきた。 「宇海! お前大丈夫か!?」 「うん平気だよー。哉くんこそ大丈夫?」 「俺は平気だ。不知火先輩もありがとうございました!」 哉くんは前髪の人に勢いよく頭を下げてお礼を言った。 おぉー、哉くんがお礼を言うなんて珍しいちゅうか笑顔なんて可愛いな。 「気にすんな哉太。…久しぶりだな、宇海」 「男を背負いなげするなんて相変わらずだね〜、エンジェルちゃん?」 「……えっと、どちらさま?」 ウチがそう言えば、目の前にいる二人の上級生は目を丸くした。 だって本当にどちら様ですか? なんだもん。あっちはウチのことを知ってるみたいだけど…。 この星月学園には昨日来たばっかりだから今のトコは獅子くんと哉くん以外に友達も知り合いもいない。 第一、こんな特徴的な前髪の人と赤髪おさげの人を一回でも見たら忘れられないと思うんだけどなー。 …そーいえば、さっき哉くんの口から“シラヌイ”と“シロガネ”って名前が出てきたよね。それで赤髪おさげの人の口からは“エンジェルちゃん”と出た。 それに連想される人に心当たりがあるけど、まさか―――― 「いっちゃんと桜ちゃん…?」 一か八かで言ってみた名前に二人はまた目を丸くしたけど、今度は嬉しそうに笑ってくれた。 ウチも久しぶりに二人に会えたことが嬉しくて自然と笑っていた。 哉くんだけは状況が読めなかったらしくて、一人だけ?マークを浮かべて首を傾げていた。 源氏名で隠した過去の君 「二人とも相変わらずだねー」 「エンジェルちゃんもね〜」 「桜士郎、黒歴史を掘り返さないでくれる?」 |