愛していた。
享年19歳。
そりゃ心残りなんてもんはたくさんあったわけで。でも、それでも自分のプライドと芸術は捨てたくは無かった。
なあ、サソリの旦那
そっちには何がある?
なあ、なまえ
またひとりで泣いてんのか?
ふざけんな、と怒鳴りながら力任せに彼女はオイラを殴りつけた。痛みを感じない。ああオイラはやっぱり死んだんだ。けれど今自分はここにいて動いている。そして目の前の彼女は泣いていた。
いきなり何も言わず恋人に死なれた彼女の痛みからすれば、オイラのこのあるはずの痛みは、きっと大したことないのだろう。
なまえの泣く姿があまりにも幼くて、空気も読まずにオイラは笑った。なに笑ってんのよ、と泣いていた彼女が言った。気にすんな、と言うと意味わかんないと返してきた。そしてふいに、彼女が笑った。なんでこんなヤツのために泣いてんだか、と言葉を漏らしながら。
その涙を拭く手に触れようとした。でも、身体は上手く動かない。この術者に、きっと行動を制限されているんだろう。それでもゆっくりとなまえの肩に触れると、なまえがゆっくりと顔を上げた。
同時にその肩に顔をうずめると、なまえの笑う声が耳元からした。
死んでもその甘えたがりは治らないのね、と嫌みを吐く口とは裏腹に、背中に回された二つの細い腕。冷えた自身の身体はなまえの体温を奪って、まるで生身であるかのような錯覚を覚える。
この時は、いつか終わる。
なまえはなまえで生きた者として、オイラはオイラで死んだ者として、もしかしたらこの大きな戦いの中で二人もまた戦い合わなければいけないのかもしれない。
でも今だけは、どうかこの時を感じていたいと、そう思いをこめて強く抱き返すと、いつもこんな風に仲直りしたね、となまえが言ってきた。もう怒って無いから、と言ったその声の弱さに再び彼女を強く抱きしめた。
だんだんと意識が無くなっていく。そろそろ操り人形になる時間なのかもしれない。もしくは強制送還かもしれない。
次に目覚めた時、
もしもサソリの旦那がいたら、この夢のような時を自慢してやろう。
もしもなまえがいたら、もう一度抱きしめてやろう。
意識が無くなる寸前、微かに彼女の言葉が聞こえた。きっとなまえはこの言葉を伝えるためだけにオイラの元まで来たんだと思う。こんな危なっかしい真似をするなんて、やっぱりコイツはバカなヤツだ。本当、バカなヤツ。
でも
「ばいばい、デイダラ」
そんな彼女だから、愛していたんだ。
愛していた。
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RADさんの「有/心/論」に感動し、「えどてん組に使おう」とずいぶん期間を使い、思い入れある作品です。
左心房に君がいるなら問題はない、という歌詞がデイダラかサソリさんぽいのでデイダラさんにしてみました。
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