彼は、愛を知っていた



不気味な黒炎が雨に打たれ、それでも尚消えずに轟々と燃えていた。雨すら食い尽くしてしまいそうなそれを見ている内に、死んでも尚、涙を見せまいとしているあの人の顔が浮かんだ。

悲しい兄弟。なんて悲しい兄弟。私が入る隙間なんて、髪一本分も無いのだろう。



弟は兄の真実を聞かされたらしい。長いような短いような一日後、アジトの外へひとり歩き出していた。

兄の面影を弟に見るように、私も無言で彼の後を着いていく。気づけば、弟の仲間であるという三人もやはり黙って着いて来ていた。


近くの海辺の絶壁に、弟はひとりたっていた。波の音がざわめき立ち、時々大きく引いたかと勢いよく塩水が崖に当たった。


そんな弟の様子を、ただ見つめていた。いつの間にか、仮面の男も来ていた。この男があまり好きでは無いので私は気づかないフリをしたが。



男の目線は弟に向いていた。ひどくそれに嫌悪を感じ、私は弟に視線を移した。僅かに肩を揺らしている。それは風などでは無かった。



ああ、泣いているんだ。



この数分の間に、兄の真実を反芻し兄との思い出を反芻したのだろう。私もたった数年だけだったが仲間として共に戦った兄を思い出して、気付けば泣いていた。見られまいと、そっとその涙を拭った。



「我らは蛇を脱した」



弟の声が、至極鮮明に聞こえて来る。その声に、もう迷いも涙も含まれてはいない。代わりに鷹が、弟の横を通りすぎ、独特の声色で鳴いていた。



「これより我々は、名を"鷹"と改め行動する」



"鷹"と呼ばれたメンバーが、慎重に弟の言葉の続きを伺っていた。何も言わずにここにいるのを見る限り、弟はかなり思われているのかもしれない。



「我々の目的はただひとつ……我々は…」




…木ノ葉を潰す





その言葉は、やはり鮮明に聞こえてきた。兄が描いた本当の夢がどんなものだったのか私には想像出来ないが、話したことも無い弟のその夢は、何故か当たり前のようにも思えた。


平和に生きる戦いを知らない者ならば、きっと彼の夢を嘲笑うのだろう。けれど私は兄の夢を僅かながら知っていた。

弟の夢を愛が無いと人は笑うだろう。けれど私は兄の大切なものを知っていた。



兄の愛はしっかりと、しっかりと届いている。けれど悲しい兄弟。なんて悲しい兄弟なのだろう。







彼は、
愛を知っていた





だからこそ、許せなかった。





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お題作品の第一作目です。

色んな意味でイタチを目標にして来たサスケの悲しさと、そんなサスケを気遣う"鷹"を書きました。

あの時"鷹"の三人の気遣いは、敵(?)とは言え優しいなと思います。そしてサスケはそれを知っているからこそ、後で突き放したのかな…と。





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