08



召喚士ご一行7名+元召喚士1名+元ガード1名。
合計9名の団体がジョゼ街道を寺院に向かって歩いていた。


「へー、ティーダって…ジェクトの息子かぁ!」
「タイガ…親父のこと、知ってるのか?」
「あぁ、知ってるも何も…10年前もさ、俺らジョゼにいたんだけど…そん時にブラスカさん達が来てさぁ。
ナマエもいたから数日立ち寄ってもらったんだけどな。そん時に言ってたぜ。
『俺の息子もおめぇみたいな髪の色でよぉ。いっちょまえに生意気な口聞くようになっちまったが、カワイいんだぜ〜!アイツは女房そっくりだからな!』って自慢しまくってた。」

タイガが当時の事を事細かに教えてくれた。


それを聞いていたティーダは妙に気恥ずかしくなってしまった。
相変わらずジェクトにはムカついているようだが、スピラに来てからジェクトの本音がいろいろと見えてきた気がして少しだけ見方が変わってきていた事も事実である。


「それでナマエに『ジェクトに似なくて良かったね』なんて言われていたな。」



ティーダは心の中で思った。


ジェクトに似てなくて本当に良かった!と…。







そうこうしている間にジョゼ寺院に到着した。
そこで一行はガッタと出会ったのだが、彼はジョゼ寺院に参拝してからビサイド島に戻るつもりらしい。
ルッツの分まで頑張って、ビサイドで討伐隊を続けるという決意を込めて参拝しているのであろう。
そんなガッタと別れ、ユウナ達は試練の間に向かう。
ティーダ達があれこれと頭を捻って仕掛けをクリアしていく中、アーロンとナマエは最後方でそれを眺めながら歩いていた。


「ナマエ。」

ふいにアーロンが名前を呼んだ。

「なに?」
「お前……俺に隠している事があるな?」


やはりアーロンは薄々気付いている―――
ナマエはそう思った。






いつだってアーロンを誤魔化す事は出来なかった。

10年前のアーロンならもう少し誤魔化せていたかも知れないが、これ以上隠し通す事は無理だと悟った。


「………今ここでは言えない…。でも、ちゃんと話すから……。」

今だけは聞かないで、とナマエの瞳が言っていた。
アーロンは頷くと、ティーダ達を追って歩き始めた。


「……………。」

ナマエは少しの間、アーロンの背中を見つめていた。
事実を告げたらアーロンはどう反応するだろうか…。
そればかりが頭を巡る。しかし、現実から目を背けてばかりはいられない。

それを充分理解しているナマエは決心した。





今夜、アーロンにだけは真実を告げよう、と。





そしてナマエは顔をあげた。

先程アーロンと話していた時の、輝きを失った金色の瞳はすっかりいつもの……いや、いつも以上の輝きをたたえていた。


彼女は、随分と離れてしまった仲間達に追いつくために、走っていった。













「なぁ…アニキ…。」

一方、リュウとタイガはナマエたち一行を泊めるために、一旦自宅に戻り、部屋の準備をしていた。
リュウ達の家は、この辺りでも有名な旧家である。
お陰で家は広く、ユウナ達のような大人数を泊めても全く問題ない広さだった。


「ん、どうした?タイガ…。」
「ナマエさ…アーロンの事、ずっと待ってたんだろ?なら、アイツが一番願っていた事は叶った…って事だよな。」
「まぁ…そうだな。俺は完全に認めた訳じゃないが…ナマエが『アーロンとの事、認めてくれなきゃリュウのこと嫌いになる』と言って俺を脅すからな………。」


リュウはとことんナマエに弱い。

4年前の旅でも、ナマエに声を掛けてきた男たちを再起不能にしてきたのも、他ならぬリュウなのだ。
その点はタイガも一緒で、リュウと共に、ナマエには相応しくない男たちを兄と共に排除してきた。
タイガの場合は、アーロンに関してはパッと見ただけで『ナマエを任せても大丈夫だ』と思ったらしい。
あとでナマエが理由を聞いてみたら、タイガは自信満々な顔で『俺はアイツの眼が気に入った!』と言った。
強い信念を宿した眼をしたアーロンなら…と思ったらしい。
それに、妹のように可愛いナマエが選んだ男に間違いはない!と思ったのだ。


リュウも心の奥底ではアーロンの事を認めてはいるのだが、どうしても素直に祝福してやろうと思えないのだ。

小さい頃から可愛がってきたナマエだから。




「アイツ…ナマエの現状、知らないんだよな…きっと。もし知ったら、受け入れてくれるのか…?」

タイガがそう心配すると、リュウはフッと笑って、


「ナマエが選んだ男だ。受け入れてくれるだろう…。
もしもそうでなかったら、俺は久々に召喚してでも倒すぞ(ニッコリ)」


それを見たタイガは、兄に対して恐怖を抱いたそうな。















それから少しして、玄関の方から『リュウ〜、タイガ〜?ただいまぁ!』と、ナマエの声がしたので、2人は玄関に出迎えに行った。

「やぁ、おかえり。その様子だと、祈り子とは無事に通じ合う事が出来たようだな。」


リュウがニッコリと(今度は普通に)笑ってユウナに問いかけると、頷いた。
その後ろではワッカとティーダが驚いていた。

「うわ〜…デカイ家だよなぁ…。」
「ほんとッスね…。」


一行はそれぞれ、案内された部屋に荷物を置いて、近くのショップにアイテムの補充などをするために向かった。


ユウナはミヘンセッションでケガをした人達を癒したり、治療の甲斐なく命を落とした者に異界送りをしたりするために寺院に戻っていき、リュウはユウナを手伝おうと言ってついて行った。







一方、ナマエはアーロンと屋敷に残っていた。

渋るリュウを脅してナマエがアーロンと同室になったのだ。






「ねぇ、アーロン。さっきさ…試練の間でアーロン言ったじゃん?隠し事してるだろ…って。」
「あぁ。」
「私さ、やっと話す決心がついたんだよ…。だから、みんながいない間に話すよ。」


そう言って、それまでアーロンの横に座っていたナマエは、正面に来て座った。


しっかりアーロンの目を見て話すべく……。









ナマエの口から語られた真実は、アーロンが予想していたものと寸分違わなかった。

嫌な予感が的中してしまったのだ。
















「私…………アーロンと同じ存在なんだよね……。」












アーロンは黙ってナマエの瞳を見つめていた。

「もっと驚くと思ってたけど。」

と、ナマエがおどけてみせると『何となく予想はついていた……』とだけ言った。


そう、アーロンはルカで再会した時点で違和感を覚えていたのだ。








もしかしたら、ナマエも自分と同じように死人ではないか…と、その時は漠然と考えていたのだが…。
スピラは死の螺旋で出来ている国だからこのような事も充分想定はできた。
アーロンは、この現実に複雑な気持ちを抱えていた。

「……どこでこうなったんだ?」
「ん…ザナルカンドには行けたよ。
だけど、10年前の繰り返しはしないつもりでいた。
だから一応、ユウナレスカに会うところまでは黙ってた。いくらエボンドームで私達の姿が出てきてもね、結末は黙っておいた。
んで、ユウナレスカが登場して例の話をした時に話したの…。
リュウはユウナレスカの話を聞いた時点で、『シン』がジェクトだって気付いてたんだけど。
でね、私…10年前にエボンドームで思った事を2人に全部言った。
ブラスカが死んでしまう事…ジェクトが『シン』になっちゃう事…全部がつらかったって。
目の前で大事な人がスピラの平和のために犠牲になって、究極召喚獣の祈り子となったガードが、またスピラを苦しめる存在になる……それがどれだけつらい事かってさ。」


当時の事を思い出してナマエの紅い瞳が涙で揺らめいた。




「誰かの犠牲に成り立つ世界なんか意味がないって、自分が思った事を言ったんだよね…。
そしたら、リュウもタイガも同じ考えでいてくれて、究極召喚を使わないで『シン』を倒す方法を考えようって事になって、ユウナレスカに言いに行ったんだけど、そこでやられた。
何としても、リュウとタイガは生きて帰らせたかったし……」



ナマエが一滴の涙を零すのと同時に、アーロンは力強くナマエを抱き寄せて、腕の中に閉じこめた。

「…………もういい…。お前の気持ちはわかった……。」
「待って、まだ続きあるんだよ?でね、結局リュウ達は守れたし、私もかなり瀕死状態だったけど、エボンドームから出る事は出来たんだ。だけど、そこで死ぬわけにはいかなかった…。
ユウナがいつか召喚士になるのは分かり切っている事だから、その時こそ守り通して……この『死の螺旋』を断ち切る事……。
それと、アーロンがティーダを連れてスピラに帰ってくるって信じてたから……まだあっちには行けないって思った。
だから、リュウに頼んで異界送りはしないでもらって、こうして彷徨ってるの。」

ナマエは涙を堪えながらアーロンを見つめてそう言った。



「……すまん……、俺はお前に謝らねばならんようだ…。」

ナマエがほんの少しだけ怯えた目をした。
アーロンがそれを察知し、頭を優しく撫でて囁いた。


「勘違いはするな。お前を怒ったりする訳じゃないし、ずっと共にいる。」

先程の、アーロンの言葉の真意がますます分からなくなっているナマエは首をかしげた。

「俺は…お前が俺と同じ存在と言う事を聞いて……お前の死がショックと言う気持ちもあるんだが、それよりも、事が済んだらお前とずっと一緒にいられるという事が嬉しくもあるんだ……。」


これではまるで、お前の死を望んでいたように思えてしまうがな…と、アーロンは苦笑した。

もちろん、そんなわけがないという事はナマエも充分理解している。







ナマエは、アーロンがこれからもずっと一緒にいるという事を言葉にしてくれたと言う事の方が嬉しかった。









「アーロン………大好き。」






ナマエはそう言って、アーロンに口付けた。

その口付けは、今までのどの口付けよりも暖かかった―――








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