アーロンに自らの事を打ち明けてから、しばらく2人は部屋で寄り添っていた。
…が、ふとナマエは何かを思い出したような顔をして、それから困惑した表情を浮かべた。
「何を百面相しているんだ。」
「いやね…実はさ…4年前にこういう身体になった時に、最初はリュウも私を送ろうとしたんだよね。
で、私が頼み込んで送らないでもらってさ。こうしてるんだけど…。」
「それはさっき聞いた。それが今の百面相に何の関係がある。」
「…………怒らない?」
「事の次第によるがな…。」
「…実はさ、いつか戻ってくるアーロンに会いたいから、送るのを待ってって頼んだのだよ…。」
それを聞いたアーロンは盛大にため息をついた。
だからジョゼ街道で会った時に 『会えたんだな?』と聞いてきたのか…と納得した。
要するに、ナマエはアーロンに会うためにスピラに残っていたのだから、会えたら目的は達成できた訳だから送る、と言う事だ。
「お前は考え無しにモノを言うな。」
アーロンは呆れて呟いた。
返す言葉もないナマエは『ごめん。』と謝ってから
「認めたくないものだな…。自分自身の…若さ故の過ちというものを…。」
と、どこかで聞いた事のある台詞をニヒルに呟いた彼女にアーロンは、再び盛大にため息をついてみせた。
「なんだ…その矛盾した台詞は。過ちを認めるのか認めないのかはっきりしろ。」
「シャ●大佐の名言(迷言)をバカにしたな!?」
「……○ャア大佐、と言うのが誰かは知らんが…ともかく、アイツの事は何とかすればいいさ。」
アーロンが強制的にナマエの話を打ち切り、リュウの話に戻した。
ナマエは、『リュウなら大丈夫だよ。分かってくれるはず!それに…そう簡単に私を送れないでしょ』と言った。
そう断言して立ち上がろうとしたナマエだったが、アーロンに腕を引っ張られ、彼の腕の中に収まってしまった。
「な……なにさ。突然……」
急な事に赤面しながらナマエはアーロンを見上げた。
「いや…今すぐに交渉しなくても良かろう。」
平然とアーロンは言う。
「で…でも……あっ!そしたらほら、アイテムとかの補充とか……」
「それはワッカやティーダが既に行っているだろう。……それとも、お前は俺とこうしているのが嫌なのか?」
アーロンはナマエの耳に唇を寄せて、最後の部分だけ囁く様に言った。
アーロンの吐息が耳を掠めてゾクリと震えた。
それは嫌悪からくる震えではなくて……。
そんな事をされてナマエは首まで真っ赤になってしまった。
「何を考えた?」
アーロンは喉で笑い、ナマエをからかった。
慌てて『何も考えてないっ!』と否定して、アーロンの束ねてある後ろ髪を引っ張った。
「こら、引っ張るな。」
「からかった仕返しだよコンチクショー!」
笑いながらアーロンとじゃれ合っていた。
そこに、『コンコン』とドアをノックする音が聞こえて、ナマエはアーロンからパッと離れた。
「おい、ナマエ。ちょっと入っていいか?」
ドアの向こうから声を掛けてきたのはタイガだった。
「あ、いいよ。入って?」
ナマエの返事を聞いて、タイガはドアを開けた。
「あ、アーロンもいるのか。ちょうど良いや。……ナマエ、お前あのこと言ったのか?」
タイガはナマエに小さい声で訊ねた。それにナマエは頷いた。
「そっか、アーロンには話したんだな。」
「あぁ、今さっき聞いたところだ。」
「それなら話は早いぜ。どうするんだ?」
連れて行くか、それともアーロンに会えたという願いは叶ったと送るのか。タイガはそれを聞いていた。
「勿論連れて行く。どうせ行き先は同じだからな。」
アーロンはそう言った。
それを聞いたタイガは驚いていた。ナマエからそのような話は一言も聞いていなかったのだ。
驚くのも無理はない話である。
「あんたも死人だったのか…それより、ナマエを守りきれなくてすまなかったな…。」
タイガはアーロンに謝った。
10年前、タイガはアーロンと密かに約束を交わしていた。
『アーロンにもしもの事があった場合は、自分が命を張ってでも守る―――』と。
タイガはそれだけが気がかりだった。
「いや、それは仕方ない事だったんだ。それも、ナマエの物語の一部だろう……。」
そう言ってナマエの髪を撫でながら、ナマエの瞳を見つめる。
「なぁ、これからも…コイツの事、頼むな。
こっちにいる間なら協力はできるけどさ、あっちに行っちまったら俺らはどうにもできない…ナマエが幸せになっててくれてる事を祈るくらいしかな。だから、頼んだぜ?」
『シン』を倒したら一緒に行くんだろ?
タイガはそう言った。
ナマエの事をよく理解している言葉だった。
彼女が、やりかけの事をそのままにして行くと言う事は念頭にもないようだ。
例えやっかい事に巻き込まれたって、彼女はいつだって『乗りかかった船だ』と言って、
きちんと解決してから進んでいたから。
現に、『ユウナの事を頼む』というブラスカとの約束も、確かに4年間留守にして保留にしていたがこうして再びユウナの前に現れて一緒に歩んでいる。
ナマエはそう言う女だという事をよく知っていた。
「フン……言われなくとも、これからはずっと共にいるつもりだ。」
アーロンは口角を上げてタイガに言った。
それを聞いたタイガは、満足そうな顔をして頷くと部屋を出て行こうとした。
そこをナマエが呼び止めた。
「リュウはなんて言うと思う?」
「あぁ?そうだな…アニキなら……」
「異界送りなんか出来るわけないだろ?」
タイガが、『アニキならなんて言うかな?』と考えている間に、いつの間にかドアに寄りかかっていて様子を見ていたリュウがそう言った。
「宇宙一可愛い妹なんだぜ?もし無理やり異界送りしようとする輩がいたら……俺がソイツを異界送りしてやるさ(ニッコリ)」
リュウはナマエを見ながら途中までとても愛おしそうな目をして微笑んでいたが、
最後の一言だけはいつもの様に、目だけが笑っていない、恐ろしい笑顔で言った。
コイツならやりかねんな……
アーロンはそう思った。
「アーロンさん、うちの可愛い妹を頼みますよ。泣かせるようなことがあったら……例えナマエに嫌われようとも俺があんたを異界送りしてやるから覚えておいてくれ。」
リュウはそれだけ言うと、『メシの支度、できたぜ。お前達も来いよ』と言って先に行ってしまった。
タイガもニッコリと笑って
「良かったな、アニキにもしっかり認めて貰えてさ…さーて、メシ食いに行くか!」
そう言って部屋を後にした。
その場に残されたアーロンとナマエは―――
「だってさ。これからもヨロシクっつーことで。」
と、悪戯っぽく笑い、アーロンの手を引いてタイガ達の後を追った。
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