06



キノコ岩街道をすすみ、リフターの所に到着した一行はルッツとガッタを見かけた。


近付いてみると彼らは言い争っていた。

ガッタは、自分も最前線に出たいと言う事を訴えていたが、ルッツはそれを認めずに自分の持ち場に戻る事を言ってそれ以上の反論を許さなかった。
そして、残されたルッツと一行は話した。



その時ルッツは、チャップを討伐隊に誘ったのは自分だとワッカに告げた。
それを聞いたワッカが怒り、ルッツに殴りかかった。
そこでナマエは初めて、チャップが死んでいた事に気付いたのだった。






ワッカもルールーも、一言も言わなかったから気付かなかった。
きっと、どこかで元気に暮らしているのかと……。

ナマエは、ショックが大きかった。





ビサイドにいる頃、ワッカやチャップ、ルールーに戦い方を教えたのは自分。
たまにブリッツの練習を手伝ったりもした。

そんなナマエの事をチャップは『姉ちゃん』と呼んでくれた。

何故か聞いたら、『本当の姉ちゃんみたいだから。』と言っていた。
そしてナマエも、チャップの事を自分の弟のように可愛がっていた。


もちろん、ユウナやワッカ、ルールーの事も弟・妹のように可愛がっていたが、一番可愛がっていたのはユウナとチャップの事だった。素直で可愛い、とよく言っていたものだった。











「ナマエ…ごめんなさい……言いにくかったの……。」

ルールーが立ちつくしているナマエのもとに歩み寄り、謝った。
しかし、誰よりもつらいのはルールーなのだ。


「ルー…私は大丈夫だよ…。ごめんね、知らなくて…。」

ナマエはルールーの肩に手を置いて、項垂れた。


「ううん、いいの…。」

ナマエはワッカとルッツの話を聞いていた。



チャップは、好きな女を守りたいという想いから討伐隊に入り、散っていったのだ。
ナマエはそれを聞いて、チャップの気持ちがよく分かった。







自分もそうだから。



自分が大好きな従兄の2人。

10年前出会った、大切な仲間であるブラスカの娘で、6年間ずっと一緒に暮らしたユウナ

ビサイドにやって来てから面倒をみたワッカ・ルールー・チャップ

一緒にユウナを守ってきたキマリ

ブラスカと同じくらい大切な仲間・ジェクトの息子のティーダ



そして、10年前からの大切な仲間でもあり、恋人でもある何よりも大切なアーロンを守る為に戦っている。




みんな守られなくても充分に強いが、それでも守りたいと思う気持ち。
チャップも同じ気持ちだったのだろう。
いろんな考えがぐるぐる頭の中を駆けめぐっていると、ふいに左肩に重みを感じて振り向くと横にはアーロンが立っていて、肩に手を置いていた。
ナマエの心中を察したのか、何も言わずに肩に置いていた手をナマエの頭に回し、自分の身体に凭れさせた。

『つらければ我慢はするな。』アーロンの顔を見上げれば、そう言っているようだった。


しかし、みんなのいる前では涙を見せないと決めているナマエは、唇を噛み締めて涙を堪え、心の中で泣いた。






そうしている間に、ワッカ達はルッツと別れた。
『生きて帰ってこい』と言って。


「チャップはさ、ナマエがビサイドを出て行ってから毎日のように『姉ちゃんはいつ帰ってくるのかな?帰ってきたらまた、ブリッツのパス練習とか手伝ってもらいたいんだよな〜。』って言ってたよ…。」


ワッカが、当時の様子を教えてくれた。ナマエは、その言葉を聞いて、俯いてワッカに

「……ごめんね、戻って来れなくて……」

と謝った。ワッカとルールーは首を横に振ると、『この話は終わりにしよう!』と言って先に進み始めた。
ユウナも頷いて、ナマエの手をつないで『行こう』と引っ張った。


(ユウナは人の心を癒せる子だね…)

そう思いながら一緒に歩いた。


「ねぇ、ナマエ…チャップさん、ナマエが戻ってきていてもきっと…ルールーを守るためって討伐隊に入ってたと思うんだ。だから…ナマエが気にしちゃだめだよ?」

ユウナにポツリと言われた一言にナマエは救われた。

自分の斜め後ろを歩いていたアーロンも、軽く背中を叩いた。


その温もりがナマエの心にしみこんだ。
それはまるで乾燥した大地に一滴の水がしみ込み、生き返るかのように。



「うん、そうだね…。それに今は、ユウナのガードなんだからしっかりしなくちゃね!」

そう言ってナマエは顔をあげて頷いた。
















一行は作戦本部に到着すると、入口にいたガッタに声を掛けられた。
しかし、様子がおかしい。

いつもの明るいガッタではなかった。


「まもなく戦いが始まります。いろんな準備を忘れないでください。」
「おいおい…なんかなげやりだな〜」

そう、ガッタは最前線で戦いたいのにこんなところでの仕事でふてくされているのだ。


「あったり前だろ!俺だって『シン』と戦いたいたくてここまで来たんだ!それだってのに……あぁっ、くそ!!」


ガッタは自分の最前線行きを認めてくれなかったルッツにも腹が立っていたのか、一気にまくし立てた。



「認められたいのなら……」

アーロンが突然口を開いてガッタはそちらの方を向いた。



「まず、与えられた任務を黙ってこなしてみろ。」

アーロンの一言にガッタは黙り込んだ。


「そうだね…やる事をしっかりやってからじゃないと、意見言っても認めてもらえないよ?」

ナマエもアーロンと同じ考えだった。










―――言いたい事があったら、やるべき事をしっかりやってから言えよ。じゃないと、だれも聞いてくれないぞ―――









幼い頃、ナマエの父はよくそう言って聞かせていた。それをガッタにそのまま伝えたが、ガッタは黙ってその場を離れてしまった。
それを見送ってから一行は、作戦本部内に入ると、そこには討伐隊の指揮官でもあるエボン四老師の1人、キノックがいた。


「おぉ……」

キノックは感嘆の声を上げながら立ち上がり、アーロンに近付いた。


「シーモアから聞いたが、本当に会えるとは思わなんだ。」

アーロンの側まで来たキノックはアーロンを抱きしめ、再会を喜んでいる様だった。

「久しいな、アーロン。10年ぶりか?」


そう言ってキノックは笑っていた。
横にいたナマエは
(暑苦しいおっさんだよな〜…)
と思っていた。


その横では事情を知らないティーダがルールーに説明をしてもらっていた。


そこに、ガッタが入ってきてキノックに作戦準備が整った旨を報告すると、キノックは『分かった、下がれ。』と言い、ガッタは命令に従い外に出て、それに続いてワッカとルールーも出て行った。
それを確認するとキノックは再びアーロンの方を向き、10年間について訊ねた。
アーロンは『もうすぐ作戦が始まる。そんな話はいいだろう…。』と、その話題を避けようとした。

他の人間に話すつもりは全くないのだ。

するとキノックは薄笑いを浮かべ。どうせ失敗する作戦だ、と呟いた。それを聞いたティーダは『ひでぇ!』と憤ったがキノックは視線すら送らなかった。
そこに、シーモアがやってきて声を掛けてきた。キノックは『始めてくれ』というと、アーロンの所をようやく離れた。





「あいつが老師とはな……。」

他に適任はいなかったのか、とでも言いたげな口ぶりで呟いた。
するとキノックがまた戻ってきた。横にいたナマエは
(あいつは地獄耳か何かかいな…その才能で老師になってたりして……)
と、そんな事を考えていた。先程答えるつもりはないと言わんばかりに避けた話題をまた持ち出している。

(しつっこいったらありゃしないや……外見も脂ぎってクドそうだけど中はもっとしつこそうだな〜…)

などと、ワッカが心を読めたらまた怒られそうな事ばかり考えている。


アーロンはキノックのしつこさに嫌気がさしたのか

「友との約束を果たしていた……まだ終わっていない」

とだけ答えた。ナマエも2人だけの会話に入りたくないのかユウナとティーダの所にやって来た。






「なんだか…居心地悪いね……」

ユウナがこそこそと呟くとティーダもナマエも頷いた。
ティーダがそこを離れると、今度はシーモアがやって来た。

「これはこれは…『伝説のガード』のナマエ殿ではありませんか…。先程はアーロン殿の陰にいらっしゃったようで、不覚にも気付きませんでした。申し訳ありません。」
「悪かったね、存在感なくて。」
「これは手厳しい…。どうかお気を悪くなさらないでください。ユウナ殿も心強いですね。父君と共に戦われた伝説のガードが2人とも一緒に旅をなさってくださって…。」
「はい。ナマエは……私にとって姉であり、母でもありますから…一緒に旅をしてくれてとても嬉しいです。」
「それはよかった。ナマエ殿、ユウナ殿を頼みますよ。」

シーモアはナマエに向かってそう言うと、ナマエは

「言われなくたってそうするよ。あんたも…老師だか何だか知らないけど、ユウナに何かしたらタダじゃおかないからね?その髪の毛だか触覚だか分からんもの、へし折っちゃうよ?(ニッコリ)」

と、口だけ笑ってそう言った。ナマエがこうして笑う時は脅しを掛けている時だ。



この笑顔が恐ろしく思えるのだ……。



シーモアは、触覚と言われたのが少し気に障ったのか、こめかみが少しだけピクリと引きつったが、すぐにポーカーフェイスを取り戻し

「そうですね…貴女はお強い。この世界で唯一人の魔法剣士ですから…私など一撃でしょうな…肝に銘じておきましょう。それでは、作戦がありますのでこれで……。」

シーモアはそう言って不敵に笑うと、キノックに声を掛けた。



「ナマエ…シーモア老師は大丈夫だよ…。」
「いや、あの触覚男、やっぱり何か良からぬ事企んでると思うよ。目つきがヤバイね。」

ナマエはユウナに耳打ちした。
気をつける様に…と。
これは、ユウナの育ての親として言ってるんだよ…、と。



ナマエはそう言った感情に敏感だ。
傭兵時代に身につけた感である。

目を見ればたいていの人間はわかるのだ。


「とにかく、アイツには気をつけてよ。私を心配させたら…また消えちゃうかもね。」

ナマエはそれだけ言うと、アーロンの横に行くつもりで歩き出した。
しかし、それはユウナによって阻止された。
何故ならユウナが走って追いかけてきて後ろから抱きついたからだった。


「ナマエ!私…気をつけるから……どこにも行っちゃイヤだよ…?」

ユウナは今にも泣き出しそうな声で、ナマエに言った。

「……分かってくれればいいよ?」


ナマエはそう言ってユウナの手をそっと離して、今度こそアーロンの横に行った。

ユウナは未だ不安げに立ち去るナマエを見送ると、作戦本部の端に向かった。




横にやってきたナマエをアーロンは一瞥すると、ただ黙って立っていた。
ナマエもそれに倣い、前を向いて立っていたのだが、ちらりと周りを見ると、ティーダがうろうろ走り回っていた。
声を掛けてきたティーダに、アーロンはただ一言、『ユウナのそばにいてやれ。』とだけ言った。
アーロンから離れたティーダは、次にナマエにも声を掛けてきた。


「ねぇ、ティーダ。ユウナの側に行ってあげて欲しいな。ちょっと冷たくしちゃったかもしれないから…。」

ナマエがそう頼むと、ティーダは『うっす。』と言ってこぶしを握って見せて、ユウナのもとに走っていった。







「ユウナ!大丈夫ッスか?」

ティーダが後ろからそう訊ねると、振り返って

「ドキドキするね…」

と言った。ユウナが振り返った時に視界の端にナマエが映り、表情を曇らせた。
ティーダはそれに気付いてフォローを入れる。

「ユウナ、ナマエな。さっきの事気にしてた。冷たくしちゃったかも…って。ユウナは心配しなくても良いよ。ナマエはどこにも行ったりしないから。」
「ホント?ナマエ、怒ってなかった…?私ね、ナマエの事…大好きだから、もうどこにも行って欲しくないんだ。」
「分かってる。大丈夫だから!笑顔で旅するんだろ?ナマエだってもう笑ってるんだから、ユウナも笑顔ッスよ?」


ティーダはそう言うと、アーロンとナマエがいる方を見た。
つられてユウナもそちらに目を向けると、笑顔に戻ったナマエがユウナに向かってヒラヒラと手を振っていた。
それを見て安心したユウナは頷いて笑顔を取り戻す。


「うん、ユウナには笑顔が一番似合うッスよ!」

ティーダはそう言って、近くにいた兵士に準備完了の旨を伝えに向かった。











―――いよいよ、ミヘンセッションが始まろうとしている…………

























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