05


「あ〜、やっぱりチョコボで移動するのはラクでいいな〜。あ、どうもありがとう!」
「い〜え〜、あなた方はチョコボの恩人ですから!また乗りたい時は声を掛けて下さいね〜。」


ナマエは、チョコボ乗り場の係員とそんな会話を交わしてからチョコボを返した。


そんなナマエを置いて先に進んだ一行のもとに合流したのだが、何やらもめている様だった。
近くにいたキマリに訊ねてみる。

しかし、キマリは無言で首を横に振るだけだった。


「ねぇ、アーロン。何があったの?」
「キノコ岩街道で討伐隊の作戦が行われる。」
「あ〜…それが終わるまで通行止め?」
「…の、ようだな…。」

アーロンはため息をついて引き返そうとする一行の後ろについた。

ナマエも一緒に歩く。そんな所に、ルカで見たグアド族の老師・シーモアが通りかかりユウナに声を掛けていた。
(うわ〜…近くで見ると変な髪型だな〜…普通のグアドとはやっぱ違うねぇ…。)
などと考えていたナマエであった…。
そんなナマエの心中を察知したのかチラリと視線を送るが、そのまま討伐隊の兵士にユウナ達の通行許可を言い渡すと、その兵士は先程とはうって変わって、あっさりとユウナを通した。
そして、側近を連れて去っていくシーモアの後ろ姿をみながら、ナマエは

「な〜んか気にくわない…。なんか企んでそう。」

と毒づいた。
その呟きを聞いたティーダも頷いて同調する。


「なんて事言うんだよ、ナマエ!相手はエボンの老師だぞ。そんなわけないだろ!」

と、ワッカに怒られた。












ワッカは純粋にエボンの教えを信じている。

それに対してナマエは全く信じていない。

信じたところで何か良い事が起こったわけではないから。
『シン』の襲撃で母を失って、父と2人で旅をしている頃から祈りなんて捧げた事はほとんどなかった。
祈ったところで、亡くした母は帰ってこない。
所詮、宗教など気休めでしかない…そう思っていた。

父と旅していた時に『シン』の襲撃に遭い、自分は助かったが父は瀕死の重傷を負った。





そして、結局は死んだのだ…。

助かる様に祈ってみても奇跡など起きなかった。












それ以来、ナマエは何があっても祈りを捧げる事はなくなった。


アーロンが返り討ちに遭い、死にそうになっていた時でも。



4年前旅に出た時も。




結局、自分で何とかしなければ何も変わらないから。



















「エボンの老師だから策略などしないってか。……おめでたいよ。だからワッカは青いって言うんだよ…。」




ナマエはそれだけ言うと、サッサと歩いていってしまった。

それにアーロンも続く。


ユウナはオロオロしてしまっていた。
あんなに感情もなく、冷たく何かを言い放つナマエなど見た事なかったからだ。
確かに冷たいいい方をしたことは一緒にいた6年間で何度か見た事があったが、それらは冷たくてもしっかりと何かしらの感情が込められていた。

だが、今のナマエはそうではなかった。

それはワッカにも分かったようで、今まで見た事のないナマエの状態に驚きを隠せず、ルールーも呆然と立ちつくしていた…。
キマリは、ナマエの奥底にある陰の部分を知っているから、どんな気持ちで今の言葉を言ったか分かっていたから、先程と同じように無言で首を横に振り、キマリも2人の後に続いて歩き出した。


ユウナとティーダもそれに続く。









残されたワッカとルールーは顔を見合わせた。


「…いったいなんだってんだよ…。」

ワッカが額に手を当てて天を仰いだ。

「……きっと…ナマエには、数えきれないほど多くの傷があるのよ…。人を…っていうよりも…… いろいろな事を簡単に信用できないような、ね。あの人は3度目の旅よ。いろんな事を見てきている。」
「それならルーだって3度目だろぉ。」
「バカね…」

ルールーは額に手を当てて呆れた様に首を振った。

「ナマエの1度目の旅は、『シン』を倒している……この意味がわかる?全てを知っているのよ?
それに…寺院嫌いも……きっとそれが関係しているんじゃないかしら…。」

そこまで言われてワッカは気付いた。

「私も…ナマエの生い立ちや、ブラスカ様のガードになるまでの事を知らないから何とも言えないけど………。あの人、ちっとも話してくれなかったからね…。」

ルールーはナマエが再び旅に出る4年前まで、何度かナマエに聞いた事があった。

どうしてそんなに強くなったのか、とか、ブラスカ様と出会う前までは何をしていたのか?とかを聞いてみたがいつでも笑って誤魔化しながら『強くなりたいって思ったから、頑張って修行しただけだよ?』 としか言ってくれなかったのだ。


「いつかナマエが話してくれるわよ。…ほら、みんな行っちゃったわよ。追いつかなきゃ!」

ルールーは気持ちを切り替えて、小走りで追いかけていった。
そしてワッカも、いつかナマエが自分の事を話してくれると信じて追いかけた。



























一方、先に歩いていったナマエとアーロン。




「どうした、自分をあそこまで俺やブラスカ以外に出すなんて珍しいな。」


アーロンは全て分かっているから全く動じていなかった。
それ以前に、自分が思っていた事と、ナマエの考えとは全く同じだった。

とは言っても、10年前の自分は、ワッカのような考えを持っていた。
あそこまで寺院を支持しているわけではなかったが…。
ブラスカとの旅を始める前までは…いや、ナマエと出会って、お互いを知るようになるまでは自身もそう思っていたのだ。

寺院が正しいと。





ブラスカと出逢い、その後ナマエと出逢い。
いつしか彼女が頑なだった心を自分に向かって開いてくれた時、その考えは少しずつ形を変えていった。

そして、ジェクトも加わり旅を始めてからは、少しずつ変わっていた考え方が、初めて経験する事や人との出逢いによりどんどん変化し、旅が終わる頃には、エボンとは何なのか…と考えるまでになっていた。


「お前の言うとおり、あの男は何を企んでいるか分からんな…。ユウナが騙されなければいいが…。」
「騙されるって!?そんなことさせるもんですかい!!あの触覚胸毛変●野郎に!」(凄い言いようだ…)
「フッ…お前が今みたいにキレていなければ、冷静にユウナにアドバイスでもできようものだがな…。」

アーロンに言われて、ナマエは今更だが自分のそれまでの状態に気付いた。

「私…キレてた?」
「あぁ、完全にな。お前は昔から、キレるとああなっていたから…。」
「うわ〜……マジッスか…。ワッカ、ビックリしてただろうなぁ〜…。」
「鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をしていたぞ。」
「あっちゃ〜〜ん…。やっちまったい………………………ま、考えても仕方ないっか。普通にしてよっと。」

ナマエは少し考えてから、それは無駄な事だと思い、開き直った。


やってしまった事は無しにできないから。
いつまでも引きずっていたらユウナに迷惑がかかるから。


「それでいいさ。」

アーロンはほんの少しだけ微笑んで、再び歩き出した。は立ち止まり、振り返った。
そこには、ユウナとティーダ、そしてユウナの後ろをキマリが守る様に歩き、その少し後ろには走って追いかけてくるワッカとルールーの姿があった。








自分には、アーロンやブラスカ、ジェクト、従兄達だけではなく

こんなにもたくさんの、信用できる仲間がいる。






いつか、ユウナやルールー達にも真実を告げよう。

話して『ナマエ』という存在の全てを受け入れてもらおう…













久しぶりに、自分の気持ちに素直になれた気がした。











「ユウナ、さっきは驚かせちゃってごめんね?」

ナマエの前に来て、心配そうな顔をして自分の表情を伺うユウナに謝った。


「ううん、いいの。私は大丈夫だから…私もワッカさんも、まだまだ知らない事たくさんあるから…。」
「少しずつ知っていけばいいよ。つらい事もたくさんあるだろうけどさ…。ユウナ達なら大丈夫だから。」

ナマエはユウナに笑ってそう言うと、まだ遠くにいるワッカに


「ワッカ〜、さっきはゴメンねぇ。」

と、大声で言った。


「お〜ぅ、俺も悪かったぁ!」

ワッカも大声で、素直に謝る。

それに満足したのか、ナマエはユウナの方を再び向いて、『これでオッケ。じゃあ早速行きますか!』と言って、前方で立っているアーロンに向かって走っていった。













―――最後の時まで……笑っていたいよね。















そう思いながら。












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