04


部屋に差し込み始めた僅かな朝日の光と、ほんの少しの違和感を覚えてナマエは目を覚ました。


そして、自分の身体が拘束されていて動かない事を理解する。
ナマエは感じた違和感の正体を寝起きで冴えない頭で考えると……


彼女の細身な身体は、アーロンに背後からしっかりと抱え込まれているという状態だったから。
(うぁ〜///なんか…改めて考えると恥ずかしいな…この状態は…)
みんなに見られたらなんて言われるんだろう…そんな事を考えてしまった。


ナマエは、誰かが起こしに来るかもしれないから…と思い、着替えようと思った。




だが、行動にはでなかった。








ふと昔の事などをいろいろと考えた。


こうして愛する人が横にいるという事の幸せに改めて気付いた。
あの頃はアーロンが傍にいる事が当たり前の様に思っていた節があった。
『シン』を倒して、もし生きて帰る事が出来たらアーロンと、それからブラスカの娘・ユウナを連れてビサイド島に渡って、3人でのんびり暮らして…なんて考えていて…。

しかし、ユウナレスカを倒そうと2人で行ったザナルカンドで返り討ちに遭い、アーロンは死人になってしまった。

その時点で………いや、ジェクトが祈り子になって、『シン』を倒したら今度は自分が新たなる『シン』となるということが分かった時点で、思い描いていた夢は実現しないと悟った。アーロンはきっと、どのような手段をとってでもジェクトの息子・ティーダがいる『夢のザナルカンド』に渡ってしまうだろうと、気付いていた。








なぜならば…彼はマジメでバカ正直だから。



そして、友との約束を違える様なマネは絶対にしない男だから…。






死人となったアーロンなら、幻光虫で形成されている身体だから、『夢のザナルカンド』に入る事ができる。

そして、2人はナギ平原で、共に歩んでいくはずだった道を2つに分けた。





アーロンが、ティーダを。


ナマエがユウナを守る、と。







自分たちの物語を……

そして、このスピラの『死の螺旋』をいつか断ち切るまで…と、言葉ではなく視線だけでそう誓い合った。

























それからの10年は、誰かの温もりを感じて眠った事は無かった。


ユウナが幼い頃はよく布団に潜り込んできたけれど、ナマエが旅の間いつも感じていた温もりはそこにはなかった。

こうなって初めて、当たり前と思っていた事が、なによりの幸せだったと言う事にようやく気付いたのだ。
そして、どれだけ自分が、他の誰でもなくアーロンの温もりを求めていたのかを。

























「朝っぱらから一体何を考え込んでいるんだ…。」

突然耳元から聞こえた声にナマエは声も出ないほど驚いた。
声を掛けた瞬間にビクッと身を竦めたナマエに、アーロンは声を忍ばせて笑った。

「び…ビックリしたぁ。アーロン起きてたんだ?」
「お前が目を覚ます少し前にな。」

…てっきり寝ているものだと思っていた…。

よく考えれば、10年前もそうだった。一緒に寝ると、翌朝はだいたいアーロンの方が先に起きていた。
アーロンよりも先に起きた試しは一度もなかったのだ。


「そう言えばそうだった。」


何の脈絡もない返事にアーロンは訝しげに『何がだ』と訊ねてきた。

「いや…10年前の旅の時も、私ってアーロンより先に起きた事なかったなって思ってさ。」


ナマエに言われてアーロンは納得した。

先程ナマエが何を考え込んでいたのかを。







「…10年も待たせて、すまない…。」


ナマエはアーロンの言葉に驚き振り返ったと同時に、アーロンは掠める程度の口付けを落とす。
それからは何も言わずに、少しの間だけナマエの髪を撫でていた。
こみ上げてくる涙を抑えるのに必死で、でも限界は思った以上に近く、ナマエはアーロンの胸に顔を埋めた。
その状態のまま、どれほどの時を過ごしただろうか、起きたばかりの時にはまだ薄暗かった部屋も、完全に顔を出した朝陽が差し込んですっかり明るくなっていた。





ふいに顔をあげたナマエが、アーロンに向かって笑いかけた。何事もなかった様に。









「さ!そろそろ支度しないと!ティーダかユウナが乱入してくるかもしれないからね〜。」

ベッドから起きてモソモソと服を着た。
それを見ていたアーロンの視線に気付いたナマエは振り返ってニッと笑い『な〜に見てるのさ、アーロンのエロオヤジ〜!』と茶化し、その言葉に少々気分を害したアーロンではあったが、そのままナマエの胸元のある箇所にその視線は向いていた。







ちょうど、彼女の心臓付近にある傷に。






「おい、それは……」

ナマエはアーロンが言いたい事が分かっていたが、今の時点ではその話をするつもりはないらしい。
アーロンの紅い上着を、視線から逃れる様に投げた。

「まぁいい、いずれ全て…洗いざらい話してもらうからな。」


アーロンはそれだけ言うと、ようやく身支度を始めた。




「…………そのうち、ね…。」

支度を終えたナマエは『先に行ってるね』と続けて、部屋を出た。





















扉を閉めると、先程痛いほど視線を感じたその傷の上に手を当てて少しの間俯いた後、

「うん……、大丈夫。まだいける……。終わりをしっかり見届けないと…ね……。」

と小さく呟いてから、気を取り直して食堂に向かった。


























部屋に残されたアーロンもまた、自分の顔の傷に指を当てた。

そして、ひとつの答えを導き出す。

再会したときから密かに感じていた小さな疑問を重ね合わせて―――。
しかし、それを確信するのが怖いと思った。
自分の考えた事が杞憂であれば…と。

自分がティーダ達に真実を見せるように、


ナマエもまた。アーロンに空白の4年間の真実を伝えるときが来る。












その時を待とう、と心に決めて、アーロンも部屋を出た。
























一行はその後、旅行公司の前に現れたチョコボイーターを見事倒して、旅行公司のオーナー・リンの計らいで、1回だけ無料で乗せてもらえる事になったチョコボに揺られながらミヘン街道北端に向かった。








_4/17
しおりを挟む
PREV LIST NEXT
: TOP :
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -