03
あれからしばらく、ミヘン街道を北上していた召喚士ご一行は旅行公司の辺りまでやって来た。
そこで、アーロンは『此処で休んでいく。』と言った。


アルベド人を毛嫌いしているワッカは勿論渋っていて、そんなワッカを見かねたユウナがフォローを入れてはいたのだが……


「俺が疲れたんだ。」


の、一言で一蹴されてしまった。
ワッカに、この伝説のガードの言葉に逆らえる度胸はない。(ティーダとユウナ、ナマエだけであろう…)







結局、旅行公司ミヘン街道支店で一泊する事になったのだった。










みんなが変な気を遣ったようで、アーロンとナマエは同室となった。

アーロンは荷物を置くと、ナマエに目配せして外に出て行った。
10年間のブランクがあっても、何を言いたいのかが分かっている自分が少し嬉しく思う。


『付いてこい』



そう言っているのだ。







ナマエも荷物を置いてアーロンを追いかけて出て行き、誰も来ないような旅行公司の裏に来た。





最初は海を見ながら…と思っていたのだが、そこにはユウナが佇んでいた。
何やらスフィアに録画しているようだった…。
暫くユウナの後ろ姿を見ていた2人だったが、踵を返して公司の裏手に回ったのだ。


「あの子…究極召喚に頼らないで倒してくれるかな…?」
「さてな。ティーダがどう動くかにかかっているようだがな…。」

ナマエには分かっていた。彼ならばユウナを良い方向に導いてくれるであろう…と。












それから暫しの間、2人の間には沈黙が流れた。

しかしそれは、心地よい沈黙。
















―――やっぱりアーロンの傍が私の居場所…なんだなぁ…沈黙が心地良いなんてさ…







―――変わらないな…コイツも、俺も。……ナマエがいれば穏やかな気分になれるのも、な…

















互いにこの10年間、そういう話がなかったわけではない。
アーロンはザナルカンドで幾度となく女性に言い寄られた事があった。

しかしその度に、『自分には心に決めた女がいる』と言って断ってきた。
他の誰か、なんて事は微塵たりとも思った事がない。

もし彼女がスピラで他の誰かと…などと考えた日は苛々して何かに当たるなんて事もあったくらいだ。



そして、ナマエも同様で、ビサイドにいた時に、村の老人や僧官に縁談を持ちかけられたことが
幾度となくあったが、彼女もまた、アーロン以外の人間と添い遂げるつもりは毛頭なかった。

いつまでも彼の帰りを待つつもりでいたから。







もし、ザナルカンドで他の女性と仲良くしていたら…などと考えると胸が痛くなり、ついついワッカ達にいつも以上にきびしくしてしまうと言う事も多くあった。
そんな事をそれぞれ考えていたが、同時に互いの方を向いた。


あまりのタイミングの良さに、ナマエは思わず笑みを零し、それを見たアーロンも口角を上げて笑った。  


















そして、軽く触れるだけの口吻を10年ぶりに交わした―――







少しして唇を離すと、ほんのりと頬を染めたナマエが 『やっぱり…アーロンを待っててよかったな…』と、ごくごく小さい声で呟いた。


「…そうだな。」

アーロンは片手で彼女の背に手を回し、抱き寄せて同意した。
懐かしい匂いに包まれながら、ナマエは瞳を閉じて身を預ける。



10年前、ブラスカやジェクト達とこうして旅をした時も、よくこうして身を寄せ合った。









「そろそろ戻ろうか?」

ナマエは顔だけあげてアーロンに問いかけた。 アーロンも無言で頷くと立ち上がり、ナマエの腕をつかんで勢いよく引っ張り上げた。
それに驚きながらもしっかり立ち上がるナマエだったが、立ち上がると同時くらいに突然唇が塞がれた。




アーロンの唇で。








先ほどしたキスとは違い、どんどんそれは深くなっていく。
最初は突然すぎて驚いていたナマエも、すぐに落ち着きを取り戻したが、こんなキスをするのも10年ぶりのせいかあっさりと息が上がってしまった。
それに気付いたアーロンは、ナマエの唇を解放する。


「ぷは…っ、…もう、突然でビックリしたじゃん///」


顔を真っ赤にして抗議するナマエに、アーロンは

「フッ…隙があるほうが悪い。それに、これしきで息が上がるとはな…」

不敵に笑いながらアーロンは1人、ティーダとユウナが話をしている場所に戻っていった。
そして、その場に取り残されたナマエは………





「くやし〜〜〜〜〜っ!」




と、ぺたりと座り込んで心底悔しがった。 しかしその表情はややニヤけていた。

言葉の少ないアーロンだが、こうして身体全体で気持ちを代弁してくれているのは10年前からちっとも変わっていなかったからだ。
先程の行為で、彼の自分に対する気持ちが理解できてしまう自分に対しても嬉しさを感じていた。



「…よしっ。今度は負けないようにするぞ!」

ナマエはまだほんの少し赤みを帯びている頬を自分の掌でパシッと叩いて気合いを入れると、自分もアーロンの後を追って旅行公司の裏手から出て行った。

すると、ユウナに『中に入れ』と告げて旅行公司に入ろうとするアーロンとすれ違った。




アーロンはすれ違いざまにナマエに目で合図をした。






『お前も早く戻ってこい』と。



『俺の、お前に対する想いの真実をみせてやる。』と言っていた。








「まったく〜……///」

照れながら既に旅行公司の中に入ったアーロンに、密かに毒づくと、旅行公司に向かってやってくるティーダとユウナのもとに来た。

「ティーダ!ちゃんとうちのお姫様を守ってよ。泣かせたら……魔法剣くらわすよ?(ニッコリ)」

と、笑顔で脅しをかけた。
ティーダは、この人ならば本当に実行する……と直感したとかしないとか…。
ガッツポーズをして

「任せろッス!!」

そんな心中を見せずに言うとナマエは満足そうに頷いて公司の中に入っていった。
その様子を見守っていたユウナが、ティーダの正面に来て、  

「よろしくね、新入りガードくん♪」

と挨拶した。
ユウナが少しはにかみながら、嬉しそうに笑うと、ティーダも得意げに頷いた。






ナマエは公司の中に入り、そのままアーロンの待つ部屋に向かって歩き出したのだった。









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