16
シーモアの館を出てからユウナの様子がおかしかった事が気がかりだった。
アーロンとナマエは、ユウナに何かあったと言うことには気づいていた。


だからアーロンは訊ねたのだ。




「何かあったのか。」

と。


それに対して否定をするユウナの反応に2人は顔を見合わせると、ため息をついた。

「ふっ……隠し事が下手だな…。」

アーロンはそれだけ言うと黙った。
問いつめてもユウナは答えないと言うことが分かっているからだ。
こうして一行はグアドサラムを離れ、マカラーニャ寺院に向かうために雷平原に入った。


雷平原に入り、今度はリュックの様子がおかしくなった。
雷が鳴り響いた途端に彼女は悲鳴を上げる。



「ちょ〜っとだけ、グアドサラム戻る??」

リュックがおびえながらそう言うと、アーロンは『短いつきあいだったな』と言ってその意見を却下し、その様子をナマエは苦笑いを浮かべて見ていた。

この2人は見ていて飽きない。


「あ〜〜…わかったよ!行くよ。」

リュックもあきらめて、渋々動き出したのだが、しかし、今度は彼女はナマエの服の裾をつかんで離そうとしなかった。


「…ねぇリュック。動きにくいんだけどなぁ…。」
「仕方ないじゃん!怖いんだもん…。」
「私に掴まってれば怖くないのかい?」
「う〜〜ん……怖いけど、安心はするかも…。」
「何でかねぇ…ほい、来るよっ!」

ナマエはリュックに合図をかけて、雷をよけた。

「ぎゃぁぁぁ〜〜〜っ!」


リュックはとてつもない悲鳴を上げながら飛び退いた。
間一髪で落雷を避けたのだ。


「もぉいや〜(泣)」
「ほらほら、泣いてないでいくよ。」


ナマエはその間にスタスタと歩いていってしまった。
旅行公司が近づいたあたりで、ついにリュックが壊れた。


「へへへへへ……」
「へへへへ……って、何だよ。気持ち悪いなぁ!」

ティーダが苛立たしげに言うと同時くらいに、近くの避雷塔に雷が落ちて轟音が鳴り響いた。


「いぃやぁぁぁ〜〜っ!?」

リュックは雷に負けないほどの悲鳴を上げて頭を抱え込んだ。
そして、その直後に両手をついてしまう。
あまりの行動に思わず他の面々は身構えてしまった。
リュックは、異様な動きで這い回ってティーダの足に縋り付く。


……そうとう雷が怖いらしい……。




結局、大騒ぎをしたリュックに負けて旅行公司で一休みをすることになった。




「少し……つかれました……」

ユウナはそう言って、勝手に部屋を取って中に入っていってしまった。


「らしくないわね」

どんどん奥に入っていくユウナの背を見つめてルールーがそう呟いた。
ナマエもまた、ユウナの背を見つめて自分の予想が当たる事を確信していた。
何かを決意した顔で、アーロンの横に行った。
横に来て自分を見つめる恋人を不審に思い『どうした』と訊ねる。
しかしナマエはその問いに答えることなく前を向いた。


「召喚士が若い娘だと大変だな。」
「……そうだね。」

それからティーダは、よほど気になったのかユウナの様子を見に行った。
少ししてワッカと共に戻ってきたティーダはアーロンとナマエにその時の事を少しだけ話す。
もちろん、ジスカルのスフィアのことは黙っていたのだが。


そして程なくしてユウナが現れて、出発となった。
一足先に出たアーロンとリュックは外でにらみ合っていた。



「??なんかあそこも険悪だよな〜。」

しかし、ナマエにはそうは見えなかった。
出てきたときに自分とユウナの方をチラリと見遣ったのを見逃さなかったから。





「おっちゃん!」

リュックは先ほどの言い方に文句を付けようと勢いよく飛び出し、アーロンにくってかかろうとしていた。


「煩くてかなわん……。それよりナマエの頼みを覚えているか。」

突然振られた話に呆気にとられつつも頷く。


「この先、アイツが言ったとおりの展開になるだろう。」
「ユウナんが結婚するって話になるって事?」
「あぁ……だから、おまえもその時の為に覚悟を決めておけ。…ユウナには知られるな。」
「……うん、わかった……。」



そして、一行が出てきて、険悪そうに見える二人に遭遇したのだった。



雷平原も北端に近づいた頃、ユウナが突然立ち止まった。
そして、話をしたいと言いだした。
出口まで行ってしまおうというガード衆だが、ユウナは珍しく声を上げて、今話したいと言った。

結局、すぐ側にあった屋根付きの避雷塔の下で話を聞くことにして、全員で移動して話を聞いたのだが、その話はナマエの予想通りだった。




「わたし…結婚する。」
「やっぱり……。」

ルールーが額に手を当てて頭を振った。

「スピラのために……エボンのために……そうするのが一番いいと思いました。」

ユウナの言葉にアーロンが『説明になっていない』と言った。
それだけで、一時は『シン』を倒すことが一番の方法だと言ったユウナが結婚に意見を変えたりはしないだろう。


それはその場にいた誰もが思っていた事だった。



「……もしかして、ジスカル様のことが関係してるんじゃ…。」
「あ!あのスフィア!!」

ティーダの声にアーロンが反応し、ユウナに見せるように言った。
それを断固として拒否するユウナ。
個人的な問題だと言って。


いつものユウナではなかった。


明らかに、一人で問題を抱え込んで、みんなを巻き込まないようにしようとしていた。




「……好きにしろ。」

アーロンはあきれたように呟いた。

ティーダがアーロンにくってかかっている間もナマエは一言も話そうとはしなかった。
ユウナもまた、ナマエの反応が怖くて彼女を見ることができなかった。


ワッカがユウナに質問して、リュックがユウナに『覚悟ばかりさせてごめん』と謝った。




「ともかく、ひとまずはマカラーニャ寺院を目指す。
ユウナはシーモアと会い、好きに話し合えばいい。
俺たちガードはその結論を待ち、以降の旅の計画を考える。いいな。」

アーロンがユウナとガード衆にそう告げる。
そこで初めてナマエが口を開いた。






「待って。私もみんなに言うことがある。」

今までに見せたことのないような真剣な表情だった。
その場にいたみんなが息をのむ。
あまりにも気高く凛としたその瞳に吸い込まれるように…。
ユウナもまた、息を飲んだ。
















「ユウナがそう言う結論を出したのなら……

私は……………抜ける。」









思いも寄らない発言に、アーロンとリュックをのぞいた一同が驚いた。

「え……?」

一番動揺を隠せずにいたのは他の誰でもない、ユウナだった。


「何でッスか!?」
「そうよ、何でナマエが抜けるのよ!?」
「……どうして……?」
「だって、私はユウナに言ったよね。
シーモアは危険だから、必要以上に関わるなって。」


私の言葉の真意を理解してくれないのなら、私がいる必要ないじゃない。

それだけ言うと、ナマエは一人で歩き出した。

ワッカやルールーの制止を振り切って。




ユウナはその場に立ちつくして動けなかった……。
青と緑のオッドアイから一筋の涙をこぼして。





「なんなんだよ!いったい!!」

憤るティーダにリュックが叫んだ。

「ナマエの気持ちも知らないで……ナマエだって哀しいんだよ!」
「なんだよ……アーロンもリュックも何か知ってるのか!?」
「……みんなが異界に行ってる間に宣言されてた…。」
「ユウナがシーモアと結婚すると言い出したら、一度ガードを離れる…とな。」













「ねぇ、アーロン……頼みがあるんだ。リュックもお願い。」

「もし…ユウナが結婚するって言い出したら、私…一度戦列を離れることにする。」
「なんで!?そんな必要ないじゃん!」

リュックが驚いて引き留めようとする。

「…私には分かるんだよ…アイツがユウナを利用したいだけだって事。
いろんな人間を小さい頃から見てるからさ、眼を見れば大抵のことは分かる。
シーモアは…暗黒の者だ。」

それはアーロンも感じていたことだった。
ティーダに言った『力を持つと使わずにはいられない』タイプの者だと言うことが、はじめに会ったときには気づいていたのだ。

大抵の人間なら、人当たりのいい外面で騙されるだろう。

たとえ思っても『感じの悪いヤツ』ぐらいでしかない。

しかし、ナマエやアーロンにはそんなものは通用しないのだ。


「ユウナが利用されるって分かってても止められないなんてさ…悔しすぎるじゃん。
そりゃ、あの子にも考えはあると思うけど、絶対に本当の理由を話そうとしないと思うんだ。
…それに……あの娘がシーモアに敵うわけがないんだ。ユウナの心は綺麗すぎる…」


6年間、誰よりも一番近い場所にいたナマエだから分かるユウナの性質。
嘘や隠し事が下手なくせに、かくして一人で解決しようとしてしまう。

そんな不器用な性格のユウナが、アーロンと同じぐらい好きだった。


「だから…スピラのためなんてほざいて、本当はユウナを自分の欲望の為だけに利用しようとしているシーモアが許せないの。
ユウナがどうにかしようとする前に……私がこの手で息の根止めてやる!」


ナマエはそう言って拳を握りしめた。
血が滴り落ちるほどに強く。



「でも…!!」
「無駄だ。こいつは言い出したら聞かないからな…。
ナマエ…俺は止めない。が、ひとつだけ約束しろ……。」


アーロンは未だに引き留めようとするリュックを制して、ナマエに寄ると、堅く握りしめた指を一本一本、優しく開いていった。
手の平にできた傷にポーションを掛けて回復させると、今度は彼女の頬に両手を添えて、サングラス越しに優しい色をたたえた琥珀の瞳を向けて言った。



「絶対に戻ってこい。先に逝くなよ……。逝くなら俺も一緒に、だ。」
「ありがとう…アーロン。リュックも、ユウナのフォロー頼むね。」




















「……そんな……!」
「でも……っ!シーモア老師を殺害なんかしたら、ナマエが反逆者になってしまうわ!
処刑って事だってあり得るじゃない……!」

ルールーが今にも泣き出しそうな声で言った。
その言葉に弾かれたように顔をあげたユウナの目は、すでに真っ赤になっていた

「それも覚悟の上だよ…ナマエはね……。あと、ユウナんに伝言があるの。
…『勝手な事しちゃってゴメンね。でもユウナは私にとって、とても大事な妹だから、ユウナがシーモアに利用されるのを黙って見過ごす訳にはいかない。
もし、私に何かあって戻って来れなかったら、私の事は忘れて欲しい。』って……。」
「ナマエはお前を愛している。それ故に、お前の事になると暴走する。
全く、妬けるものだ……。」


アーロンはユウナに向かって『ナマエを死なせたくなければ先を急ぐぞ』と言った。



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