17


一行から離れたナマエは、皆に気付かれないようにほんの少しだけ後ろを歩いていた。
アーロンだけは、それに気付いてはいたのだが皆に伝えるような事はなかった。








マカラーニャの森に入り、ナマエは聖なる道を通り一行よりも先回りをした。
いろいろな陰に隠れたりしながら……。










リュックの兄が出てきて、邪魔をした時も
ユウナや皆と戦いたくても堪えるしかなかった。
そうしなければ、ユウナから離れた意味がなくなってしまうから―――














やがて戦闘は終わり、ユウナはトワメルに連れられてマカラーニャ寺院に向かい、ナマエはそれを別のルートから追った。
アーロン以外の誰にも気付かれないように気配を消して。




そして、彼女は誰にも気付かれないうちにマカラーニャ寺院内に潜入する事に成功したのだ。























一方、アーロン達は今までにないほどの険悪なムードに包まれていた。
リュックがアルベド族だと分かったワッカは、急に態度を一変させたのだ。
それで2人の間に溝が出来てしまった。




「ワッカの事……嫌わないであげてね。」


スノーバイクを強奪(?)したティーダの後ろに座り、ルールーは呟いた。




「それにしても…こういう時にナマエがいないのはつらいわね…。」
「何でッスか?」
「こういう時、ナマエはちょっと暴力的だったけど必ずワッカを鎮めてくれた。
村の中でもあの人だけだったのよね、ワッカを諭す事ができるのは…。」




ワッカがキレたりした時は、同時にそのワッカに対してナマエがキレて殴り飛ばしたりしていた。
そして、その後はきちんと意見を聞き、その上でワッカを諭して鎮めていた。


「うへぇ〜……殴り飛ばしたのか…。」
「それだけじゃないわ。あまりにもキレてしまうと殴る蹴るの連続技で…(呆)
別の意味でワッカを沈めてたわね……。」








それを聞いたティーダは、ナマエだけは怒らせないようにしようと心に誓ったらしい。












「ねぇ……おっちゃん。急いだ方が良くない?」
「…そうだな……。」


アーロンとリュックは、先程から奇妙な胸騒ぎに襲われていた。
ナマエの身に何か起こるのではないかと不安に駆られ、スノーバイクのスピードを上げた。

(……決して送られるんじゃないぞ…。何とか間に合えば良いが……)



胸がザワザワとして、落ち着かない。
もちろん、彼女の力を疑っている訳では無い。

しかし、信じようとする反面でどうしても不安が拭いきれないのだ。











シーモアが強敵なのはよく分かっている。

また、ナマエも類を見ないほどの強さを保持している事も……。



「兎に角急ぐぞ!」

そう叫び、崖を勢いよく飛んだ。













































一方、シーモアと合流したユウナは結婚を承諾する意向を伝えてから試練の間に入っていった。

シーモアと、その従者が入口で待っている。


そこに、ナマエは音もなく入ってきた。




「誰かと思えば…ナマエ殿ではありませんか。ユウナ殿が心配ですか?」


シーモアは振り返らずにそう言った。


「心配も何も、私としてはあんたに渡す気はないね。」


無感情にそう告げた。

それにシーモアは、クッと笑いを零してから振り向いた。



その表情は至って冷静で、むしろ余裕すら感じられた。



「ユウナ殿は承諾して下さいましたが?」








本人の意向なのだから、ナマエ殿が反対する権利などないのでは?












シーモアは悠然とそう言った。


「そんなのは関係ない。……あんたみたいな闇の者には渡せない!」


そう声を荒げて、剣を構える。
一瞬たりとも隙を見せないようにしながら。
それに対して、従者が同じように構えようとするのをシーモアは片手を広げて制した。








「この方は伝説のガードだ。お前達では敵うまい…私が相手をする。」
「しかし、シーモア様……。」


食い下がろうとする従者に対し、シーモアは頷いて引き下がらせた。


「伝説のガードに対して失礼のないようにせねばなるまい。」


そうして、シーモアは杖を構えた。


「そう来なくちゃ。覚悟はいい!?」
「望むところです…。」
「たぁぁぁっ!!」


ナマエが一気に間合いを詰めて剣を振りかざした―――






















「ユウナ!」

ティーダ達が試練の間に入ってきた時に視界に入ったのは、入口に背を向けて立つシーモアと、広間の中央に倒れているナマエだった。




「ナマエ!?」


アーロンは珍しく慌ててナマエに駆け寄った。


「いやぁぁっ!ナマエっ!?」

悲鳴を上げたリュックも、アーロンに続いてナマエの側に向かった。
ティーダやワッカ、ルールーはその場を動けずにいた。


一体何が起こっているのか―――


「ナマエ!しっかりしろ!!」

アーロンがナマエを抱き起こして声をあげた。

リュックが用意したハイポーションを飲ませようとするも、気を失っているせいかうまく飲み込まない。
するとアーロンは、そのハイポーションを自らの口に含んで口移しでナマエに飲ませた。
コクリ、と音が聞こえ喉を通った事を確認すると、再び口移しで飲ませる。




「ナマエ、しっかりして!!」


涙を零してリュックが叫んだ。




「お静かに……ユウナ殿が祈り子様と対面中です。」

シーモアは何事もないかのように平然と言ってのけた。
それに対してティーダが声を荒げる。


「平然としてんじゃねーよ!ナマエに何しやがった!!」
「美しい姉妹愛ですな…ユウナ殿が心配で、単身戦いを挑んでいらした。」


ナマエは、ユウナに全てを背負い込ませないようにするために戦列を離れて、こうしてシーモアを倒そうとしたのだ。


それは寺院に歯向かう事だというのを承知の上で。


ガードを辞めて単独で動けば、例えシーモアを殺害してもユウナにはそれ程の迷惑は掛からないと判断した上での行動だった。




結局寺院は、召喚士にすがるしか方法がないのだから―――


「そんな……!」

ルールーが絞り出すような声をあげたその時、試練の間の扉が開き、ユウナが覚束ない足取りで現れた。


そして、目の前に広がる光景に驚愕した。






姿を消したはずのナマエが、身体中傷だらけになり、ぐったりとしてアーロンに抱きかかえられていたからだ。


「……ナマエ!?どうして!」


口に手を当てて叫んだユウナは、涙ぐんでいた。
それにリュックが泣きながら声を張り上げて叫んだ。


「ユウナんを心配して…ユウナんの負担を軽くしようとして……!シーモアにやられたんだよ!!」


リュックの口から語られた真実にユウナは、頭の中が真っ白になった。




自分一人で何とかしようとした結末がこれだから……。


その為に、何よりも大事な姉を傷つけて、瀕死の重傷を負わせてしまったのだ。




ユウナはナマエの側に駆け寄り、膝をついた。


「ナマエ!しっかりして…!!」
「大丈夫だ、死にはしない。」


アーロンはそう言うと立ち上がり、剣を構えてシーモアに向き直った。
同じようにティーダも構える。
全員が団結して、シーモアを倒す事に意識をそそいだ。


ユウナも立ち上がり、決意をしてシーモアに挑んだ―――


「ナマエを傷付けたシーモア老師は…許せない!!」
「……俺の女に手を出した報いは受けてもらうぞ。」


戦闘には、ユウナとアーロン、そしてティーダが出た。
ワッカとキマリはいつでも交代出来るように待機し、ルールーとリュックがナマエの傷の手当てに当たった。


ナマエの服をはだけさせて、傷口に直接、ハイポーションを掛けると、少しして出血が止まり、傷口がふさがった。
それを確認したリュックがポーチから布と包帯をとりだして傷口に布を当ててから包帯を巻き、ルールーはナマエの服を整えて寝かせた。

「リュック、ありがとう。もう大丈夫よ……さぁ、私達も戦闘に備えましょう!」
「うん!ナマエの分までやっちゃうよ!!」




こうして、ようやくシーモアを倒した一行だった………。


その後、トワメル達が現れて、エボンにシーモア殺害の旨を伝えて反逆者とする事を言い、シーモアを抱えて去っていった。




反逆者の汚名を着せられた事に衝撃を受けたユウナを諭して、一行はその場を脱出したのだった。


アーロンは、ナマエを抱きかかえて走りながら、ナマエが一命を取り留めたことに安堵していた。










そして、ナマエが目を覚ましたのは、マカラーニャ湖の底だった―――
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