15

「大召喚士の娘ユウナと、グアドの族長シーモア……その2人が、エボンの名のもと種族の壁を越えて結婚、か。
確かにスピラにとって、明るい話題になるわね…。」

ルールーが腕組みをして、冷静にそう言った。
それに反論するのはワッカだ。


「でもよ、ホントひとときの夢って感じだよな。」

ユウナのことが気になっているティーダは面白くないのか、早く旅を続けようと言いだしたのだが、それをリュックに『やきもち?』と言われて、照れて反論していた。



ワッカが『余計なことに巻き込まれちまったなぁ…。』と言うと、それまで黙っていたユウナが口を開いた。



「余計なこと…なのかなぁ……?」

と―――。

「私が結婚することで、スピラ中の人たちが……
少しでも明るい気持ちになれたら……そんなふうに役に立てたらそれも素敵だなって思うんだ。」

そしてユウナは、よく考えるためにと言って異界に行って来ると言った。
そんなユウナを、ナマエは冷ややかな眼で見ていた−−−


一行が異界へと向かっていく中、アーロンとナマエは参道の階段に腰を下ろしていた。
それに気づいたティーダが引き返して『どーして行かないんだ?』と訪ねてきた。



「異界は気に食わん。」

素っ気なく言うアーロンに対してティーダは
怖いんだろ?とからかう。


「未来の道を決めるために過去の力を借りる……異界とはそんな場所だ。性に合わん。……さっさと行け。」

そう言って、手をヒラヒラとさせて追い払う仕草をした。
そこにリュックがやってきた。


「ホントはさ、死人(しにん)じゃなくて思い出に会いに行く場所なんだよ。
会いたいって思う気持ちに、幻光虫が反応するの。
でね、幻光虫が人のカタチになる……要するに、幻ってわけ。」

ティーダはその説明に頷いた。
納得したのかどうなのかは不明だが……。
リュックが『行ってらっしゃい』と手を振る。そんな彼女が異界に行かないのは、思い出に甘えちゃダメ、という理由からだった。

結局、アーロンとナマエ、そしてリュックがその場に残った。



異界の空気がナマエは嫌いだった。すぐにでも連れて行かれそうで……
気を紛らわそうと思って、ナマエはアーロンに問いかけた。


「ねぇ、アーロン…さっきシーモアんちで見たスフィアだけどさ。
ザナルカンドではみんなあーいう格好してたの?」

スフィアに映る人物達は、皆がティーダのような、スピラの人間が見たら奇抜だと思う格好をしていたのだ。


「そうだな……あちらでは逆に俺の方が奇抜な格好だと思われていたようだ。」

アーロンはそう言うと、襟元をクイッと引っ張った。


「ところでどうするんだ、ユウナは恐らく、シーモアと結婚すると言い出すぞ。」
「……うん、私もそう思ってる。」

ナマエは、なんとしても止めたいとは思っていた。
大事なユウナが利用されると分かっているのに、それを黙って見ているのは嫌だった。


「だけどね、アーロン……。あの娘はブラスカの娘だよ?一度言い出したら……
そうそう考えを曲げはしないよ……。」




そう言って哀しそうに俯くナマエの肩を引き寄せて、頭を自分の肩に凭れかけさせた。


「私、この間みたいにユウナを脅して消える宣言して、しばらく姿を眩まして戦線離脱してもいいかなって思ってる……。だけど……」













そんなことしたって、ユウナの意志は変わらないよ。








召喚士が死ぬことなく『シン』を倒す事。

それは永遠にナギ説が続くと言う事なのだ。

今の時点では、ユウナにその道を直接は伝えない…。

しかし、ユウナ自身がそれを見出してくれることを信じることしかできない。




スピラにとって最良の『幸福』



ユウナはそれを遂げるよりも、シーモアとの結婚を選び、一時のみの幸福を与えようとするのだろう……。


それがナマエには哀しかったのだ。




「だってさ、アーロン。結婚って、好きな人とするものじゃないの?」

ナマエはアーロンの胸に顔を埋めてそう言った。
アーロンはただ黙って、自分の胸の中にいるこの世界中で唯一無二な存在の、震える肩を抱いて包み込んていることしかできなかった。


「ほんとだよ………。あたしもそう思う。」

それまで黙ってアーロンとナマエのやり取りを見ていたリュックが沈黙を破った。


「ユウナんには好きな人と結ばれて、幸せになってほしい。
……あたしにとっても、大切なひとだから。
もし、ユウナん結婚するんなら、旅……やめてくれないのかな……。」

リュックは悲痛な面持ちで呟いた。
アルベド族は、召喚士が死んでまで『シン』を倒す事を良く思っていない。
だからこそ、召喚士に頼らずに機械を使用して倒そうと必死になっているのだ。


「リュックの気持ちはすごく良く分かるけど……ユウナは絶対に旅を辞めないと思うんだ……。」

ナマエも、リュックに向かって呟くとそのまま俯いてしまった。







「ね……アーロン。頼みがあるんだ……。」

しばらくして顔を上げたナマエがアーロンに向かって言った。


「リュック。リュックにもお願い……。」

ナマエがそう言うとリュックもナマエの横にやって来た。


「なに?あたしに出来る事なら何でもするよ。」
「ありがと………。それでね、頼みってのは………………。」



話し出す前に、異界の入口に目を向けた。

他のメンバーが戻って来ない事を確認するために。


















「もし………ユウナが結婚をするって言い出したら、私……………」


















しばらくして、ユウナが戻ってきた。
その表情はしっかりと決断をしていたようだ。


「シーモア老師に返事をしに行きます。」
そう告げたときだった。


先ほど自分がいた場所から、恐怖に支配された悲鳴が聞こえた。
振り返ると、異界の入り口には死んで異界の住人となっているはずのジスカルの姿があった。



「迷って……いるようだな。……ユウナ、送ってやれ……。」

アーロンに言われてユウナが近寄り、異界送りを始めた。
すると、アーロンとナマエがガックリと膝をついた。

苦しそうにしながら。

しかし、他のみんなは幸いにもジスカルに気を取られていて気づかなかった。
2人は心底『助かった』と思っていた。


ユウナに送られてジスカルが消えていく瞬間にスフィアを落としたのをナマエは見逃さなかった。

また、それを手にしたユウナの表情が凍り付いた事も。




彼女はこの時点で確信した。

シーモアと結婚する覚悟でいることを……。

グアドサラムに戻ってすぐ、ユウナはシーモアの館に向かった。
その間、ティーダはルールーと話したりしていたが、雷平原方面出口で巡回僧のシェリンダとばったりと遭遇した。



「どうしたの、ティーダ。」
「あぁ、ナマエか。今な、この人と話してたんだけど、ユウナの事聞かれたからシーモアの家に行ったって返事したら怒られた。『シーモア様』って言えって。」
「(ヒソヒソ)そりゃ当たり前だよ……。この娘はエボンの巡回僧してんだからさ。」
「(ヒソヒソ)そっか、気をつけるよ。」
「あ…、ナマエ様ですか。ガードのお務めご苦労様です。」

そう言ってシェリンダはエボンの挨拶をした。

「ご苦労様の毎日だよ……(疲)」
「あ、そうそう。シーモア老師は先程ご出立なさいましたよ。」
「……マカラーニャ寺院?」
「はい。シーモア老師はマカラーニャ寺院の僧官長も務めていらっしゃいますから。」
「ありがと、ティーダ。みんなに知らせに行かなきゃね。」
「ウッス!」
「情報ありがと。それじゃ。」


ナマエはシェリンダに向かって礼を言うと、ティーダに続いた。

ルールーがユウナを呼びに行き、一行は雷平原を抜けてマカラーニャ寺院に向かう。





この後のユウナの発言により、召喚士一行は新たな局面を迎える事になるとも知らず。

ナマエにある事を頼まれたアーロンとリュックは、そうならない事を心の底で祈りながら歩を進めた………。
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