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リュックが加わった一行は、以前にも増して賑やかになった。

グアドサラムに向かう途中で、ティーダやワッカといろいろ話していた。
ブリッツの事や、自分の専用コマンド『改造』についてなどを話しているうちにグアドサラムの入口についてしまったのだが、入口についたナマエは盛大にため息をついた。


「どうした。」

アーロンが隣で声を掛ける。
非常にノロい動作でナマエがアーロンの方に顔を向けた。
まるで油が切れたロボットの如く、『ギギギギ〜〜〜ッ』とでも音がしそうなくらいにノロく。

いつもの様子とは全く異なるナマエの動きにアーロンは戸惑いを覚えた。


「グアドサラム……入りたくない……。」

こうして足取りや動きさえも遅くなる程だ。
よほど入りたくないのだろう。
アーロンがその理由を問うと、意外な返事が返ってきた。

『シーモアが居るところでしょぉ……アイツ嫌いなんだもん…。』

よっぽどシーモアが嫌いらしい。

できれば素通りしたいくらいだそうだ。

しかし、そんな事は許されるわけがなく……。
グアドサラムに入ったところで、シーモアの側近のトワメルという老人(?)が
ユウナを迎えにきてしまったのだ。


「仕方ないな、諦めろ。」

アーロンに言われって、渋々ついて行った。
連れてこられた割には随分と長く待たされている一行。
広間に案内されてからもまだ待たされた。

ずっと暇そうにしてたティーダがアーロンに話し掛けた。



「なかなか来ないッスね。」
「……警戒を怠るなよ。」

呑気なティーダにアーロンはそう言って諭した。
その言葉に対して不思議そうにしている。
相手はエボンのエライ奴なんだろ?と言って。
高位についている人間(?)がそんな事は出来ないだろうと思っているようだ。

「力を持つと使わずにはいられない……そういう輩かも知れん……。」




そう。

自分の旧友であったキノックも、力を持った為にああなってしまったのだろう。


「あんたさぁ……エボンの教えとか信じてないのか?」

ティーダの問いかけにアーロンは少しだけ自嘲するかのような笑みを浮かべて

「俺もザナルカンド暮らしが長かったからな……」

と呟いた。
その回答を聞いたティーダは『あぁ……』と、納得した様子でルールー達の方に向かった。

「ねぇ、アーロン。」

いつの間にかナマエがアーロンの横に来ていた。

「なんだ。」
「ザナルカンドって、エボンみたいな宗教はなかったの?」
「さぁな……スピラのように信仰深くは無いようだったな……。
おそらく、宗教自体はあるんだろうが、信じるも信じないも自由、と言うところか……。」

ナマエはアーロンの話を聞いていて、見た事もない『眠らない街』を想像していた。
そして、思った。


そんな国の方が住んでいても楽しそうだな…と。



「……お前にはもってこいのところかも知れんな……。」


アーロンは、ナマエに向かってそう言った。
まるで、心の中を読んだかのようなタイミングで…。



「アーロンってさ…………………超能力者?」
「ふん……お前の考えなど読めずにいてどうする。」





でなければ、お前のような何をしでかすかも分からん女のオトコなど務まらんだろう?





ニヤリと笑って、ナマエをからかった。

「ひっど〜!何をしでかすか…って、変な事してないじゃんか!!」

ナマエは、表面上は文句を言っていたが、内心ではアーロンを選んで良かった、と思っていた。
自分の事を誰よりも理解してくれている。
その事実が彼女に安心感を与えてくれるのだ。
例え自分が突っ走っても、アーロンがフォローしてくれるし、自分もアーロンの事はよく理解しているつもりだからアーロンが突っ走ったらフォローが出来る。

こういう間柄になれている自分が嬉しく思えた。



「アーロン。私が突っ走ったら頼むね?」
「……どうせ突っ走るんだろう……。」


ため息をつきながらも、サングラスの奥で輝く隻眼は優しさを滲ませていた。

(きっと大丈夫。アーロンがいるからね)




「何をもったいぶっているのやら……」

いつまでも出てこない館の主に苛ついたのか、アーロンが呟いた。
その呟きにナマエも同じ思いだったようでうんうんと頷く。

こんなに待たされるのなら、サッサと退散させて欲しいものだ。

そんな事を思っているうちにいつの間にかシーモアが現れていた。



「あれ、いつの間に現れてたんだ??」

ナマエはどうやら、遠い世界に行っていたようだ……。
ふと我に返ったらシーモアがいたのだ。

そんなナマエの呟きが聞こえたのだろうか、シーモアは表情は崩さず、しかし額に浮かんだ血管?は正直にピクリと引きつった。


「それぐらいにしておけ、トワメル。あまり持ち上げられると居心地が悪い。」

そう言って謙遜しているシーモアだが、顔はまんざらでもなさそうだった。


「……この家自体が居心地悪いっての……。」

さらにナマエが毒づく。
アーロンはその様子を見て、薄く笑った。

「ふっ……エボンの老師も形無しだな…。」


先程のナマエの呟きよりもさらに小さい声の呟きを放つ。
しかしそれもシーモアには聞こえていた。
そんな二人を無視して(いい度胸だな←ナマエ:談)シーモアは『ゆっくりしていけ』と言ってきた。

それを聞いたアーロンがズイ、と前に出て


「ユウナは先を急ぐ身だ。手短に済ませてもらいたい。それにコイツが煩いのでな……。」

アーロンはナマエをチラリと見遣るとそう言った。


「煩いとは何だ、煩いとは!」
「それが煩いと言うんだ……。」
「これは失礼、客人を迎えるのは久方ぶりなもので……。」

と、アーロンとナマエをまたしても無視して話を進め始めた。


異界を漂う幻光虫から抽出した思念だと言って、1000年前のザナルカンドを映し出した時に、思わずティーダが『ザナルカンド!!』と声をあげた。





「ねぇ、アーロンが行ってたザナルカンドはあんな感じだったの?」
「……そうだな……。」
「ホントに大きい建物ばっかりだねぇ……行きたかったなぁ……。」
「俺は……あちらに渡って、お前が側にいて欲しいと願った事が何度もあった。」


アーロンの思わぬ告白にナマエは目を丸くした。
こんなに素直に気持ちを伝えるアーロンは久しぶりだと思った。
辺りが薄暗くなり、他のメンバーとも離れた場所にいるからなのだろうか……?



「私だってさ、ユウナ育てながら『アーロンがいれば…』って思った事もあったよ。
アーロンがこんな身体だって、一緒にいれればそれで良かったけど……」

ティーダとユウナのこと、頼まれたからどのみち無理だったんだけどね?

ナマエがそう言って、少しだけ悲しげに微笑み、それを見たアーロンは、咄嗟にナマエを肩を抱き寄せていた。


「……すまん……。だが、どうせ行き先は一緒なんだ。
ならば、10年経ってしまったが……結婚でもするか?」

アーロンはナマエの耳元で囁いた。
その言葉に驚きを隠せなかったナマエは、ジッとアーロンの眼を見つめた。

10年間、ずっと待っていた言葉―――

夢にまで見たその時が訪れようとしていたのだ。
ナマエは瞳を潤ませて頷いていた。


「あとでユウナに言わなきゃね。」
「ふっ………そうだな。」

二人は穏やかに微笑みあった。

しかし、アーロンもナマエも今の状況がいつまでも甘い気分に浸っていられるものでは無い事は充分承知している。
二人は寄り添いながらも、ユウナに目を向けた。

場面はユウナレスカと、最初の究極召喚獣となったゼイオンのシーンへ……。
スフィアに映し出されたユウナレスカとゼイオンが抱き合っていた。


そこでシーモアがユウナの側に行き、耳打ちをしていた。
ユウナは凄く驚いた表情をして、それからオロオロとした。
その様子を離れたところで見ていたアーロンとナマエは、嫌な予感がしていた。


やがて、映像が終わり、元の風景に戻った。
ユウナはオロオロとし続けいていたが、急に飲物が置いてあるテーブルに近付き、水を勢いよく飲み干し一息つくとガード衆に駆け寄ってきた。
俯いてはいるが、その顔は真っ赤だった。


「まさか、ユウナ………。」

ナマエがユウナの肩を掴み、顔をあげさせた。

「シーモア老師に……結婚を申し込まれました……。」


ユウナが困りながら呟くと、ティーダが『やっぱり……』と呟いた。
アーロンがシーモアに詰め寄る。


スピラは劇場ではない、と。

ナマエも同じ考えだった。
このスピラに一番喜びを与えられる事が何かを知っているから。





「あんた……ユウナを利用しようとしているんでしょ、どうせ……。
そんなことしたら、殺すよ?」

彼女は気付いているのだ。
シーモアがユウナを好きで結婚を申し込んだ訳ではない事に。



「出るぞ!ナマエ、行くぞ。」

アーロンは、シーモアを脅し掛けているナマエの腕を掴んで出ようとしていた。


「ユウナ殿、良い返事を期待しています。」

薄く笑みを浮かべてユウナに声を掛けたシーモアだっがが、立ち去ろうとするアーロンとナマエに向かって問いかけた。






「あなた方は何のために留まっているのですか?」

………と。



「…………」
「……………」

二人は沈黙を通した。
ここでみんなに知られるわけにはいかない。


「……これは失礼。我々グアドは異界の匂いに敏感なもので……。」

含み笑いを浮かべて謝罪の言葉を述べるシーモアを、ナマエは睨み付けた。

そんな二人の側に、ティーダとユウナが寄ってきてティーダはアーロンの、ユウナはナマエの周りをチョロチョロと動き回って、くんくんと匂いを嗅ごうとしていた。


「ユウナ、何やってるの!?」

ルールーに遠くから窘められたユウナは、ナマエを見つめた。
相変わらずシーモアを睨み付けているナマエを、アーロンはシーモアの視線から庇うように抱きかかえてティーダを押しのけて出て行った。

「ナマエ……何か隠してる……?」

ユウナは、ティーダに問いかけた。

否定して欲しくて―――

「分かんねぇけど……、それを言うなら、アーロンとナマエだな……。」

ティーダはユウナの背を軽く叩き『行こう』と促した。

一行は、ユウナの意向で異界へと向かう事になった―――






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