13

幻光河北岸。



到着と同時に、ユウナは多くの人達に囲まれてしまった。
また、アーロンも囲まれていた。
ナマエはと言うと、一応伝説のガードの一人なのに誰にも囲まれていない。


何故か?


それは、『囲まれそう!』という気配をひしひしと感じていたナマエは、シパーフを降りると同時に、一人で走り出したからであった。

もちろん、アーロンにもちゃんと言った。



『な〜んか嫌な予感するんだよなぁ…。シパーフ降りたら絶対に待合所のほうには行かない!』と……。
(言ったうちに入らない、と言われそうである)



「あー……アーロン囲まれちゃった。ちゃんと引っ張ってくればよかったかなぁ……。」


彼は、人々から称賛される度に不快そうな色を滲ませるのだ。


『シン』を倒した、と言うのも全てはまやかしなのだ、と。

召喚士が究極召喚で『シン』を倒していく限り、終わる事のない『死の螺旋』なんだ……と。

しかし、それを信じる者などいないのだ。

何故なら彼らは純粋にエボンの教えを信じており、人間が慎ましく生きて罪を償いきれば
『シン』は消滅するのだと教え込まれているから。

このスピラに生き、エボンを信じる者には誰一人として変化を求める人間はいないのだ…。

アーロンは、一人走り去り、遠巻きに自分の様子を伺っている恋人をジロリと睨んだのだが、それに気付いたナマエは、目の前で両手を合わせて『ゴメン!』と訴えた。

それを見たアーロンは眼で合図を送る。

『どうにかしてくれ……』と。

どうやら彼は本当にウンザリしている様子で、このまま放っておけば大剣で脅しかねない。

『仕方ない…私だっていやなんだけどな〜……』と思いながらナマエは人ごみに近付いていった。

人ごみの最後列までやって来ると、ナマエはアーロンに目配せをする。
『こちらに視線を集めさせるからその隙に逃げれ?』と。

それに頷いたことを確認すると、ナマエは持っていた紙袋に思いっきり息を吹き込んでふくらませた。

ニヤリ。

誰も気付いていない事を確かめたナマエは不敵に笑うと、思いっきりそれを叩き破裂させた。

突然、背後からしてきた『パァン!!!』という音に一瞬身体を竦ませた群衆が一斉に振り返った。

その隙にアーロンはサッと走ってその場を離れる事に成功した。
視界の端でそれをしっかりと確認したナマエはわざとらしく

「ごめんなさ〜い! 」

と言って走り去った。
その場に取り残された人々は、ポカンと口を開けて立ちつくしていたのだった……。

「あっははは!!見たかよ、あの顔!!」

遠くで見ていたティーダが、ナマエの元に駆け寄って大笑いしていた。

「ナマエ、お前…ああなる事を予測していたのだろう。」

いつの間にかアーロンが隣にいた。

「だから言ったじゃん?私は待合所には行かないって。」
「ならば、『囲まれるから待合所には行かない』と言えばよかろう。」
「アーロンだって気付くと思ったからさ。」

ナマエの一言にため息をつき、近くにあったベンチに座り込んだ。
その様子から、精神的に疲れている事がうかがい知れたナマエは、チョコンとアーロンの横に座った。

ティーダは気を利かせたのか、『俺は先に行って様子をみてくるからさ!』と言って走っていった。

「ごめんね?気付いてると勝手に思いこんでたよ。」
「いや…かまわん。この責任は果たして貰うからな……。」

今度はアーロンがニヤリと笑ってそう言った。
どうしていつも話をそっちに持って行くんだ、とナマエは本気で思った。

そして、それを言葉にして言うと、アーロンは平然と『10年も離れていたんだ、その分の隙間は埋めるに決まってるだろう。』と言った。
更に『俺はザナルカンドで、いつだってお前の事を思い出して…』と、ナマエの耳元で低く囁いた。
それを聞いたナマエは首まで真っ赤にしながら慌てて

「なんて事を言うのさっ!こんな昼間から……!!」

と最後の方は俯いてそう言った。
その様子が可愛くてアーロンはナマエの肩を抱き寄せて更に耳打ちした。

「ならば…夜ならいいのか?」

と。

昔のアーロンならば、こんな昼間の、誰が聞き耳を立てているかも分からないような場所でこんな睦言を言う事はなかったのだが……。

(ザナルカンドに渡って、オープンになっちゃったのかな……)
と本気で思ったナマエだった。

しかし、そんな甘い空気もすぐに途切れる。
照れてキョロキョロソワソワしてしまっていたナマエが、遠くの方でティーダの足下で倒れている人間がいるのを視界に捕らえた。

「アーロン、ティーダが倒れてる人間みっけた。行こう!」

そう言って真剣な眼差しでアーロンにそう告げると、アーロンも無言で頷き立ち上がった。
ちょうどユウナも解放されてワッカ達と歩いてきていたので、一緒に向かう。

その後。

ティーダがザナルカンドからやって来て一番最初に世話になった、リュックという少女を
ユウナが『ガードにしたい』とナマエに小声で言った。
それを受けたナマエは、ユウナ・ルールー・リュックと共に男性陣から離れた場所にやって来た。

「リュック……だっけ?」
「そうだよ♪」
「リュック、この人はナマエって言ってね…父さんが『シン』を倒した後、キマリと一緒に私を育ててくれた……お姉さんみたいな人なの。
ううん…私はナマエの事、本当のお姉さんだと思ってる。」
「そうなんだ〜。ユウナんのお姉ちゃんなら私にとってもお姉ちゃんだ♪」

リュックが『よろしく〜!』と言って、ナマエに挨拶をした。

「ユウナからアルベド人の従妹がいるって聞いた事あったんだけど、リュックがそうなんだね?」
「うん、そう。」

それを聞いて、ナマエはワッカをチラリと見た。

「あのさ…うちにはアルベド人を良く思ってないヤツが一人いるんだよね。
それはエボンの教えを純粋に信じこんでるだけなんだと思うけど。
一応リュックがアルベド人と言う事は伏せて旅をしたいと思うんだよね…。」

アーロンにはバレると思うんだけどさ……。
そう続けて、ナマエはリュックに言った。
リュックもそれを納得してくれたようである。

「オッケ。でも……ナマエはアルベド人のこと、嫌いじゃないの?」

自分に普通に接してくるナマエを不思議に思ったリュックが訊ねてきた。

「別に?私…エボンの教えって元々信じてないからさ。」

それにリュックはいい子だって、一目見ただけで分かるから。

ナマエはニッコリと笑ってそう言った。
その笑顔をみて嬉しくなったのか、リュックは満面の笑みを浮かべた。

「モノキルメ リュック。」(よろしくね、リュック)

そう言って、笑顔で右手を差し出してきたナマエに、リュックも

「ハアモルキモフメ ナマエ。」(仲良くしようね、ナマエ)

とアルベド語で挨拶を交わして握手をした。

「一応、ガードのリーダー(?)のアーロンに聞いてごらん?
どうせ『ユウナがそれを望むのなら好きにしろ』って言うから」

と、ナマエはユウナに向かってそう言った。

その後、ナマエがアーロンを連れてきて、ユウナが『リュックをガードにしたい』と告げた。
アーロンは全て見抜いている様子で、俯いているリュックに顔をあげさせて、その瞳をみた。
リュックの瞳にはアルベド人特有の渦巻き模様が描かれている。

「やはりな。」
「だ、だめ……?でも、ユウナんとナマエはいいって言ったよ。」
「……覚悟はいいのか?」
「ったりまえです!!」
「……ナマエはともかく、ユウナが望むなら。」

どうやら話は付いたようだ。
かくしてリュックは無事にユウナのガードとなる事ができたのだった。
仲間が増えて喜んでいる一行から少し離れた場所で、クスクス笑っているナマエ。

「何を笑っている。」
「あ、アーロン。……いやね、さっきリュックの件で『ユウナが望むなら』って言ったじゃん?
それってさ、私が予想したとおりの回答だったって訳さ!」
「………………。」
「おや?怒った??」
「………………………知らん」

沈黙がいつもより長いと言う事は、少し機嫌が悪くなっている証拠だった。
それを充分知っているナマエは、アーロンにピッタリとくっついて下から覗き込みながら

「でもさ、私がアーロンの言葉を予想できるってのはそれだけアーロンの事、理解しているって事じゃん?」

ナマエにそう言われてアーロンも納得した。
自分も同じであることに気付いたからだ。

彼女がどうすれば喜んだり怒ったり恥ずかしがったりするかが分かるのと同じだと。

「フッ……そうだな。そう言う事にしておいてやろう。」

アーロンはそう言うと、ナマエの手を引いて歩き出した。
既に先に行っている仲間達の元に向かって。






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