長編 | ナノ

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「どこって何が」
「河上」

坂田は、すっかり飴がなくなった白い棒を足元に落としながら言った。

「お前の話しだと、俺は河上と仲良くお喋りでもしながら時間潰してたらいいんだろ?」
「なんか……盛り上がらなそうだな、そのお喋り」
「あ、何それ馬鹿にしてんの?土方にも聞かせてやろうか俺の華麗な話術を。すげえ盛り上げて河上の腹の皮をよじれさせてやっから。まあ、見とけ」
「見ねえよ」
「遠慮すんなって」
「華麗なお喋りでも何でもいい。てめえの好きにやってくれ」
「で、その腹の皮がよじれる予定の河上とは、どこに行けば逢えんだ?」

坂田がそう尋ねれば、土方の表情が曇った。

「まだ動くな」
「あ?」
「奴らが先に動いてからだ」
「てことは……河上の居所は分かってんだな」
「ああ、そっちは分かってる」
「そっちは、ね。じゃあ、どっちが分かんねえの?」

坂田は煙草を取出しながら何気なく尋ねた。
しまった……と土方は心の中で唸るが、一度言葉にしたものは取り戻せない。
確かにあの言い方だと、河上以外の誰かを言っているように聞こえるだろう。
土方は事の詳細を坂田に教えるつもりはない。しかし無茶な頼みを断らなかった坂田には全てではなくても伝えておいた方がいいのかもしれないと思いなおす。

「……奴らしか近藤さんの居場所がわからねえからギリギリまで泳がせてる。河上以外の奴らが近藤さんの元へ向かったら、てめえの出番だ」

土方が少し迷ったあと、そう伝えた。

「あー、だからか」
「何が」
「お前が俺に頼みごとなんかする理由。近藤絡みしかねぇよな」

そう言って坂田は煙草に火をつけた。
一瞬赤く染まった後、立ち上る白い煙。
土方はそれを、無意識に見つめていた。


最近、土方は見知らぬ連中につけられていた。
真面目な高校生活を送っているとは言い難い土方にとって、それ自体は特別に珍しい事ではない。
だが、まるで土方の行動範囲を把握してるかのような相手の行動に疑問をもっていた。
それと同じ時期に、近藤が狙われているという噂が土方の周りで流れ始める。
密かに噂の出処を山崎に探らせるが、なかなか尻尾は掴めなかった。
しかし、火のないところに煙は立たないというが、誰かが何かを計画しているからこそ、こんな噂が流れるのだと土方は考えていた。
そしてそれは、全て繋がっているのだと。

それ以来、注意深く気を配っていたつもりだった。
が、今こうやって最悪の事態が起こってしまっていたのだ。

「とりあえず、近藤さんの居場所が分からない事にはどうしようもねえ」
「携帯は?」
「あの人は持ってねえ。ていうより、すぐに壊すから持ってても意味がない」
「ゴリラに首輪でも付けとけよ」
「ゴリラじゃねぇ」
「ゴリラさん?」
「さん付けしても駄目だ」

苛々とした口調で言えば「恐いねー」と坂田がからかった。
こんな時、煙草を吸えば多少は冷静になれるが煙草は坂田にあげてしまい手元には残ってない。
土方の性格では一度あげたものを返せとは言えるはずもなく、ひたすらこのニコチン欠乏状態に耐えるしかなかった。

「奴らが動いたら山崎から連絡が入る。その時にてめえの事を伝えておくから、山崎からの連絡を待っててくれ」

土方は努めて冷静な口調で話した。

「俺の番号は教えなくていいのか?」
「山崎が知ってる」
「さっきから思ってたけど山崎って誰?」
「山崎だよ」
「知らねーよ」
「てめえのクラスだろ」
「え、いる?」

考え込む坂田。
山崎の地味さ加減はある意味脅威だ。

「同じクラスだからって、何で番号知ってんだ?」
「クラス委員だから担任に聞いたとか何とか言ってたな」
「だからって番号知ってる理由になるか?」
「てめえの担任にでも聞けよ。毎日フラフラしてっから、携帯じゃねえと連絡とれねえって思われてんじゃねえの?」
「まあ、な」

坂田がくしゃりと銀色の髪を触る。

「あまりに都合よく俺の番号が知られてたからなー。誰かが故意にその、山…山…山何とかに教えたんじゃねえかと思っただけ」
「考えすぎだろ。単なる偶然だ」
「偶然なんかねえよ」

独り言のように低い声で呟かれた言葉。
土方が坂田の横顔を凝視すると、それに気付いたのかヘラリと笑う。

「何?見惚れた?」
「馬鹿か」

土方は鼻で笑って視線を逸らした。


2008.06.05.

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