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「で、俺がそのハットリくんを足止めしてる間、土方くんは何やってんの?」
「俺は……」
土方は言葉をつまらせた。
自分から坂田に力をかしてくれと頼みながら、身内に裏切られてピンチだからですなんて口が裂けても言いたくはなかった。
できれば自分一人で、もしくは仲間内で解決すべき問題だし、土方の性格上そうするのがひどく自然なことだった。
だが、土方自身のプライドより近藤の安全を優先させた結果、これが一番いい方法だと土方は判断した。
河上の足止め…つまり、近藤の安全を確保するまでの時間稼ぎを坂田に頼んだのは、土方にとって最善の策だった。
とはいえ土方は全てを話す気には、どうしてもなれなかった。
言葉が見つからず不自然な沈黙が二人の間に続く。
先にそれを破ったのは坂田だった。
「ああ……そっか」
坂田が煙草の火を踏み消しながら何度も「そっか」と呟く。
土方は訝しげな表情でその様子を見ていた。
「何が分かったんだ」
挑むような調子で聞けば、坂田はヘラリと笑った。
「あれだろ、いつも河上たちと一緒にいる股みてえな名前の女だろ?」
「……何が」
「だから、俺に河上の相手をさせてる間、お前は股女の相手をするって事なんだろ?やらしーなー」
「……………はあ?」
険しかった土方の表情が一気に呆けたものへと変わった。
何を言ってやがんだこの白髪天パは!、と心の中で怒鳴るが、あまりの驚きに言葉にならない。
土方が何も言わないでいると、それが肯定の意とでもとったのか「やっぱり」と坂田は満足気に頷いた。
「まあ、いい体してるし顔も…あ、顔わかんねーや」
「……俺がいつ来島また子を好きだと言った」
「また子ってんだ名前。まんまだな、面白れー」
「この際名前はどうでもいい。俺はな坂田、てめえの思考回路はどうなってんのかって聞いてんだよ」
「だから、お前がまた子の股に用があるから……」
「また子に用なんかねーよ!!」
「じゃあ、股の方か?」
「そっちでもねえっ!!」
「耳元で怒鳴んなよ、うるせーなあ」
坂田は眉間に皴を寄せながら、小指を耳の穴に入れる。そんないつもと変わらぬ様子が余計に土方の逆鱗に触れた。
「てめえ…ふざけてんのか、ああ?」
「瞳孔が開いてますよ、土方くん」
「ああそうだよ。俺は生まれた時から瞳孔が開いてんだ、悪りーかコラ」
「ほらほら。トシくんは溜まってるからキレやすいんだよね。悪いこと言わねえから、今すぐまた子に股でぬいてもらえ。な?」
「な?じゃねーよ!!」
「ぬかねーの?」
「ぬかねーよ!」
土方は坂田の胸ぐらを掴むと顔を近付け、
「その腐った脳でも理解できるように言ってやる。いいか?俺はなあ、来島また子にも来島また子の股にも興味がねえんだ。溜まって抜きてえ時は股なんて使わねーで自分の左手使ってぬきまくんだよ!邪魔すんな!」
と、ありったけの声で叫んだ。
ある晴れた日の屋上。
雲一つない青空に、土方の怒鳴り声が吸い込まれていった。
「じゃあ、頑張って?」
自分の言葉の意味に気付き青ざめる土方に、坂田はまたヘラリと笑いかけた。
2008.05.09
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