長編 | ナノ

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「そういや総悟はどうした。どこに居んだ?」

近藤に訊ねられた土方は軽く首を振る。

「俺に聞かれても。あんたの方が知ってんじゃねえのか」
「最近別行動が多いからなあ」

近藤は真新しい携帯を見ながらぼやいた。どうやらA組のトラブルメーカーは所在不明らしい。先程も近藤から沖田の携帯に連絡をいれたのだが、折り返しも返信もない。

「確か、総悟の携帯は坂田が持ってんだよな」
「ああ」
「じゃあ坂田の携帯を総悟が持ってんだな」
「多分な。確証はねえけど」
「じゃあ一回坂田の携帯にかけてみるか」

近藤は慣れない手つきで坂田の番号を探す。

「近藤さん、坂田の番号知ってたのか」
「ん?ああ、この前携帯落とした時に坂田の携帯から俺のにかけたんだよ。鳴らしてもらって探してた」
「またかよ」
「まただよ。携帯って薄いし、落ちても気付かねえんだよな」
「普通は気付くだろ・・・」

土方と話しながらも携帯から流れるコール音に耳をすます。しかし何度目かの後、ため息と共に携帯を耳から離した。

「こっちもでねえ」

近藤は渋い顔で椅子の背もたれに背中をあずける。

「なあトシ。今日生徒会に提出するのは、総悟いなくても大丈夫なやつだよな」
「ああ。美化委員は運営側だから関係ない」
「そうか。そういや坂田も美化委員だったな。アイツも運営側か」
「嫌なメンバーだな」
「ハハ、そうだな」

近藤が笑うのも仕方ない。これだけ癖のある人物が揃えば、何か起こるのは必然だ。坂本は一体何を考えているのか。生徒会長の思惑など到底思い付かない。

「総悟にはまた後で話をしてみるか。もしかしたら坂田と美化委員で忙しいのかもしれねえし」
「甘い。あんたは沖田に甘すぎる。ちゃんと手綱を握ってろよ」
「それは俺よりトシが得意だろ?」
「あいつが素直に手綱を握らせるタマかよ」

土方の言い分は正論だ。基本的に沖田という男は他人に左右されない。いつでも自分が一番で、マイペースを崩すことはない。意外と上下関係は重んじるようで、自分が認めた相手への言葉遣いはわりと丁寧ではある。しかし丁寧なのは言葉遣いだけで態度は大きなままだ。

「前はわりと一緒にいたんだがなあ。最近は居ると思ったら、ふらっとどこかに行っちまう」
「そうだな」
「多分、つーか原因はアレだろうけど」

近藤が苦笑いを浮かべた。沖田の単独行動が増えた原因、それなら土方にも心当たりはある。当事者の一人だからだ。

「近藤さんの決めたことなら俺たちは従うさ。気にすんな」

沖田の唯一の例外が近藤だった。首輪を嫌がる猫のような沖田が気にかけている相手。単独行動の多い沖田だが、誰かといる時があれば、その相手は大抵近藤であった。
しかし今は違う。

「つーかあいつ、今どこに居るのかね」

近藤の呟く声は、教室のざわめきに掻き消された。







屋上に太陽を遮るものはない。直射日光を頭の天辺から浴びて、全身を太陽の熱でくるまれていく。
それだけが理由ではないが、ここを訪れる生徒はあまりいなかった。教室のある校舎から遠いのも理由の一つだろう。
しかし一番大きな理由は、屋上に集まる生徒があまり関わりたくない問題児ばかりだからだ。
薄茶色の髪が風にさらりと流れた。陽の光に透け、きらきらと透き通っているようにも見える。一見すると悪目立ちしそうな髪色は、飄々とした彼の雰囲気によく似合っていた。
学ランの胸ポケットから伸びたイヤホン。漏れ聞こえる賑やかな音と、漫画のページを捲る音。ただの時間潰しだろうか、伏せた睫毛の下にある目にはあまり感情は見えず、彼─沖田総悟はひどく退屈そうだった。

「───────」

不意に鳴った携帯に視線を向ける。表示されたのは名前ではなく動物の名前。それが誰を指しているのか察し、薄い唇に笑みが浮かんだ。

「随分な扱いじゃねえか」

これは自分の携帯ではない。つまり相手は自分にではなく、この携帯の持ち主である銀髪の男にかけてきているのだ。「ゴリラ」と表示された携帯は何度目かのコール音の後、静かになった。

「近藤さんも、諦めが悪いねィ」

名前はないが、相手が誰かなど一目瞭然だ。ゴリラで思い浮かぶのは一人しかいない。
自分を探しているのだと思えば、また一つ唇に笑みがのった。どことなく冷めた表情。

「俺を捜すくらいなら、他に捜すもんがあるだろうにねィ」

例えば裏切り者だ。
最近、負傷する仲間が増えていた。一人のところをいきなり襲われるのだ。腕っぷしが自慢でも不意をつかれると弱い。それも仲間内しか知らないような情報を相手は持っている。
裏切り者の存在を疑い始めた矢先、あの騒ぎが起こった。相手は分かっている。高杉派だ。だから報復しようとした。やられたらやり返す。それが道理だと思っていた沖田を止めたのは近藤だった。
『これ以上の争いは禁止する』
そう言った近藤を、沖田は信じられない想いで見つめていた。
近藤の言う通り、これ以上深追いすれば双方にダメージがあるだろう。高杉派とは今は均衡を保っているが、いつバランスを崩すか分からない。自分達だけでなく、関係のない生徒を巻き込むかもしれない。何よりこの学校を争いの場にしたくないと近藤は考えているのだ。
近藤の考えは分かった。理解もした。だが受け入れることを沖田は拒否した。だから今は近藤の傍には居られない。

「───────」

微かに何かの音が聞こえ、沖田はイヤホンを外した。微かだった音がはっきりと聞こえる。あるアニメのテーマソング。屋上の出入口の方からだ。沖田の口元に薄い笑みが浮かぶ。この音に聞き覚えがあった。

「なー、なんで土方くんの着信音がこれ?」

現れたのは派手な髪色をしたヤル気のない顔の男。その手にはいちご牛乳と、鳴り続ける携帯電話。

「それに似たヤツ出てる」
「あーそういうこと」

坂田はどうでもよさそうに頷くと、持っていた携帯を沖田に投げ渡した。弧を描き持ち主へと帰って来た携帯は静かになっている。

「姉ちゃん元気?」

動くのがめんどくさいのか、坂田はその場に腰を下ろしあぐらをかいた。

「いきなりそれですかィ」

沖田の眉間にシワが寄る。普段は飄々としているが、姉の話題を出されると少し機嫌が悪くなるのだ。

「挨拶みてえなもんだろ。別に狙ってねーから怖い顔すんなって」
「急に姉さんの話を出す方が悪いんですぜ」
「ここにもシスコンかよ。今流行ってんの?ブラコンもシスコンもバカも腹一杯だわ」

坂田はストローをくわえたまま、眠たげな目を余計に眠そうにして辺りを見やる。

「俺、癒されに来たんだけど。どっか行ってくんない?」
「先に来たのは俺でさァ」
「いちご牛乳飲んだあと昼寝しねえと癒されないんだけど邪魔すんなよ」
「そりゃ邪魔してくれっていう合図でしょ。・・・あーそうだ」

沖田は下に置きっぱなしだった携帯を手に取り、無造作に坂田へと投げた。

「それ、返しやすね」

坂田が投げてきた携帯とは違う機種の携帯。

「俺さぁ、沖田くんと携帯交換した記憶ないんだけど。俺が覚えてないだけ?」

沖田から返された自分の携帯を眺めながら、坂田がへらっと笑った。



2014/08/25

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