長編 | ナノ

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「じゃあ、今からペア決めしたいと思います」

山崎の言葉に「ペアってなんのー?」というクラスメイトの質問が飛ぶ。

「来月にあるクラスマッチのペアを決めるのよ」

朝から面倒ごとに巻き込まれ、委員会も欠席してしまった山崎をフォローするように妙が答えた。
黒板にも大きく書かれたクラスマッチのペア決めという言葉。
クラスマッチやペアという単語に再び大きく反応するクラス内。
黒板に必要事項を書き込んでいく妙の代わりに山崎が「静かにして下さーい!」と声をあげるがそれもあまり効果がなく、山崎の声は掻き消えてしまう。
山崎は困ったように頭を掻いた。担任は用があるとかで教室を出て行ったままだ。桂から今日中にペアを決めて提出するように言われている事が山崎の肩に重くのしかかった。

「少しいいかな」

騒がしさの合間をぬうような絶妙のタイミングで声が響き渡った。
山崎とクラス中の視線が教室の後方へと向かう。
一番後ろの窓際とその隣。
比較的仲の良いZ組だが、そこはほんの少しだけ異質だった。
別にクラス内でその空間が浮いているわけではない。
ただ、そこに座る二人が学内で少々有名人だというだけのことだ。
窓際の坂田は頬杖をつき、ぼんやりと窓の外を眺めている。半分ほどしか開いていない眼は珍しい色合いの髪に隠れてよく見えない。
先ほど山崎に声を掛けたのは坂田ではなくその隣。
椅子の背もたれに背中をあずけ、優雅に組んだ足の上にこれまたゆったりと組んだ手を乗せた伊東だ。

「あ、えーと、伊東くんどうぞ」

山崎が促すと途端に静まり返る室内。もちろん伊東の発言に耳を傾けるためだ。さすが外面だけは完璧な男、クラスメイトからの信頼も厚い。それが今の山崎にとって何とも心強かった。ようやく本題に取り掛かれるからだ。

「クラスマッチは毎年団体競技のはずだけど、チームを決めるのではなくペアなのはどうしてだい?」
「え、ああ、今年は一つしか競技がないからだよ。……だよね?」
「ええ、そうよ」

今朝の委員会を欠席してしまった山崎には桂から受けた説明とプリントに書いてある事柄しか分からない。
答えている途中で自信をなくし、黒板にチョークを走らせている妙を見やる。
それに気付いた妙は一旦手を止めると伊東の方へ向き直った。

「今年のクラスマッチは生徒会の意向で競技は一つしか行われないの」
「生徒会の?」

眼鏡の奥にある切れ長の眼が細くなる。

「生徒会の発案、ね」
「というより会長の、って言ったほうが正しいかも」

そう言って妙は苦笑した。
今日の委員会は生徒会長によるこの発言から始まった。その時の会長以外のメンバー全員に浮かんだ「また始まった」という表情を思い出したのだ。

「私たちにも詳しいことは知らされてないのよ。だから伊東くんの質問にはあまり答えてあげられないんだけど」
「つまり坂本くんの独断ってわけか」

伊東にしては珍しく、苦々しく微笑む。

「今分かるのは、この競技が体育祭と遠足とかくれんぼを足したようなものだってことと、クラス内で決めたペアで行動するってこと。そして全員強制参加で、欠席者の出たクラスは連帯責任で罰ゲームがあるってことだけよ」
「なんだそりゃ」

伊東の隣から声があがる。
眠そうな眼が少しだけ開いた坂田が窓枠に寄りかかるようにして妙を見ていた。

「あのもじゃもじゃ、またくだらねぇこと考えてんのか」
「確かに。新入生歓迎会も酷かったからね」

伊東が溜め息まじりに同意する。

「僕が追う側ではなく追われる側ということが今でも納得いかない」
「歓迎会っつーかあれただのサバイバルゲームだろ」
「しかも酷く不平等なゲームだ」

外見も内面も正反対に近い二人がこうも息を合わせて新入生歓迎会とやらを批判するには十分すぎるほどの理由がある。
とにかく二度と参加したくないものであるのは間違いない。

「そう?今年の新入生歓迎会が今までの歓迎会の中で一番盛り上がったって聞いたわよ」

妙の言葉にクラスメイトも一様に頷く。一部の生徒にのみ不評ではあるが、歓迎会自体は楽しいものだったらしい。

「でも、そうね。二人はターゲットにされてたから大変だったわよね。坂田くんも伊東くんもボロボロになってたもの」
「俺の場合、ほとんどお前のせいでボロボロになったんですけどー」
「サボって帰ろうとするからでしょ」
「だからって不意打ちって酷くね?」
「あら、ちゃんと忠告したじゃない。そこから一歩でも動いたら動けなくするわよって」

にっこりと微笑む妙とは対照的に顔をしかめる坂田。
そんな様子に他の生徒もそれぞれの出来事を思い出したのか、教室内は自然と和やかな雰囲気となる。

「そろそろペアを決めませんか……」

ぽつんと取り残されたように立ちすくむ山崎は弱々しく呟いた。


2010.01.14

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