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朝の空気は綺麗だ。
それはどの季節も同じで、混じり気のない爽やかな気配に包まれると、否応なしに一日が始まるのを感じさせられる。
山崎は通い慣れた通学路にひろがる見慣れた風景を眺めた後、雲一つない青空を見上げた。
(今日こそは平穏無事に過ごせますように)
心の中でそんな事を願うのが山崎の日課だった。
しかし、というか案の定、叶ったためしは…ない。
いつものように学校へ到着し校門に立つ教師に挨拶をする。
緑の葉をつけた木のトンネルを通り抜け、もう少しで校舎に辿り着くというところで、
「委員長っ!!」
と、自分を示す役職名が耳に入った。
顔を上げ声の主を探すと、クラスメイトの一人がこちらを見ている。
聞き間違いでも空耳でもなく、山崎を呼んだのだ。
「委員長っ!!ボーッとしてないで早く来てくれよ!!大変なんだって!!」
青空に平穏無事を願ってから数十分。
思ったよりも早く平穏が遠のいた事に気付き、山崎の顔に引きつった笑みが浮かんだ。
大袈裟な様子で手招きをするクラスメイトを他人事のように眺めながら、今日は一体誰が何をしたのか、と軽い眩暈をおぼえる。
しかしこのまま倒れるわけにはいかない。
こめかみの辺りを押さえながら、山崎はクラスメイトの呼ぶ方へと急いだ。
澄み切った青空の下、平穏無事とは言い難い山崎退の一日は当たり前のように始まっていた。
冗談だよと嘘を吐く2
2008.08.02
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