長編 | ナノ

 8


「はー、一生分笑った」

坂田はあぐらをかいたまま、ぐうっと両手を上へ伸ばした。

「人をネタにしやがって」
「俺ってさ、女の子は苛めたいけど男の子はもっと苛めたいタイプだからね」

どっちにしろ苛めるんだな。とは言わず、土方はフンと鼻を鳴らした。
すっかりいつもの表情だ。

「明日は確実に筋肉痛だなー。こんなに腹筋つかうのって、ヤる時くらいじゃね?」
「腹筋つかわねーだろ」
「マジでか。土方くんって見かけによらず淡白なんですね」
「てめえが下手なんだよ」
「あ、何それ。悪いけど、俺はお前より上手いって」
「上手いってより変態の間違いじゃねーか」
「世の中の八割の女は変態なんだなあ、これが」
「くだらねえ」

土方が吐き捨てるように言えば、坂田も無駄話しに飽きたのか、「ホントにくだらねえな」と声を揃えた。

土方は足元で少し煙をあげていた煙草を踏みしめると座り込む坂田に視線を向けた。

「何で知ってた?」

何を?と言いかけて、「ああ、あれか」とヘラっと笑う。

「沖田だよ」
「沖田?」

意外な人物の名前に土方が思わず問い返す。

「何、ビックリしてんだ」
「いや。お前たちが話したりしてる事が意外で」
「ああ…なんかさ、趣味というか嗜好が似てんだよな、俺と沖田って」
「嗜好?」
「この間は拘束プレイについてだったかな」
「…」

土方の興味が一気に失せた。嗜好というより性癖だろうが!というツッコミすらする気にならない。

「俺はやっぱ縄だな。あれが白い肌に食い込んでいくのがたまんねえ。肌に赤い痕が残ってたりしたら、それだけで二回はいける。」
「へえ…」
「沖田は手錠だってさ。鍵がないと絶対とれない感じがいいんだと。あと、動くたびにする金属音が興奮すんだってよ」
「へえ…」
「土方はどっち?」
「黙れ」

坂田がさも当たり前のように質問すれば、鬼の形相で睨み付けた。

「てめえらの性癖なんざ興味はねえ。沖田から何を聞いたのか知りてえだけだ」
「なんだ、そっち?」
「そっちしかねえだろ」

坂田が面白くなさそうに眉根を寄せた。

「土方のヤローが近藤さんに隠し事をしてんでさァ」
「沖田がそう言ったのか?」
「土方のヤロー、消えてくれねえですかねィ」
「…それも覚えておく」

沖田の微妙な物真似を続ける坂田を無視して、土方は思案にくれた。
近藤に隠し事をしている。
沖田にはそれが分かっていた。ただ。

「何かまでは知らないのか…」
「土方のヤローのチン…あ?何か言った?」
「沖田は知らねぇんだな」
「だから、お前のチン」
「それじゃない。そうじゃなくて、沖田は俺が隠し事をしてるとしか知らねえんだろ?」
「お前と志村の関係を知ってるのかってことか」

ハッキリと坂田に言われれば先程までの勢いはなくなり、土方は目を伏せる。

「関係は知らない」

坂田の言葉にドクリと心臓がなった。

「お前らの関係について、沖田は知らないし気付いてもない。ただ、」
「俺が近藤さんに対して隠し事をしてるのには気付いた、か」

土方が自重気味に笑った。

「お前は何で分かった?」

沖田から聞いたのでないなら、坂田は何故知ったのか。気になっていた。

「近藤に言えないことを考えたら簡単だろ。試しに志村の名前をだしたらお前の顔が面白かったし。あの時はよく耐えたよ、俺」
「カマをかけられて見事に引っ掛かったわけか」

はあ、と土方は溜め息をついた。

「ただの冗談だろ」
「相当タチの悪い方のな」
「まあ、お前と近藤の関係なんて俺にとったらどうでもいいし。近藤の肩をもつ義理もなければ、お前を応援する筋合いもねえ。せいぜい内輪で揉めてくれ」
「そりゃどーもご親切に」
「ついでに志村とヤラせてくれ」
「調子にのんな」

坂田が立ち上がり、ズボンを軽くはたいている様子を見ながら、土方は毒づいた。

「―――――」

聞き慣れた着信音が鳴り響く。すぐにそれに出た。
自分の問題を考えてる場合じゃない。
土方は何かを振り切るように目を閉じ短く息を吐いたあと「わかった」と応えた。

「山なんとか?」

坂田の言葉に土方は「ああ」とだけ返す。
それが合図かのように、坂田は土方に背を向けて昇降口の扉へと向かった。

「さーてと。俺も土方に負けねぇくらい河上の腹をよじれさせてこようかね」

こきこきと首を鳴らす坂田を見て、不意にあることを思い出した。

「坂田」

土方が呼び止めれば、坂田が無言で振り向く。

「本当に全部冗談なのか?」
「冗談だよ」
「志村のことも?」

土方は真剣な目で坂田を見つめる。
「俺にくれよ」と言った坂田の表情に、からかいや遊び半分な気持ちを感じなかった。だからこそ、土方はあんなにも動揺したのだ。

そんな土方を、坂田は相変わらず何を考えてるのか読みにくい表情でしばらく眺めると、

「冗談だよ」

とだけ言い残し、ゆっくりと屋上から姿を消した。
トントントン…と小さくなっていく足音が聞こえなくなる寸前、土方は携帯をしまうと足早に屋上をあとにする。
バタンと扉が閉まる音。
心地よい風の流れる屋上に、再び静寂がおとずれた。

<終>

2008.06.30

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