▼ 思惑通りにはいかない坂田と高杉と妙
(銀時と妙と高杉)
「随分と無駄なことをなさいますね」
呆れた声音が響いた。妙は隣に立つ高杉を見やる。
「無駄かもしれねえな」
ククッと笑った高杉の考えは読めない。
「これ、解いてくださる?どうせ無駄ですから」
妙は縛られた両手を掲げて見せた。縄で縛った上に鎖を巻くとは、随分と厳重だ。それだけ警戒しているのだろう。
「お前の男が来たらな」
「来ませんよ」
妙が笑う。
「あの人は覚悟を尊重しますから。来るなと言われたなら、その通りにする人ですよ」
負け惜しみではない。これは妙の本音だ。
「こっちの思惑通りにならねえのもあの男だろ?」
同じように高杉が笑った。
「おーい。銀さんが来たぜー」
やる気のない声が響いたのは日の沈む前。言われた通り、たった一人で乗り込んで来た男は、ぼりぼりと首の裏を掻きながら辺りを見渡した。
「あの女どこ?お前らが攫ったメスゴリラ。ここのバナナ食い尽くす前に回収してやるよ」
緊張感の欠片もない表情。
「銀時。女ならこっちだ」
高杉が妙を連れ、銀時の前に現れる。一瞬、妙と銀時の視線が絡んだが、互いに何も言わぬまま先に銀時が視線を逸らした。
「そいつに何かあると煩いヤツが多いんだよね。さっさと返してもらえるとありがてえんだけど」
「断ると言ったら?」
「そいつ攫っても得はねえだろ」
「あったじゃねえか」
高杉がゆるりと煙管を揺らす。
「お前が一人でそこに居る。それで充分だ」
「じゃあもう用無しだな。そいつは関係ねえから返してもらうわ」
「さて、どうするかね」
愉しげに喉を鳴らす高杉。きっと妙を傷つけるつもりはないのだろう。現に妙は縛られてはいるが身なりは綺麗だ。
「志村妙、こいつはお前の思惑通りにはならなかったようだなァ」
高杉の言葉がきっかけとなり、銀時と妙が再び視線を合わせる。
「・・・・どうして来たんですか」
「へーへー、すいませんね」
「来なくていいって言ったのに」
「あーそうだっけ?よく聞こえなかったわ」
銀時は条件通り一人で乗り込んできた。敵陣の中だと知りながら。
「いくら銀さんが強くても、一人でこんな大勢を相手に無傷じゃすみませんよ」
「まあ、そんときゃお妙が護ってくれんだろ?」
へらっと笑った銀時に、妙は一瞬顔を歪めた。
「ほんとに・・・バカじゃないの」
俯いた妙の表情は見えない。震える声だけがその場に紡がれる。
妙が泣いているのだと、その場にいる誰もが思っていた。気の強い女が直面した危機に耐えきれず、涙に震えているのだと。
「・・・仕方がないですね」
しかし、それはただの妄想でしかなかったのだと思い知る。
顔を上げた女に浮かぶのは綺麗な微笑み。
「ようやく化けの皮を剥がしたか」
愉しげな高杉の声が合図だった。
妙は自分に向けられている刀を鎖で縛られた両手で叩き落とし、自分の横に立つ男に一撃を食らわせる。ちょうど鎖の部分が当たり、男は呻きながら倒れた。そのまま後ろの男に蹴りをいれ、落ちた刀を拾うと、その勢いのまま高杉に斬りかかった。煙管の煙が揺れ、キィンと高い音が響く。
「とんだじゃじゃ馬だな。大人しく捕まっていたのはわざとか?」
ギリギリと交差した刀を挟み、高杉と妙が見つめ合う。
「あら、わざと私に隙を作ったのは貴方じゃありませんか?マゾなのかしら」
妙が刀を奪う途中で高杉が手を出していたなら、こんなにも上手くいかなかったはずだ。高杉はわざと見逃したのだと妙は確信していた。
「銀時の加勢に向かわず俺に向かってくるとはな。しおらしい女は見せかけか」
「時と場合によりますでしょ?」
互角に戦っているように見えても高杉は片手に煙管を持ったまま。刀の腕は格段に高杉の方が上だ。それは妙も分かっていること。自分では高杉に敵わないだろうと。それでも妙が高杉に向かった理由。それは。
「───時間稼ぎか」
妙がふわりと微笑んだ先で、銀時を取り囲んでいた男達が倒れているのが見えた。高杉が妙とやりあっている間に銀時が始末していたようだ。そこらじゅうから呻き声が聞こえる。
「一瞬でもこちらに気をとらせ、その間に向こうの始末をさせる、か。まんまと引っ掛かっちまったな」
互いを信頼しているからこそできる手段。銀時は妙を、妙は銀時を信じ動いた。
「思惑通りに動かないのは、お前もか。志村妙」
にやりと笑った高杉を見て、妙は高杉から距離をとった。肩で息をしながら高杉を見据える。
「まあいい、せっかく来たんだ。お前ら、酒でも呑んでいくといい」
刀を下ろし、ゆったりと煙管を燻らす高杉に「貴方が一番予想外だわ」と妙が呆れた顔を見せた。
花に酔う
2015/01/23
イメージカラーはパステルです。そうです、ほのぼのです。
最初はもうね、完全に姉上をスーパーヒーローにしてしまおうと思ってました。強い女の子、戦う女の子が好きなので。
でもギンタマってどんなに強い女キャラも最終的には男が助けに入ってくれるから、やっぱそれもギンタマらしさかなと。
男に甘えないけど、男を軽んじない。それがギンタマの女じゃないかと。
それに、ラブストーリーって甘さだけじゃないですもんね(ゝω∂)てへぺろ☆
思惑通りには動かない男と女。それに抗うのもいいけれど、いっそ流されてしまうのもいいよねと。花見酒をする三人が浮かびました。こういう三角関係もいいですよね。
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